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「50歳を超えて職を失ったら死んだも同然」イタリアの悲劇、緊縮と難民でEU懐疑派の得票率がついに50%を突破

麻疹発症例が6倍に

[ローマ発]イタリア総選挙(上下両院)の投開票が4日行われ、欧州連合(EU)や単一通貨ユーロに異を唱える新興の市民政党「五つ星運動」と極右政党「同盟(旧北部同盟)」の得票率が下院で計50%に達した。昨年春のフランス大統領選でもEU懐疑派の極右政党「国民戦線」と急進左派「左翼党」が合わせて40%を超える支持を集めており、EUへの疑念は減るどころか、さらに膨らんだと言えそうだ。

「対国内総生産(GDP)比で132%の政府債務を抱えるイタリアでは医療財政が逼迫して病院の待ち時間が長くなり、1,200万人が診療や治療をあきらめたり、延期したりせざるを得ない状況に陥っています。病気を治すのも、有力者を知っているか否かというコネ次第」。そう語るローマ在住のイタリア人ジャーナリスト、アンナ・マッツォーネさん(46)はローマ・テルミニ駅近くの投票所で上下両院とも「五つ星運動」に票を投じた。

混雑するローマ市内の投票所(筆者撮影)

不正投票を防ぐための手続きが煩雑になり、どの投票所にも長い列ができた。投票率は前回の75.2%を下回る73%。「五つ星運動」が初めて議会第1党になったが、どの会派も過半数に届かない「宙ぶらりんの議会(ハング・パーラメント)」になった。まず、選挙結果を見ておこう。

下院 上院
中道右派連合(同盟、頑張れイタリア) 37% 37.5%
五つ星運動 32.7% 32.2%
中道左派連合(民主党) 22.9% 23%

気になるデータがある。昨年、麻疹(はしか)の発症例が先進7カ国(G7)のメンバーでもあるイタリアで6倍に増えて5,006件となり、欧州全体の4分の1を占めた。流浪の民ロマが多いルーマニアの5,562件に次ぐ数字だった。イタリアでは2011~15年の間に麻疹ワクチンを接種する人が5.3%も減ったため、昨年、対策として10種のワクチン接種が義務付けられた。子供にワクチンを接種させなかった保護者は最高500ユーロの罰金を支払わなければならなくなった。

「五つ星運動」のある候補者は「ワクチンの強制接種は自殺行為」と反対し、「同盟」は「ワクチン接種にはイエスだが、義務化にはノー」と異を唱えた。イタリアでは医学に基づく予防接種でさえ、選挙戦で激しい政治的な論争を巻き起こすようになった。深刻な債務危機に見舞われた直後、ギリシャでも死産が急増したことがある。

「同じ顔ぶれに投票するのはうんざり」

「争点は雇用、雇用、雇用。50歳を超えて職を失ったら、イタリアでは死んだも同然。ミラノで3週間前に、これまで首相を4期務めた『頑張れ(フォルツァ)イタリア』のシルビオ・ベルルスコーニ元首相(81)と民主党のマッテオ・レンツィ元首相(43)が密会したという報道が流れました。偽ニュースでしたが、裏で何度も会っているので驚きません。もう同じ顔ぶれに投票するのはうんざりなんです」

「五つ星運動」に票を投じたマッツォーネさん(筆者撮影)

マッツォーネさんは「五つ星運動」がすべての問題を解決してくれる魔法の杖とは思っていないが、腐敗と縁故主義というイタリアのシステムをリセットしてくれると信じている。フリーズしたパソコンを再起動するのと同じで、32%を超える投票者がシステムのリセットボタンとして「五つ星運動」を選んだ。特に貧しい南部で、全国一律月780ユーロのベーシックインカム(最低限の所得保障制度の1つ)導入を唱える「五つ星運動」は票を集めた。

「五つ星運動」を阻止するための選挙制度改革

イタリアの上院には下院と同じ権限が与えられていたため、上下両院で多数派が異なる「ねじれ」が生じて、何も決められない「政治空白」が続いていた。そこで昨年11月の選挙制度改革で上下両院の多数が一致するようにする一方で、「五つ星運動」による政権樹立を阻止するため下院の第1党に約55%の過半数を与えるボーナス制度を廃止した。

選挙集会で熱弁をふるう「五つ星運動」の創設者ベッペ・グリッロ氏(筆者撮影)

「これで民主主義と言えるのでしょうか。結局カオスを生むだけです。戦後70年で最悪の選挙制度になりました」とマッツォーネさんは吐き捨てた。「イタリアの問題は腐敗と、能力主義がないことです。たった2センチの雪でローマは大混乱し、普段なら鉄道で1時間半のフィレンツェにたどり着くのに6時間もかかるのです。この国は完全に機能不全に陥っています」

筆者が、今回ローマに滞在して驚いたのは釣り銭を用意していないケースが少なくなかったことだ。ホテルで20ユーロ札を使おうとすると拒否される。地下鉄の券売機も硬貨か、5ユーロ札しか使えない。露店で5ユーロの焼き栗を買って10ユーロ札を出すと硬貨のお釣りが4ユーロしかなく、焼き栗を1つ追加してくれた。2つにして欲しかったが、それだと赤字になるのだろう。

世界銀行の統計によると、イタリアの銀行の不良債権比率は最悪期の18%から2016年には17.1%まで低下した。景気の回復に伴い不良債権も減って、市中への貨幣供給量は増えているはずなのに、なぜか十分な釣り銭が用意されていない。一体どういうことなのか。

上昇する絶対的貧困率

イタリア国家統計局(ISTAT)によると、世帯の絶対的貧困率は14年5.7%、15年6.1%、16年6.3%と上昇している。162万世帯474万人が生きるのに最低限の衣食住もない。豊かなはずの北部でも外国人を含む世帯の絶対的貧困率は15年の13.9%から16年には22.9%に跳ね上がった。子供が3人以上いる世帯でも18.3%から26.8%に急上昇していた。

経済協力開発機構(OECD)によると、イタリアの就業率は57.3%と日本の75.3%に比べて格段に低く、OECD加盟国の中でも最低クラスだ。

「弱肉強食」の経済統合マシーンであるEUに対して忠誠を誓い、構造改革を進めたレンツィ元首相率いる民主党は前回から支持を減らした。フランスの社会党、ドイツの社会民主党(SPD)に続き、EU域内の中道左派政党は軒並み敗退している。支持者を裏切って金融システムの安定と「成長」を最優先にして「分配」を二の次にしたからだ。

労働市場改革を断行したフランスのエマニュエル・マクロン大統領への不支持率も支持率を10%ポイント以上、上回っている。

ベルルスコーニ氏は脱税で来年まで公職に就けないため、側近の首相候補アントニオ・タヤーニ欧州議会議長(64)を推しているが、得票率で「頑張れイタリア」を上回った「同盟」のマッテオ・サルヴィーニ書記長は自らが首相になるつもりだろうか。

市場参加者、EU加盟国や本部のあるブリュッセルにとって悪夢の「五つ星運動」と「同盟」のEU懐疑派連立政権の可能性も否定できない。

母国のエジプトに帰るというサラさん(筆者撮影)

13年前、エジプトからイタリアにやって来たカリム・サラさん(39)はローマ市内で2つの食料品店を経営していたが、欧州債務危機による不景気で全財産を失った。

食料が支給される難民キャンプに身を寄せているサラさんは「ひと昔前までイタリアは豊かだった。今では路上で生活しなければならない人がいる。もうエジプトに帰るよ」と話した。イタリアの路上生活者は16年時点で4万8,000人と報じられている。

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