1.はじめに
森友学園の問題に関し、土地の売買などに関する財務省内の決済文書について、財務省が一度決済をとった文書の一部を書き換えていたことを朝日新聞がスクープしました。これを受けて財務省は3月6日に調査結果の回答を国会で行いましたが、それは、「現在、大阪地検特捜部の捜査を受けているので回答できない」という内容でした。しかし「地検の捜査を受けている」ことは国会への回答を拒む理由となるのでしょうか。
2.国政調査権の趣旨・目的
憲法62条は、議院の権能として国政調査権を明記しています。国政調査権には、国政に関する調査、証言ないし記録の提出を求める権能があります。また、国政調査権の目的は、立法、予算審議、行政監督などと解されています。
3.一般行政権との関係
ここで、財務省は一般行政権の一部であり、行政権の行為の合法性・妥当性に関しては、全面的に国政調査権の対象となるとされています。これは、国会から信任を受けた内閣が行政権を統括するという議院内閣制の下、国会には行政監督権が認めているからです。
4.検察との関係
ところで、6日に財務省の担当者は国会内で、「大阪地検特捜部による捜査」を理由にあげ、回答を拒みました。
たしかに検察は行政庁ではあるものの、準司法機関です。そのため、司法権の独立に配慮した国勢調査権の行使が必要となりますが、①検察権の行使に政治的圧力を加えることが目的と考えられる調査、②起訴事件に直接関係する事項や、公訴追行の内容を対象とする調査、③捜査の続行に重大な支障をおよぼすような方法による調査、の①から③にあたらない国勢調査は行うことができるとされています(芦部信喜『憲法 第6版』319頁)。
5.まとめ
今回の財務省の決済文書の書き換えに関しては、まだ検察に対して告訴・告発などは行われていません。したがって、国会が財務省の決済文書の書き換えに関して国勢調査を行うことは検察との関係でも可能であり、財務省は行政庁として国会の国勢調査に対して誠実に回答や書類の提出などを行う必要があります。
また、内閣は一般行政事務や官吏に関する事務を掌理し(憲法73条4号)、国務を総理し(同1号)、内閣総理大臣は行政各部を指揮監督し(72条)、内閣は行政権の行使について国会に対して連帯して責任を負っています(66条3項)。
安倍首相や麻生大臣ら内閣は、「財務省が悪い」と他人事のような顔をしていないで、国会に対して誠実に対応することが求められます。
■参考文献
芦部信喜『憲法 第6版』317頁