「はてな匿名ダイアリー」に有料コンテンツが無断転載されていた
(はてなユーザー以外の読者の方のためにいちおう解説しておきますが)、はてなが運営するサービスに「はてな匿名ダイアリー」というのがあります。その名のとおり匿名で日記を投稿できるサービスで、数年前に話題になった「保育園落ちた日本死ね!!!」もここに投稿されて一躍注目を集めたものです。
わたしは「インターネット上で匿名で自由に発言できる権利」を原則として擁護する立場です。わたし自身はSNSでもブログでも実名を公開した上で発言しているので「インターネット完全実名制」になってもちっとも困ることはないのですが、世の中には実名で発言できない立場の人もいるでしょうからね。「勤務先の不正を内部告発したい公務員」や「配偶者からDVの被害を受けて困っている人」や「思春期特有の性の悩みをこっそり相談したい中高生」などのために、個人を特定されることなく発言できる場所が保障されているのはよいことだと思います。なので「はてな匿名ダイアリー」のようなサービス自体を否定しようとは考えていません。
ただし、「匿名をいいことに他人を誹謗中傷したり、いやがらせをしたり、権利を侵害したりする行為」については、インターネット事業者のみなさんには厳しく対応してもらいたいと常々思っています。
というわたし個人の考えを踏まえて以降をお読みいただきたいのですが、先月末、前述の「はてな匿名ダイアリー」に、わたしの著作物の一部が無断で転載されているのを発見しました。
無断転載の被害に遭ったのは「note」というサービスに発表した「匿名ネトウヨ君の自宅を突き止めて、お母さんに「おたくの息子さん、とんでもないネトウヨですよ」と告げ口してあげた話」という記事です。ご覧のとおり記事の大部分は有料コンテンツとなっていて、100円で購入していただければ読めるようになっております。「匿名ダイアリー」に無断転載されていたのは、この有料部分内の、しかも話の結末、核心部分を記した数行分でした。
読者のなかには、記事中で解説している事件の結末を知りたいという思いからわざわざ100円を払って有料部分を購入した方も多かったはずです。それを匿名のユーザーが日記にさらっと無断転載というのは、もう営業妨害にほかならないですよね。
もちろんいくら有料コンテンツでストーリーの核心部分といえども、「批評のためのやむを得ない引用」であればわたしも文句を言うことはできません(著作権法第32条)。しかし当該の匿名エントリは「批評」にあたる部分が存在せず、何の許可もなくわたしの著作物を転載しておりました。
さらに、有料部分を購入いただいた方はお気づきになったかと思いますが、有料ゾーンの冒頭に、わたしは次のような断り書きをあらかじめ挿入しておいたんですよね。
ここからは有料ゾーンになります。事前におことわりしておきますが、当然のことながらわたしの著作物についてはすべて無断転載を厳禁させていただいております(これとかこれとか参照)。もしわたくしの記事の盗用を見つけた場合、サクっとしかるべき手段を取らせていただきますので、よろしくお願いしますね。
ここまで明確に意思を表明をしているのにもかかわらず堂々と匿名ダイアリーに無断転載してくれるとは、わたしに対する挑戦ということでいいですよね??
ということで、予告通りさっそく「サクっとしかるべき手段を取らせて」いただきました。
「はてなサポート」に対応を依頼
著作権侵害に対してはてなは次のようなポリシーを設定しているようです。
はてなでは、著作権や人格権を侵害する情報の掲載を禁止事項としており、侵害情報に対しては、プロバイダー責任制限法およびそのガイドラインに基づき、情報の削除あるいは公開停止といった対応を行います。詳しい削除基準については「はてな情報削除ガイドライン」を、手続きの流れについては「はてな情報削除の流れ」をご参照ください。
まずは 「はてな情報削除の流れ」に沿って、「匿名ダイアリー」の当該エントリの削除を依頼してみました。テンプレ部分に記入した内容は以下のとおりです。
侵害情報についての各情報
掲載されているURL:https://anond.hatelabo.jp/20180226171221
掲載されている情報:当方の著作物
侵害されたとする権利:著作権
権利が侵害されたとする理由:著作権法第32条に定められた正当な引用とはいえない無断転載
著作権侵害の場合以下の各情報
申立者が著作権者、あるいはその代理人である事が確認できる資料:別途貴社に送付可
権利侵害を確認可能な方法:別途貴社に送付可
著作権等の保護期間が経過していることを窺わせる事情が存在する場合は、保護期間内である事を裏付ける証拠:―
申立者が発信者に対して権利許諾をしていない旨の記述:可
送信防止措置を希望する意思表示:可
発信者への氏名開示の可否:可
申立内容の公開の可否:可
これらに加え、「著作権侵害に対する損害賠償請求権を行使するため、発信者情報の開示も併せてお願いします」という旨の文言を付け加えておきました。
すると、申告からわずか数時間ではてなサポートから返信がきました。
はてなサポート窓口法務関連担当のXXと申します。
お手数をおかけいたしております。
本件につきましては、匿名ダイアリーへの投稿であることから、弊社の定める特例として
意見照会を経ずに情報削除を行ないます。
ただ、発信者情報開示についてはプロバイダ責任制限法ガイドラインに沿 い意見照会を
行いました後、開示可否を決定いたします。
意見照会にあたって、下記情報を要しますのでお知らせいただけますでしょうか。
■発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(複数選択可)
損害賠償請求権行使のために必要
謝罪広告等名誉回復措置の要請に必要
