米アカデミー賞で話題の「インクルージョン・ライダー」とは?
2018年の米アカデミー賞授賞式は後世、「インクルージョン・ライダー」(包摂条項)という言葉が一般的な用語となったきっかけとして記憶されるのかもしれない。
4日に映画「スリー・ビルボード」で主演女優賞を受賞したフランセス・マクドーマンド氏は受賞スピーチの最後に、「今晩言い残したい単語は2つ」と強調した。「inclusion rider」というその用語は、 俳優が出演契約を結ぶ際に付帯条項(rider)の追加を要求し、職場の包摂性(inclusion)を確保しようというものだ。
「(この言葉は)俳優が、作品のキャストとスタッフの人種・性別などの構成を少なくとも50%は多様なものにするよう、要求できることを指します」とマクドーマンド氏はスピーチ後に舞台裏で説明した。
マクドーマンド氏の発言で、グーグルの用語検索量が急上昇した。
多くの人が聞き違えて、「inclusion writer」と検索していた。
マクドーマンド氏は、自分も最近この用語を知ったばかりだと話した。しかし実際には、2016年から使われてきた表現だ。
メディア研究者のステイシー・スミス博士が、同年のTEDトーク(著名人によるプレゼンテーションイベント)で使った造語で、女性や少数民族は障害者を映画やテレビに登場させる機会を増やす方法として紹介した。
スミス博士はこの概念を、人権や雇用を専門にするワシントンの弁護士、カルパナ・コタギャル氏と、プロデューサーで俳優のファンシェン・コックス・ディジョバンニ氏と共に編み出した。
南カリフォルニア大学で教えるスミス博士は、ハリウッドのトップクラス俳優の契約に含まれる「公正条項」を使えば、物語の舞台となっている場所の実際の人種や男女構成を反映した形で、映画の脇役を配役させられるのではないかと主張する。
スミス博士は、サンフランシスコに集まった聴衆に「典型的な映画でせりふのある出演者は、40人から45人です。そのうち、物語展開に実際に必要なのは8人から10人のみだと思います」と語った。
「なので、残りの30人前後の脇役について、物語の舞台となっている場所の人口構成を配役に反映させられない理由はなにもない」
「1人のトップクラス俳優が契約に公正条項を盛り込めば、私たちが実際に生きている世界の状況を、映画の配役に反映させるよう要求できる」
アカデミー賞授賞式のあとスミス博士は、マクドーマンド氏の発言は「まったく意外」だったと言い、自分の提案をあれほど注目される場所で周知してくれたことは「最高に嬉しかった」と語った。
「目標は、才能ある人が包摂条項を使い、それを自分たちの価値や信念に沿った形で取り入れてもらうことです」とスミス博士は英紙ガーディアンに語った。
マクドーマンド氏のスピーチの影響ですでに一部のトップクラス俳優が、率先して支持を表明している。ハリウッドの製作現場に現実世界の少数人種や性別比や性的少数者の存在を反映させるため、スタートしての力を利用して交渉に臨もうというのだ。
「私は包摂条項に取り組みます」と、「ルーム」でアカデミー賞主演女優賞を受賞したブリー・ラーソン氏はツイートした。「誰が協力してくれる?」と呼びかけたラーソン氏は、撮影が始まったばかりの「キャプテン・マーベル」にも出演している。
ほかに、元テニスプレーヤーのビリー・ジーン・キング氏や英国の脚本家ジャック・ソーン氏、映画「ピッチ・パーフェクト」の俳優エリザベス・バンクス氏も、マクドーマンド氏の呼びかけに応じ、支援を表明した。