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ニューヨークの交通系IC事情から日本の「キャッシュレス」ブームを考察する:モバイル決済最前線

一言でキャッシュレスと言っても目標は様々、狙いを定める点が重要

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▲ニューヨーカーの主要な足となっている都市交通システムのMTA


モバイル決済をテーマとして扱う本連載だが、今回は、世界の交通系カードの最新事情を紹介したい。モバイル決済の発達を辿ってみると、交通系カードはなくてはならない存在とも言える。

日本ではFeliCaをベースとした交通系ICカードが広く利用されており、特に都市部のユーザーにとってはなくてはならない存在だろう。日々のコンビニやレストランの支払いも交通系ICカードで......という人も多いと思われ、実際に筆者が一番使っている決済手段も、Androidスマートフォンに導入しているモバイルSuicaだ。

日本と同じように、交通系ICカードを物販にまで拡大した例は世界でもいくつかの場所でみられる。例えば日本と同じFeliCaを採用している香港の「八達通(Octopus)」、台湾の「悠遊卡(EasyCard)」、シンガポールの「EZ-Link」、韓国の「T-money」などは、日本と同じような使い方ができる。

かく言う筆者も香港を訪問した際は、ほぼ八達通とApple Payのみで過ごしている。そのためここ数年は、小銭とはほぼ無縁の生活を送っている。

しかし、国レベルで交通系ICカードの統一が行われている日本や韓国、台湾、そして都市国家の香港とシンガポールを除けば、まだ世界の多くの国では都市ごとにバラバラの交通改札システムが導入されており、互換性はない。過去にはフランスなどでこれを共通化する試みがあったものの、さまざまな理由で頓挫しているようだ。

長距離の都市間交通も含めれば、特に欧州では「シーズンチケット」と呼ばれる特別なタイミングで発行されるチケットが多種存在するなど仕組みが複雑で、なかなか日本のようにはいかないというのが現状である。

また、決済の仕組みが異なる例もある。パリの都市交通で利用されている「Navigo」は、非接触ICカードながら、仕組み的には「1週間利用」のような定期の仕組みのみに対応しており、日本のようなバリューストア型(つまり残額チャージタイプ)ではないため、短期の旅行者には非常に使い勝手が悪い。ましてや物販にまで対応する交通系ICカードはほぼ存在しておらず、「あくまで乗り物を利用するためのもの」という認識だ。

こうしたなか、米ニューヨークが2019年の「交通系ICカード」導入に向け、新たなステップに踏み出している。今回は、このあたりを少し追いかけてみたい。

「磁気カード」から「非接触ICカード」に進化する
ニューヨークの挑戦


ニューヨークを訪れたことがある人はわかると思うが、慢性渋滞に悩まされるこの都市で公共交通は非常に重要な位置を占めている。周辺地域の交通網を管轄するMTAでは1990年代初頭から「MetroCard」という磁気カードを導入し、現在もなお運用を続けている。

MetroCardにはいくつかのタイプがあるが、チャージ対応のバリューストア型の標準的なプリペイドカード方式、頻繁に利用する地元ユーザー向けの銀行口座と結びつけてオートチャージ機能を付与したEasyPay方式などが代表的なものだ。

旅行者は主に前者を利用する。手順としては、カード購入時に金額を決めてクレジットカードか現金でチャージしておき、改札通過時には読み取り装置にカードを"スワイプ"しながら回転扉を抜ける......のだが、これが非常にストレスフルで、コツをつかめないと読み取りエラーが頻発してなかなか改札を通過できない。また大きな旅行カバンを抱えた旅行者にとって、この不自由な改札は不便極まりない。

すでに運用から25年近くが経過するが、苦情の声が会社に届いたか、ようやく新システムへの乗り換えが間もなくスタートする。MTAの公式プランは、2017年10月に発表された。

具体的には、現在磁気カードベースのMetroCardを非接触ICカードタイプのものへと置き換えていく。従来のMetroCardのように自販機でのカード購入とチャージのほか、新たに契約店舗(おそらくWalgreensやDuane Readeのようなドラッグストアやコンビニ)でのカード購入や代理チャージも可能になっている。

