この記事は日経 xTECH有料会員限定ですが、2018年3月10日5時まではどなたでもご覧いただけます。

 スカイアクティブが革新的とされるのは、世界最高の圧縮比である14を実現したからだ(関連記事1234)。圧縮比を高めるほど、熱効率を上げられる。ただノッキング(異常燃焼)しやすくなり、上げるのには限界がある。2010年頃の他社エンジンの圧縮比は10程度。マツダが14を狙うと発表すると、自動車業界に衝撃が走った。

 ブレイクスルーのカギを握ったのが、吸気弁と排気弁を同時に開けるオーバーラップの拡大や排気系の構造刷新、クールドEGR(排ガス再循環)など。スカイアクティブにつながる多くのアイデアは、1980年代に考えたものだった。

 例えば排気弁の開閉時間を変えてみると、トルクが大きくなるときはノッキング性能が良くなる。いいじゃないかと思って調べると、圧力差の関係で燃焼した後の高温の排ガスを排気側に吸い出す効果があった。

 吸排気弁をともに開くオーバーラップを長くすると、トルク変動が大きくなる。原理を突き詰めてみると、(4本の流路を2本にまとめた後で1本に合流する)4-2-1排気系を上手く利用してオーバーラップを大きくすれば、トルクを増やして効率を上げられた。

スカイアクティブの4-2-1排気系。うねるような独特の形(出所:マツダ)

 クールドEGRで、排ガスを冷やして気筒に戻す試験もやりました。ノッキングしにくくなり、排ガスの温度をぐっと下げられる。2006年にスカイアクティブの開発を始めましたが、ほとんど80年代の仕事が基になっています。

他人の提案なんて、みんなやりたくない

 先行開発や研究所にいた頃は、いろいろ提案したけれど、実際に車両を設計する商品開発の人たちに、使ってもらえません。結局、他人の提案したものをみんなやりたくない。提案するけれど、誰も使ってくれない。ずっとそう。腐りますよ、そりゃ。クールドEGRは結局、他社が先に実用化しました。

 商品開発の人たちも同じ技術者ですから、気持ちが分からんでもないんです。何で他人のアイデアを実現するのに毎日残業して苦労せにゃいかんのだ、と思うわけです。開発途中に不具合が出ると、自分たちが駆けずり回る。何であいつの提案のために・・・・・・と。

 自動車開発で、新技術を導入するハードルは高い。安全性と信頼性をとりわけ重んじるからだ。結果的に、実績のある従来技術を使い続けることが多くなる。

 先行開発や研究というのは、本当につらいもんです。2000年の少し前にも新しい燃焼方法を提案しました。こりゃいいやと商品開発部門が珍しく言ってくれて。けれども最後にボツ。

(写真:加藤 康)

 実車で走らせる最終段階で問題が起こり、その場で解決策が分からなかった。結局、従来技術を使って商品化することになりました。こちらは何も言えないわけです。

 一緒に開発していた若い技術者がいてね。ものすごいショックを受けていた。自分が開発した技術を商品として世の中に出すというのが、技術者のモチベーションなんです。5年も6年もかけて開発したのに、あっという間にパーですから。