こういう煽り気味なタイトルの本は、普段あまり手にしない。しかし自分で電子書籍を試しに出版してみようと思って、この本も読んでみることにした。というのも、電子書籍関連の本は、歴史が浅いということもあるのだろうが、思いのほか数が少ないのだ。
しかも最近出版されたものはほとんどなくて(紙の本で探した限りでは)、だいたい2013年前後に出版されたもので止まっている感じ。そして本書も2012年に出版されたものである。
しかし結果的にこの本は「アリ」である。
単に「電子書籍をどう売るか」ということだけではなく、これからの時代の「個人事業のあり方」についての指針をも示してくれている本だからである。だから、ここで書かれているのは決して意表をついた裏技的なことではなく、実にまっとうなセオリーである。
「本書で語られていることは、『読者と信頼関係を築き、電子書籍を販売する』という、いわばビジネスの〝原理原則〟に基づく方法論なのだ」(10頁)
とはいえ、もちろん主題は電子書籍を売る方法であり、当然そこでも的確な指摘がなされる。
たとえば、プロ作家は出版社との契約によって出版するので価格のコントロールができないのに対し、インディーズ作家はそれをコントロールできる、というのは面白い比較だと思う。無名であっても、ある程度は価格の安さで勝負することも可能になる。不利に思われがちな条件も、使いようによっては有効に機能し得るのだ。
そして、本書の中で重要なエッセンスを1つだけ抽出せよと言われたら、僕は迷わずこの言葉を選ぶ。
「インディーズ作家の究極のゴールは、『1万人の生涯読者メーリングリスト』をつくることだ」(81頁)
これはけっこう「目からウロコ」ではないだろうか。普通は「○○万部売ること!」などを目標にしがちだが、それはあくまで一時的な結果にすぎない。作家として長期的に活動しようと思えば、自分の出版するすべての作品を購入してくれる「生涯読者」の獲得が何より重要だ、と彼は言うのだ。
「あなたが執筆したものは、どんなものでも買うファン1万人のメールリスト。これ以上に強力なものがあるだろうか?」(81頁)
言われてみれば確かにそうだし、これは電子書籍に限らず、さまざまなビジネス(特に個人ベースのスモールビジネス)においても言えることだろう。これから個人で事業を始めようと思っている人は、タイトルの煽り具合に惑わされず(笑)、ぜひ一読することをおすすめする。
著者は専業作家ではなく、電子書籍の出版もビジネスの一環として捉えているようだ。しかしだからこそ、「著述業」という仕事を客観的に分析することができるのかもしれない。しかも彼の言う次のような言葉は、プロ作家もぜひ肝に銘じておかなければならないだろう。
「売り上げアップのためだけに、全く好きでもない有名人を祭り上げてはならない。大切な読者を欺くことは絶対にしてはならない。不誠実な行為は、必ず自分に返ってくる。末永く幸せな執筆活動をしたいのであれば、どうか誠実さに基づいて実践してほしい」(157-158)
実は最初は図書館で借りて読んだのだが、改めて本屋さんで購入した。それくらい、長く使える考え方が示されている一冊だと思う。