ボクシング漫画の傑作と言われ、1968年の連載開始から今年で50年を迎えた「あしたのジョー」。主人公・矢吹丈がライバル・力石徹と戦った「伝説の一戦」はあまりにも有名だが、その漫画の場面をスクリーンに映しながら、アナウンサーが即興で実況中継する販促イベントが先月、東京都渋谷区の書店で行われた。マイクを握ったのは、これまで数々のプロレス実況を経験してきたフリーアナウンサーの清野茂樹さん。会場を訪れたファンは、白熱の実況に聴きいりながら、名勝負を堪能した。【浜名晋一】
イベントは清野さんとブックディレクターの幅允孝さんが企画。清野さんが「ストーリーが人間くさくて秀逸」と絶賛する「あしたのジョー」。しかし、「ある世代より上の読者にとってはバイブル的な存在でも、30歳代以下は知らない人も多い」(幅さん)というのが現状といい、作品の魅力を広く知ってほしいとイベントの開催を思いついた。
スクリーンに試合を描いた漫画の場面が次々と映し出されると、清野さんがその模様を実況した。
壮絶な展開の行方は…
東京・後楽園ホールを舞台に行われたバンタム級8回戦の試合は、序盤から激しいパンチの応酬で壮絶な展開となる。矢吹、力石ともそれぞれダウンを喫した後、迎えた運命の最終第8ラウンド。ノーガードのまま、両者動く気配を見せず、時間が過ぎてゆく。
「左の拳が少し動きました。矢吹が先に仕掛けるのか。矢吹が左ストレート打ちにいった。矢吹打って出ました。矢吹猛烈に左ストレート。力石は右で返していく。クロスカウンター、これをはじいて、右のダブルクロスは矢吹。しかし、ダッキングで返した力石。左のアッパーカット!矢吹の顔面をとらえました」
「矢吹大きくのけぞってダウンしました。矢吹ダウン。マットにはいつくばりました。力石のアッパーカットが矢吹をとらえました。恐るべし力石徹のアッパーカット! 矢吹ダウンだ。矢吹立つことができるか。レフェリーがカウントを取りに行きます。矢吹ゆっくり立ち上がろうとしますが、今口から血をはき出しました。カウントはエイト……。あーっと、バランスを崩した。矢吹やはり効いている。ナイン、テン。やはり立てなかった。矢吹ノックアウト、勝ったのは力石徹です。力石勝ちました。後楽園ホールは大歓声に包まれています」
清野さんは全146ページにわたって描かれた試合の模様を、約40分かけて実況。参加者からは「実況にはらはらした」「言葉によって感動が増した」といった声が上がった。「面白くするために実況はおおげさにした」と語る清野さん。今後も違う漫画で実況に挑戦する考えだ。