差止請求権の行使に必要
発信者への削除要求のために必要
その他(自由記述)
■開示を要求する発信者情報(複数選択可)
発信者の氏名
発信者の電子メールアドレス
発信者が侵害情報を流通させた際の、当該発信者のIPアドレス及びタイムスタンプ
お知らせいただき次第、情報削除と意見照会を行ないます。
どうぞよろしくお願いいたします。
おお、「匿名ダイアリー」のエントリについては問答無用で即削除となりました! はてなによると、「匿名ダイアリー」については特別な削除基準を設けているようです。
本日、はてな匿名ダイアリーのヘルプに、特定の人物に対する言及があった際の対応方針について追加しました。今後、はてな匿名ダイアリーへの投稿について、「言及された当事者から削除の申し立てがあった場合、発信者への意見照会を経ずに削除を行う」というルールを設け、運用いたします*1。本ルールははてな匿名ダイアリーに限定した内容であり、はてなが提供する他のサービスには適用されません。
(中略)
はてなは、はてな匿名ダイアリーについて、投稿者が表示されず文責を問いにくいサービスであるという性質上、特定のユーザーや個人を批判・攻撃する文章を公開する目的での利用を適切とは考えておりません。特に、投稿者が表示されない状況を悪用し、言及された当事者が掲載を望まない内容を意図的に投稿する行為は、嫌がらせ、迷惑行為に該当すると判断して差し支えないものと考えます。
引用元:はてな匿名ダイアリーへの投稿に関する削除の対応方針を追加しました - Hatelabo Developer Blog
「匿名ダイアリー」に限っては、言及された当事者から申し立てがあった場合は発信者からの意見を待たずに運営が一方的に投稿を削除できるとのことです。
前述のとおりわたしは発信者に損害賠償を請求するつもりでしたので、テンプレについては以下のように埋めて返信しました。
■発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(複数選択可)
損害賠償請求権行使のために必要■開示を要求する発信者情報(複数選択可)
発信者の氏名
発信者の電子メールアドレス
発信者が侵害情報を流通させた際の、当該発信者のIPアドレス及びタイムスタンプ
このあと1週間ほど間が空いたものの、ふたたびはてなサポートから連絡がありました。
はてなサポート窓口法務関連担当のXXです。
お手数をおかけいたしております。
発信者に意見照会をいたしましたところ、期日内の回答がありませんでした。
顧問弁護士の見解として、本件につきましては、請求者が著作権者であるとの確認ができた場合
任意開示相当であるとのことです。
つきましては、著作権者であることが確認できる資料をご送付いただけますでしょうか。
確認次第、発信者情報を開示させていただきます。
どうぞよろしくお願いいたします。
おお! なんか思ったより簡単に情報開示してくれるっぽいですね!
あとは簡単でした。わたしが「note」に発表した「匿名ネトウヨ君の自宅を~」のページ全体をPDFに変換してはてなサポートに送ったところ、翌日に(早いなあ!)返信がありました。
はてなサポート窓口法務関連担当のXXです。
お手数をおかけいたしております。
お送りいただきありがとうございます。下記の通り、法令に基づき情報を開示します。
尚、プロバイダ責任制限法第4条の3では「発信者情報の開示を受けた者は、 当該発信者情報をみだりに用いて、
不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。」と規定されております。
従いまして、情報の取扱に際しては、ご留意いただきますようお願いいたします。
投稿時のIPアドレス: XXXXXXXX
投稿時間: XXXXXX
氏名:登録情報なし
メールアドレス: XXXXXXXXXXX
どうぞよろしくお願いいたします。
おお~! 見事、発信者情報を開示してもらうことができました。よかった……。正式な手続きをすればちゃんと情報を公開してくれるわけですね。どっかの財務省とぜんぜん違いますねー。
しかしごらんのとおり、氏名については「登録情報なし」となっています。このユーザーははてなID取得時に氏名を登録していなかったということでしょうかね?? これでは、すぐに法的手段を取ることは難しそうですね。
とりあえず先方のメールアドレスは教えてもらえたので、すぐに連絡を取りました。現在、損害賠償請求について示談交渉中です。
本件の特殊性
というわけで、少なくともはてなの場合は発信者情報の開示はかなり速やかに行ってくれることが判明しました。サポートとのやりとりはすべてEメールのみで、書面を要求されることもありませんでした。
ただし、本件の特殊性についてもちょっと鑑みていただければと思います。わたしの個人的な考えなのですが、今回の開示手続きが速やかに完了した要因として、本件が著作権侵害をめぐる案件だったこともあるのではと思っています。
「著作物の無断転載」というのは、これはわりと白黒ハッキリ付きやすいタイプの案件だと思うんですよね。特に今回はわかりやすい形で無断転載しちゃってましたし、自分が著作者であることの証明もそれほど難しくありませんでした。実際にはてなの顧問弁護士さんが判断して発信者情報の開示に踏み切ってくれました。
これが「名誉毀損」についての訴えだったら、もしかしたらもうちょっと手間や時間がかかっていた可能性もあるのではと思っています。もちろんわたしは法律家でも運営でもありませんから、個人的な想像ですけどね!
ただし、「匿名ダイアリー」といえども権利侵害についてははてなはきちんと対応してくれることが明らかになりましたので、みなさんも被害に遭ってしまった場合にはサポートに相談してみたらいいと思います。