2018-03-09

男たちは呪われているのか-「アナ雪」のクリストフに見る脱ヒーロー

若干話題が古いけど、こういう対談がある。

アナと雪の女王」のクリストフはなぜ業者扱いなのか? 夏野剛×黒瀬陽平×東浩紀の3氏が男性視点で新解釈 https://www.huffingtonpost.jp/2014/08/07/anayuki-genron_n_5660493.html

ざっくり要約すると「アナ雪は女性だけで解決してしまい、クリストフはただの業者扱い。男としては疎外感を覚える」というような内容。

この対談、女の自分から見ると「???」なところが多くて、

>「わざわざ男いらないって強いメッセージを出している。なんでそこまで王子モデル攻撃しないといけないのかと」

というくだりには被害妄想めいたものを感じてしまった。

クリストフ王子様じゃないけれど、誠実で素朴ないいやつだ。孤独変人だけど、仕事家族を大切にしている。

そこらの王子モデルよりよほど親しみが持てるし、ありのまま人間らしく描かれていると思う。

ただ役回りが脇役で、「なんでも解決できるヒーロー」ではないだけだ。

そのクリストフを「業者」と呼んで、アナ雪を男の「排除」「攻撃」と感じる男性心理っていったい何なんだろう???

個人的に、「アナ雪」は「男いらない」とは言っていないと思う。ただ「ヒーローの男はいらない」と言っているだけだ。アナもエルサも自分たちの問題自分たちで解決したいし、しなきゃいけない。

ヒーローの男がいると、女は人形みたいなプリンセスとか、救われる村娘Aとか、後列で回復呪文を唱える係とか、とにかく救済されたり、弱者だったり、よくてサポート役回りを演じさせられる。物語ラストには弱い自分を救ってくれたヒーローと恋に落ちて、結婚するまでが一連の流れだ。まるで舞台装置か優勝トロフィーみたいに。

そういう王道ストーリーを完全に否定するわけじゃないけど、もう古いよねっていうのが今の時代の流れだ。

古い性役割を「抑圧」と呼んで壊そうとするのが昨今のウーマンリブであり、ディズニー作品はそういう社会を反映している。

誰かの救済を待つのでなく、みずからヒーローになること。

自分問題自分解決できるのだという確信主体性を持つこと。

期待される「プリンセス像」を捨て、「ありのままに」なることが抑圧から解放だと描くこと。

それらが今の時代に生きる多くの女性の支持と共感を集めたんだと思う。

(私個人としてはアナ雪はそんなに好きじゃなかったけど、こういう社会問題をいち早く取り扱って幼児向けのエンタメにできるディズニーってやっぱすげえなと思う)

そんな感じで「脱プリンセスありのままわたし運動は着々と進むのに対して、「脱ヒーローありのままのおれ」運動全然進まないように見える。

こっちの此岸では「美しく従順でなんでも受け入れるプリンセス像」を火にくべ始めたのに、

あっちの彼岸では「強くて賢くてなんでも解決できるヒーロー像」を街の中心に据えて崇拝し続けているように見える。「美しく従順でなんでも受け入れるプリンセス像」も現役アイドルだ。

日本では特にその傾向が強いのではないかと思う。

からそのヒーロー像、プリンセス像を正面から否定してみせた「アナ雪」に、対談の男性たちは反感を覚えたのかもしれない。

男性社会最高神であるヒーロー像」を否定することが、まるで「男という性別」への攻撃のように感じられたのかもしれない。

ただ思うのは、脇役のクリストフこそ、「ありのままのおれ像」なのではないかということだ。

かに、そういう強いヒーロー像を崇拝する男性社会はこれまで人類史で栄華を誇ってきて、結果も出してきた。歴史があるし今も続いている。

だけど、すべての男性ヒーローになれるわけではない。弱い人、賢くない人、色んな事情を持った色んな人がいる。そこを配慮せず弱者を切り捨て、マッチョイズムだけをよしとする社会は公平さに欠け賢くない。

ヒーローの強さだって言っちゃえば暴力だし、そんなのこの21世紀アナログすぎる。

から多様性時代になってるわけだし、弱いもの底上げ必要なんだと思う。アファーマティブアクションってやつ。女性もそうだけど、いわゆる「弱者男性だってそうだ。誰もが自尊心を持って生きる権利がある。