さらに「オープンループ(Open Loop)」と呼ばれる仕組みにも対応し、非接触決済対応のATMカード(デビット)やクレジットカードで直接地下鉄やバスに乗れるようになるほか、「Apple Pay」のようなモバイル端末で提供される仕組みも利用可能になっている。

これはロンドン交通局(TfL)で導入されているオープンループの仕組みとほぼ同等で、実際にロンドンでのシステム導入実績を持つCubic Transportation Systemsが開発を請け負っている。

同システムの導入予定としては、最終的に2019年までに500の駅、600台のバスに導入を目論んでおり、2018年後半以降にニューヨークを訪問した利用者は先行してサービスを試せる可能性がある。なお、500という数字は実際のMTAが管轄する地下鉄の駅数よりも多い。そのため、周辺の近郊鉄道の駅なども含んでいると予想される。

実際、 Long Island Rail Road(LIRR)やMetro-North Railroadといった近郊鉄道も同システムへの対応を予定している。こうした鉄道会社も連携することで、これまでいちいち切符購入の必要があるため面倒だった、これら鉄道の利用ハードルが格段に下がることにもなるわけだ。


▲1990年代初頭の導入時は先進的だったMTAの改札システムも20年以上の時を経てリプレイスの波が近付いている。写真はWall St(2/3)駅の改札。黄色い枠の非接触読み取り装置がある


▲中を見ると非接触リーダーの存在を示すマークが見えるが、同時にこれはイメージセンサーを搭載して各種2次元バーコードの読み取りも可能なもの


▲現行のMetroCardと券売機。基本的には同カードを購入してチャージしながら使う


この新改札システム導入の噂は昨年9月ごろから出始め、一部駅で「非接触対応読み取り装置」が取り付けられた改札の写真がインターネット上にアップロードされていた。

実際、筆者が今年2018年1月にニューヨークを訪問したところ、写真が掲載されていたWall St(2/3)駅のほか、34st - Penn(A/C/E)駅などでその存在を確認できた。リプレイスとはいっても、現状は既存のMetroCardユーザーも多く残っているため、当面は磁気カードリーダーとの併設を経て、徐々に新システムにユーザーを誘導していく形態になると思われる。

なお読み取り装置は現在無効化されており、iPhone等をかざしても何も反応しない。装置をよく見ると、非接触読み取りを示すマークのほか、QRなどの2次元バーコード読み取りが可能なイメージセンサーの存在も確認できるため、「磁気」「NFC」「2次元バーコード」のミックス形態での運用となる可能性もある。具体的なサービス開始時の発表に期待だ。

世界で導入が進む「ロンドン方式」
ニューヨークとの違いは?

交通改札システムにおけるオープンループ方式の一番のメリットは、利用者が券売機に並んだり新たにチャージ式のカードを買う必要なく、手持ちのカードやスマートフォンさえあればすぐに改札を通過できる点だ。

またカード発行にはコストが発生するが、例えばロンドンでは海外からの訪問者が多い国際都市であり、月間のOyster発行枚数だけで50万枚を突破するという状態だった。一度きりの旅行者もいれば、ロンドン訪問時に毎回Oysterカードを忘れてくるうっかりさんも多く、このカード発行負担はすべて運営母体であるTfLが被ることになる。

オープンループを採用した理由には、こうした利用者とサービス提供者の両方にとってメリットになるという目算があったわけだ。実際、全交通量の半数近くをすでにこうしたオープンループ方式の改札処理が占めているということで、それだけ効果があったことを示している。



▲英ロンドン市内を走る2階建てバス。現在同市内のバスはすべて現金を受け付けていない


▲非接触の交通系ICカードでは代表格の「Oyster」。ロンドン市内の交通システムを管轄するTfLや近郊鉄道に乗車できる


今回、ニューヨークは仕組み的にはロンドンに近いものを導入しているものの、両都市での運賃ルールが大きく異なっているため、システムのレベルでは異なったものになっている。

具体的には、ニューヨークでは地下鉄やバスは一律料金(大人2.75ドル)となっており、どんなに長時間乗っていようが料金は変わらない。しかも、改札時に徴収が行われるため、改札の出場は完全にフリースルーとなっている。

