中国語を学んだことがない人でも、生活のうえでいくつかの単語や文章なら聞いたことがあるはずだろう。「ニイハオ」、「シエシエ」のほか、単語や発音は不正確ながら、麻雀用語や中華料理店の「イーガーコーテル(=餃子一人前;一個鍋貼兒)」なども一部の人にはおなじみではなかろうか。
しかし、近年はもうひとつ。おそらく20代から40代のモテなくてカネもないダメ男の周囲のみに限定して、上記に匹敵する知名度を誇る中国語が存在する。それはこちらである。
アオメンショウジャー・シエンシャンドゥチャン・シャンシエンラー。
これの正体は、ポルノ動画サイトに違法アップロードされた日本製のアダルトビデオの冒頭部にしばしば強引に挿入されている中国語の広告音声だ。冒頭部で30秒間ほどのムービーが流れ、その後も作品が終わるまで動画の隅っこに謎の広告文やURLが表示される。ちなみに「澳門首家線上賭場上線啦」(以下。「澳門首家」)とは、「マカオでトップのネットカジノがオンラインに登場だよ」といった意味だ。
これはどうやら中華圏の業者が、ネット上に氾濫するアダルト系の違法アップロード動画に着目。自社でいったんアダルトビデオの動画データを入手した上で冒頭部に広告を挿入し、さらに広告字幕を貼り付けたエロ動画を意図的にバラ撒いたようなのだ。
中華圏で有名な違法動画サイトを確認すると、相当数のエロ動画が「澳門首家」や似たような広告を組み込まれた状態で無許可配信されているのが確認できる。紗倉まな、戸田真琴、白石茉莉奈など有名どころの日本人セクシー女優の動画も、この無断広告に大いに利用されていた。
※動画再生中の広告文字表示のイメージ。最後まで両端に文字がずっと出てくる状態で、違法にアップロードされたアダルト動画が配信される。
エロ動画ならば、ネット上に無料でアップすれば必ず誰かが見るうえ、さらに別の動画サイトに勝手に転載されていくので、広告した自社サイトの知名度はどんどん上がる。最大手のポルノ動画サイトへのアクセス人数は1日に6000万人とも伝えられ、世界でも最強レベルの広告拡散力だ。真面目にバナー広告を貼って告知するよりも圧倒的に効率がいい。
加えて、違法行為を承知でエロ動画サイトへ日常的にアクセスしているような人物は、あやしげなオンラインカジノの顧客になる可能性も普通の人より高いだろう。手法は明らかに「真っ黒」なのだが、ずいぶん賢い広告手段を思いついたものだと感心させられてしまう。