川口 現在はオプジーボばかりが注目されていますが、日本は他の抗がん剤や生活習慣病薬なども高い。もっと費用対効果を考えて値付けするべきです。
上 中医協だけで決めている限り、それは難しいと思う。基本的に競争がないと値段は下がりません。
その点、アメリカは、製薬メーカーが何とかして使ってもらうために価格を下げます。アメリカで、オプジーボの値段が下がったのも対抗薬のキートルーダ(メルク社)が出てきたからです。
特にジェネリック(後発薬)はどんな企業でも参入することが可能なので、競争原理が働き価格は自然と下がる。
しかし日本では全ての値段を中医協が決めてしまうので、ジェネリックも海外より高い。アメリカのように「マーケット」が値段を決めればこんなことにはならないのですが……厚労省も中医協も製薬メーカーに便宜を図って値段を決めている。当たり前ですよね。大事な天下り先なんですから。
川口 アメリカには「サンシャイン法」と呼ばれる「医師への利益供与の情報公開制度」がありますが、日本では製薬会社の任意に留まっています。何しろ公文書の公開ですらちゃんとされないのがこの国ですから。
都合の悪いことは隠す。結局、意思決定者が分からなくなり、後から責任を追及できず、そのツケに苦しむことになる。
上 問題なのは追及しようとする姿勢すらないことですよ。本来、大臣は役人の擁護者ではなくて国民の代わりの「監視者」です。今回のオプジーボのように、払わなくてもいい多額のカネを国民が負担させられている。そのことをちゃんと問題にすべきです。
実は、国が価格統制しない医療分野は伸びる傾向があります。顕著なのが不妊治療です。不妊治療は成功報酬で、ローン商品もある。出産にかかる費用を高所得者からは多くとって、低所得の人からは少ししかとらない病院もあります。
川口 価格統制されている限り、医療産業は世界で戦えないでしょう。
上 すべての値段を決めようとするからおかしくなるのです。市場に任せて、低所得者を救済すればいい。
川口 それをしないのは厚労省としては、価格統制しないと国民皆保険制度を維持できないと考えているからでしょうね。彼らにすれば「善意」でもあるのでしょう。しかし現実には害を及ぼしている。「タチの悪い善意」ですよ。
上 多くの人は、肺がんになってオプジーボを使う可能性より、介護を受ける可能性が高い。もちろん肺がん患者を救うことは大切なことですが、1500億円ものカネがぶち込まれていることに、もっと怒ったほうがいい。
川口 健康保険組合は健康な人たちの代弁もしなければいけません。けれどもその声が小さすぎます。
今回の日本のオプジーボのケースは、メディアが薬価問題を取り上げたことが値段の改定につながりました。
上 ただ大手の新聞は取り上げなかった。テレビもそうです。それは製薬会社から広告料が入っているからでしょう。川口さんが発行する『ロハス・メディカル』にはその縛りがないから、厳しいことも書いている。
川口 もう一つ見逃せない問題は、国の予算は国会で審議されなければならないのに「新薬の薬価は予算の枠外」になっていることです。
新薬で増えた分の費用を、国は無条件で払わなければいけません。その増えた分を、2年に一度の診療報酬改定の際に、既得権益として医療費に組み込んでしまうのです。これでは国民の知らない間に医療費が膨れ上がるのは当然です。こんな制度は即刻やめるべきです。
上 さらにオプジーボの場合、日本臨床腫瘍学会の専門医しか処方することができないのも問題です。その学会は実は国立がん研究センターの組織で、国立がん研究センターは厚労省そのものです。
自分たちで薬価を決め、自分たちの息がかかった専門医しか処方できないようにしているんです。彼らからすれば「自分たちが責任を持たなければいけない」という正義感なのかもしれませんが、これは利益の独占です。
本来ならもっと健康保険組合が追及しなければならない。彼らは国民の代理人なんですから。