中国のスマホ決済は、アリババのアリペイとテンセントのWeChatペイの2強の状態が続いている。しかし、2017年下半期からWeChatペイの利用率が下がり、アリペイを主に使う人が増えていると今日頭条が報じた。
現金を使うのは外国人と地方出身者ばかり
中国の都市部では、QRコードによるスマホ決済が主流の決済手段になっている。数年前の統計でも対面決済の40%から50%がスマホ決済になっていて、農村部ではスマホ決済がまだあまり普及をしていないことを考えると、都市部では対面決済の70%、80%がスマホ決済になっていると考えていいようだ。
それは、中国の都市を訪れてみればすぐに実感できる。現金というものをほとんど目にすることがないのだ。現金を使っているのは、外国人旅行者か地方からの旅行者ぐらい。朝のコンビニなどでは、ほぼ全員がスマホ決済で、現金を使おうものならレジ待ちの客に迷惑をかけてしまいそうな雰囲気だ。
▲アリペイ(支付宝)とWeChatペイ(微信支付)が、現在の中国スマホ決済の2強。ほぼすべての店舗が、この2種類の決済手段に対応している。
アリペイに集約する傾向が強くなってきた
スマホ決済は何種類も存在しているが、有力なのはアリペイ(アリババ)とWeChatペイ(テンセント)だ。この2つであれば、どの店も対応しているので、多くの人はこのいずれからをメインの決済手段としている(両方使っている人も多い)。
統計では、アリペイ55%、WeChatペイ37%となっているが、2017年後半あたりから、アリペイを主要な決済手段にする人が増えているという。2017年の統計数字はまだ集計されていないものの、すでにアリペイ2、WeChatペイ1ぐらいの差がついているのではないかと見る人もいる。また、この差は広がる一方で、数年でアリペイ一強になる可能性が出てきた。
アリペイがWeChatペイよりも優れている3つのポイント
アリペイが優勢になってきた理由を、記事は3つにまとめている。1つは金融機能の差。2つ目は安全性。3つは利用者特典の多さだ。
アリペイとWeChatペイは、同じQRコード決済だが、その由来は違っている。アリペイは、アリババが運営するECサイト「タオバオ」内でお金をやり取りするためのサイト内通貨(ポイント)を実体店舗でも使えるようにしたもの。正統的な決済アプリだ。
一方で、WeChatペイは、メッセージアプリ「WeChat」の付属機能だ。決済というよりも、利用者間でお金をやり取りできるようにしたもの。最もよく利用されるのは、動画配信などをする人に対する「投げ銭」だ。また、レストランで割り勘をする時にも使われる。WeChat上で参加者のグループを作っておき食事を楽しむ。そして、幹事役がWeChatペイでまとめて支払いをする。すると、参加者一人あたりが支払うべき額が自動計算され、幹事に自動送金され、割り勘が自動的に行える。また、微商と呼ばれる個人間取引も盛んだ。個人が日本旅行のお土産などを友人に販売するというもので、決済はWeChatペイで行われる。知らない個人から商品を購入するのは不安に思えるが、WeChat上に友人関係がすでにできていて、そのネットワークを使って販売が行われるので、ECサイトで知らないお店で買うよりも安心感があると言う人もいる。
アリペイは、連携する金融機能が充実
一方で、アリペイはそもそもが決済をするための仕組みなので、金融機能が充実をしている。その最たるものが余額宝という仕組みだ。これはアリペイ内で利用できる投資信託預金のようなものだ。当面使わない額を余額宝に預けておくと、アリババが運用をして、利息をつけてくれる。利息は事前に確定をしているわけではないが、現在の利回りは4.1%程度で、銀行の普通預金よりもはるかに高利回りだ。しかも、解約は即時、1元から可能で、一般の定期預金や投信信託のような面倒な手続きは不要で、チャージしてあるアリペイと同じ感覚で利用できる。この手軽さからアリペイ利用者が4.5億人のところ、2.5億人が余額宝を利用している。
お金に余裕のある人は、銀行預金をおろして、余額宝に入れてしまう人が多く、加熱人気となり、現在は当局から上限10万元に定める規制がかかっているほどだ。
さらに、消費者金融機能も充実している。アリペイの残高に不足があるときは、アプリの中から簡単に消費者金融を利用することができる。アリペイ独自の与信システム(利用履歴から個人の社会的信用度を算出する)芝麻信用スコアとも連動しており、必要なスコアを上回って入れば、審査などの手続きも不要で、即、アリペイにお金を振り込んでくれる。
また、ホテル、シェアカー、レストランなどの日用サービスもアリペイの中から利用できるようになっていて、これを利用すると、検索、予約、決済までがワンストップで行えることになる。
つまり、WeChatペイはどちらかというと消費者間決済に力を入れていて、アリペイは企業・消費者間決済に力を入れているという違いがある。
▲余額宝の画面。オンライン投資信託だが、使い方は極めて簡単で、誰でもできる理財として人気が高い。銀行の普通口座よりも高い利回りで運用できる。
詐欺被害にあっても保障されるアリペイ
安全性は、技術面ではアリペイ、WeChatペイとも大きな違いはない。決済サーバーがハッキングされるといった事態は、現在のところ報告されていない。しかし、問題は利用者が詐欺にあって送金をしてしまうケースだ。このような事件が多い。
アリペイでは、利用者に大きな過失がない場合は、被害金額を補填することになっている。WeChatペイは、公式にはこのような仕組みを明言していない。
特典も多いアリペイ
さらに、アリペイは特典も多い。アリペイにもWeChatにも紅包という仕組みがある。これは、企業や個人などがお年玉を送金できる機能だ。10元から50元、総額2000元などと設定しておき、お年玉を送ると、設定した金額内のランダムな額を受け取ることができ、総額がなくなったところで終了する。くじ引き感覚があるために、家族に送ったり、企業の社長が社員に金一封を送ったりするときに利用される。また、企業はプロモーションとして、大型の紅包を配ることがあり、これを楽しみにアリペイを使っている人も多い。
▲WeChatペイの操作方法。メッセージアプリWeChatのおまけ機能という位置付けなので、アカウントからウォレットを開いて、それから決済をするという1ステップ分面倒な操作方法になっている。
日常生活ポータルとなっているアリペイ、スマホ決済
アリペイは、単なる決済手段ではなく、そこに日用サービスの予約決済システムを組み合わせることで、日常生活サービスのポータルとなることを目指している。一般個人からは、決済手数料を取らず、このような連携サービスを利用することで利益をあげていこうというビジネスモデルだ。
スマホ決済は、次第にアリペイに集約されていく傾向が出てきたが、今のところ、利用者から独占による懸念の声は出ていないようだ。むしろ、買い物などの消費局面ではアリペイ、個人間でのやりとりではWeChatペイという使い分けがはっきりすると、歓迎している声が多い。
ここ1、2年で、スマホ決済の勢力地図は大きく変わっていくかもしれない。
▲アリペイに連動して、個人の信用スコアが算出される芝麻信用。高得点になると、ビザ申請が簡略化されるなど、さまざまな特典が受けられる。