ヒーローにならなくていいし、「ありのままのおれ」でいい。

多くの男女の自尊心を削る「ヒーロー像」「プリンセス像」は一度打ち壊して、火にくべるときが来た。父権社会解体が、今世界的なムーブメントになっている。

ただここからがやっかいで、男女関係や性の問題だ。

男性はどうも「モテ」に固執してしまうふしがあるようで、女を「モノ」にすれば「男になった」と認められるような悪習がある。

まるで男が自尊心を得るには、女の人権をかすめ取らなきゃいけないみたいな言い方だ。

より多くの美しい女を取得することを自己価値バロメータとして、他者と比べあい自分いじめるみたいな悪癖がある。

女性もそういうことは普通にするけど、男性のそれは比じゃないというか、ちょっと理解範疇を超えてくる。

そこには生物的な性欲の違いや繁殖欲だけでは説明しきれない、人間的なドロドロとしたもの文化形成された支配欲や加害欲と入り混じった、「女」への憎悪・悲哀・妄執を感じる。

そういう恋愛観のまま接するからお互いうまくいかなくなる。女からすればそういう男は背後に暴力性がちらついて見えるわけで、嫌悪感や恐怖感が出てくる。性行為と性暴力って全然のものだと思うのに、相手はしばしば混同しているように見える。

そもそも自尊心自己肯定感というのは、自分の中で育てるものだ。社会的地位や容姿、「モテ」「非モテ」と関係なく、無根拠に持っていていいものだ。自己価値は異性にアウトソーシングして調達するものではない。

やはり男性も、「ありのままのおれ」になるときだ。「男らしさ」から解放されるときなのだ

Metoo」や「女性専用車両」や「女性だけの街」、性犯罪ジェンダー話題はとにかくネット炎上やすい。

そのときの会話の噛み合わなさに、いつも此岸彼岸の隔たりのことを思う。見えているものが違いすぎると思ってしまう。「女性専用」という言葉や、性犯罪者の告発に怒り狂う男性たちはあまりに不可解で、言葉が通じない恐怖がある。

「すべての男性性犯罪者ではない。俺を犯罪者扱いするな」というのがよく言われる意見だ(ノットオールメン)。しかしそんなことは自明なわけで、誰も「男全てが性犯罪者だ」なんて言っていない。

なのになぜ自分を「男性」という共通項のみで性犯罪者側に寄せ、「俺への攻撃だ」と思い込んで怒るのだろう? 同じ「善良な市民」という共通項で、被害者女性側に寄せ、性犯罪者に対して怒ることはできないんだろうか?

もちろんそういうことが自然にできている男性もいるが、現状では少数派に思えるのだ。

そういった怒りの背景には内面化された強固なホモソーシャル価値観や、ミソジニーや、「ヒーロー像」へのコンプレックスがあると思うのだが、ここらへんを掘り下げた男性自身の話はあまり聞かない。

社会で男であるということは、特権であると同時にプレッシャーでもある。うまくやれればまだいいが、うまくやれない人はやはり苦しい。

社会ゆえの苦しさを、男社会ゆえの特権でもって、女に加害したり、女に癒されようとしているように見える。そうやって留飲を下げる男性たちは歪んでいるし、やはり何かに呪われているように見える。

脱線したけど、そういったヒーローになれない男性が救われるかどうかは、男性意識問題なのだと思う。

ヒーロー像」を手放すこと。「プリンセス像」を押し付けないこと。

クリストフみたいなキャラクター否定せず、「ありのままのおれ」を受け入れること。自分と同じように、他者尊重すること。

旧来の「男らしさ」にとらわれて、自分を大きく見せようとしたり、誰かを貶めないこと。ささやか自分自身の中に自尊心を見出すこと。

そのへんが大事なんだと思う。

ツイッター観測範囲だと、そういう呪いを手放して楽になった男の人も散見するようになった。今は過渡期なのかも。

男だ女だって主語デカイ話書いたけどみんな楽になればいいのにな。いや理想論だけど理想のないリベラルって存在価値あんのか? 民主主義だって奴隷解放だって女性社会進出だってかつては理想論だったやん??って思う(このへんルトガー・ブレグマン著『隷属なき道』にくわしい)

そういう引き算がこれから時代大事なんだろうな。

呪いをひもとく面白プレゼン動画

マイケル・キンメルatTEDWomen 2015

なぜジェンダー平等が皆のためになるか―男性を含めて

https://ted.com/talks/michael_kimmel_why_gender_equality_is_good_for_everyone_men_included?utm_source=twitter.com&utm_medium=social&utm_campaign=tedspread

  • anond:20180309162913

    本人ならいいけど、違うならはてなに身元照会される可能性あるから気を付けたほうがいいよ。

  • anond:20180309162913

    酒に強くなる、かっこつけてタバコを吸う、高い車に乗る、いい腕時計をつける、 ナンパテクニックを磨く、デートコースをセッティングする 体を鍛えて強くなる、結婚して嫁と子供を...

  • anond:20180309162913

    いやあ業者って素晴らしい例えですわ 近頃の女向けのコンテンツで、メインキャラ以外の男がどう描写されているか見たら一発でしょこんなの 悪役のおっさんがまあいかにもカフチョー...

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