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俺はなにしてきたんだ
商品開発の人たちはいいですよ。何を開発しても、絶対に商品になりますから。“プチ充実感”を味わいたかったら、商品開発です。
先行開発部門や研究所の人は何年もかけて、あっさりボツ。もちろん、全てが無に帰すわけじゃありません。失敗の経験を生かして、次の提案につながります。でもね、5~6年分を無駄にしたと思うむなしさたるや。つらいですよ。
先行開発部門や研究所には、見た目の成果をほとんど出せないままに何十年間を過ごす人がいっぱいいる。俺はなにしてきたんだという感じになります。長く経験して知識を得られても、自分の提案がモノになって欲しいという思いでみんなやるんです。ないとなると、寂しいもんです。
それでも、考え方や知見を提供することで、会社に役立っているんです。それを立派な成果と思って、仕事するしかないじゃないですか。そう思わないと、やっていられない。
転機は「外圧」だった。2012年から始まる欧州のCO2排出量規制である。120g/km以下にする極めて厳しい内容で、マツダは技術開発に苦戦する。白羽の矢が立ったのが人見だ。スカイアクティブの開発が始まった2006年。人見は52歳になっていた。
会社人生の最後にスカイアクティブを出せました。ずっとむなしく、何もないまま会社人生は終わると思っていました。
実は先行開発時代に、軽い提案で採用してもらえた技術があって。米国の「ULEV(ultra-low emission vehicle)」規制対応のときのこと。部品1個の追加で排ガス性能を上げられると提案したんです。簡単にできることは、すぐ採用。
結局、エンジン開発のモチベーションは厳しい規制なんですよ。めちゃくちゃ安くて簡単に規制に対応できると言えば、あっさり採用です。
運があるのかないのか
逆に規制といった「外圧」がなければ、先行開発や研究所から提案しても、コストが少し上がったり、技術的なリスクが伴ったりすると、商品開発の人たちは苦労して採用する必要はないな、となるんです。しょうがないんですが。
スカイアクティブの開発が始まったのは、2012年に始まるとてつもなく厳しい規制に対応しなけりゃならんことがきっかけです。思いつきで到達する水準じゃありません。商品開発の人たちは、技術開発戦略をまとめる金井(誠太=現・会長)に技術を提案してはえらく怒られて、頭を抱えていました。
そんなとき、私に相談が来ました。世界一の高圧縮比にして、オーバーラップを大きく、排ガスを掃気してと、80年代から考えていたことを伝えました。それがスカイアクティブ。今でこそ華々しく持ち上げてもらえますが、昔に考えたことばかりです。
私に運があるのかないのか。運のあるなしは、自分の見方次第ですから。自分より不幸な人を見てマシだと思うのか、自分より幸せな人を見て、俺は何と不幸だと思うのか。私は真ん中くらいかな。最後にモノにできて、最悪ではなくなった。会社人生の大半を最悪だと思ってましたけど。
[敬称略、後編「すごい技術もたった一つの課題で終わり」(2018年3月8日公開予定)に続く]