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制作費1億円を貧しい人たちにばらまいてしまった
ドレイクの仰天ドキュメンタリー MV

金井哲夫 金井哲夫 Mar 7 2018

その場にいた客たちのためにスーパーの商品をすべて買い上げたり、貧しい家庭の若者や家族に現金や車を惜しげもなくプレゼントしたり……ドレイクがこんな行動に出たのは、元ラッパーで政治活動家のある男の一言だった。

dir
Karena Evans
pr
Popp Rok
ex pr
Director X, Taj Critchlow
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カナダはトロント出身のラッパー、ドレイクの新曲で全米シングルチャート1位となった「God’s Plan」(神のおぼし召し)の MV は、ビックリ仰天のドキュメンタリーだった。

最初に「このビデオの制作予算は99万6631.90ドル(約1億600万円)だった。それを全部ばらまいた。レーベルには内緒だ…」とメッセージが出る。

舞台はアメリカのマイアミ州マイアミ・デード郡。アメリカでももっとも犯罪率の高い地域のひとつであり、経済的に最低限の生活しか送れない世帯が約14パーセントと、お洒落なリゾート地の陰に隠れた貧しい地域だ。

まずは、ランニングシャツ姿のおじさんが、なにやら叫んでいるところから始まる。「テレビでデンゼル・ワシントンを見たが、いい男だ。オレも、何も持ってないがいい男だ。いい人生だよ」という彼の主張を聞き、にやにや笑うヒマそうなおじさんたち。

そしてドレイクの歌が始まると、ドレイク自身が街を歩き、スーパーでは商品をすべて買い上げて客に「自由に持っていけ」と言い、若者や家族に金を配ってゆく。そのほか、高校、消防署、ホームレスのシェルター、DV を受けて家族を失った女性や子どもたちの施設などに多額の寄付をして回る。

最後に冒頭の男性がまた登場し、「いい人生だ。2020年の大統領選挙にオレは出るかも知れねーぞ。新しい大統領はこんな感じだ」と締めくくる。

ドレイクは、カナダの学園ドラマで子役のころから活躍していたトロントのスターだ。それがなぜ、トロントではなくマイアミの人たちに施しを行ったのかと言えば、元ラッパーで政治活動家のアンクル・ルークことルーサー・キャンベルの言葉に動かされたからのようだ。

ラップの王様とまで呼ばれたキャンベルは、マイアミ・デイド郡に住んでいる。2011年にはマイアミ・デイド郡知事選挙に出馬し、候補者11人中4位と善戦した。そんな彼が、2011年にマイアミの週刊誌マイアミ・ニュー・タイムズに掲載したコラムでこう話していた。国中の有名なラッパーたちがマイアミに暮らしているが、我々のビーチを独占し、ナイトクラブを借り切って、マイアミの美女と寝てる様子を見るのはもううんざりだ。彼らは地元の経済には何ひとつ貢献していない。マイアミの子どもたちを支援して欲しいと。

マイクロブログ・サービス「ミディアムの記事」によれば、キャンベルの批判に対して「クラブに通って女と寝る以外にやることがないからだ」とドレイクは反論したものの、翌年にはマイアミのマンションを引き払い、キャンベルもそれを称賛したという。

マイアミの映像制作会社 Chromahouse のサイトには、この MV の撮影に参加したマイアミの映像作家 Marco Sroka の話が載っていたが、それによれば、常にドレイクは5台のキャデラック・エスカレードに警備チームを従え、連邦捜査官も一人付いて、万全の警備態勢を敷いていたというから大変な騒ぎだったようだ。

貧しい人たちに大金をばらまく行為には賛否両論あるだろうが、これまた賛否両論ある大食い大会を見るような痛快さがある。これには「God’s Plan」のソフトな曲調がよくマッチしている。しかし歌の内容は、「自分から面倒は起こしたくない。でも大人しくしてるのも骨が折れる。いろいろうまくやってこれた。仲間がいてくれてよかった。でも、みんなオレに酷いことが起こればいいと願ってる。それは神のおぼし召し」といった感じ。ちょっと拗ねたような歌詞も、この映像に妙に合っていて面白い。


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金井哲夫

雑誌編集者を経て、フリーランスで翻訳、執筆を行う。