対してロンドンの場合はゾーン制を採用しており、ゾーンに応じた課金が行われる。しかも「オンピーク」と「オフピーク」で料金が異なるほか、「料金キャップ」というものが存在する。これは1日あたりの支払額が一定に達するとそれ以上課金が行われなくなるというシステムだ。実質的に「1日券」と同様の役割を果たしている。

そのため、ロンドンでのオープンループ導入では「バス 地下鉄 料金キャップ」という順番で3段階にわたって計画が進められており(実際の計画書では「Phase 1」「Phase 2」と表記されていた)、非常に複雑なものとなっている。

また仕組み上、入場と出場でカードのチェックを行わなければいけないほか、オープンループの仕様で定められている「500ミリ秒」の改札通過を実現するため(Suicaの場合はさらに厳しく「200ミリ秒」)、ボトルネックとなるクレジットカード処理を高速に行うための特殊なテクニックが導入されている。
技術の詳細はここでは説明しないが、アイデア的には無人レジで話題のコンビニ「Amazon Go」の決済システムと同様のものだ。

このオープンループの仕組みはシンガポールでも導入が進んでいる。システム的にはロンドンの仕様をそのまま導入したようなイメージだ。ここで運用されている地下鉄のMTRでは、日本の鉄道に似た距離制運賃となっているため、ロンドン同様に入出場でのチェックが必須となる。

同国での交通システムを運用しているLTAによれば、非接触対応のATMカードやクレジットカードのほか、モバイル端末での改札通過を可能にする計画だという。
ただ、筆者がトライアルに参加した2017年5月時点では、同国の交通系ICカードであるEZ-Linkの機能(アプリ)を持たせた専用のプリペイドカードが必要な状態で、まだ一般的なカードの利用は行えなかった。

ただし一方でメリットもあり、オープンループで問題となる処理の遅さを感じさせることなく改札を通過できていた。これはかなり速く、厳しいシンガポールの通勤ラッシュの状態でも、ある程度行列を裁ける程度に使えるほどだった。シンガポールは近々訪問予定があるため、改めてチェックしてみたい。


▲シンガポール内をカバーする地下鉄のMTR。過去にはFeliCaベースのシステムを導入していたが、現在はType-A/BベースのEZ-Linkに切り替わっている




▲EZ-Linkの機能に対応した銀行カード(Mastercardプリペイド)。プリペイドの残額だけでMTRの乗車が可能

▲実際に駅での非接触カードを使った乗車の様子。残額が表示されているのが通常のEZ-Linkで、「Bank Card Usage」と出るのがオープンループの仕組みを使った銀行カードでの通過


シンガポールはロンドンと似たような事情を抱えている。それは、交通系サービスの外国や他都市の利用者が非常に多い点だ。EZ-Linkの発行に関する負担はOysterに近い状況にあり、将来的には専用カードよりも汎用のデビットカードやプリペイドカードがその利用の中心になるだろう。

また現在、シンガポールではコンビニ等でEZ-Linkを使った物販が行えるようになっている。ただこれも、外国人にとってはいちいちチャージの必要があるEZ-Linkよりは、銀行口座に直接結びついているデビット/クレジットカードのほうが楽であり、さらにシンガポール滞在のためだけに専用カードを購入しないで済むメリットも大きいのが実情だ。

実際、シンガポールの多くの小売店ではApple Payなどの支払いが可能であり、以前と比較してもほとんど現金を使う機会は減っている。観光・ビジネス拠点として国を挙げて整備しているシンガポール政府や業界関係者の意向も反映されているのだろう。


▲普通のMastercardプリペイドなので、店頭での決済もそのまま利用できる

翻って日本の事情を考えてみると、同じ「キャッシュレス社会」を目指すにしても、その方向性によってさまざまな切り出し方があることがわかる。

国民の利便性をさらに追求するのか、国や金融機関が現金の維持コストを減らすためだけのものなのか、あるいは外国人にもフレンドリーな環境を目指すのか、それとも単に他国のフォロワーとなっているのか......。

筆者としては、このあたりの議論が深まらずに「キャッシュレス」という言葉だけが一人歩きしている現状は少々違和感を感じているところだ。

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