今年は“数十年に1度”という大寒波(写真はイメージ)

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使えない太陽光に血税を流した戦犯は誰か(上)

 太陽光発電は安全で環境にやさしい、と信じる人は、失礼ながら「おめでたい」。大寒波で太陽光パネルが雪に埋もれる間、首都圏は大停電の危機にあったのだ。

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「今年は“数十年に1度”という大寒波による影響で、暖房需要が異常なほど高まりました。私たちは“10年に1度”の寒波が訪れた際の電力需要を4960万キロワットと想定していて、その際には万全の対策がとれます。ところが今年は、電力需要がたびたび5000万キロワットを超えたのです」

 東京電力の広報室はそう言って、一つひとつの“危機”を振り返る。

「弊社が3年ぶりに他社からの電力融通を受けたのは、1月23日でした。冷え込みが厳しく、ダムの上から下に水を落とす揚水発電を日中に大量に行う必要が生じましたが、この発電は水をくみ上げるために電力を使う。このため、24日の日中に揚水発電を行うのに必要な電力を確保するため、23日の夜間に東北電力から140万キロワット、中部電力から30万キロワットの融通を受け、窮状を乗り切ったのです」

今年は“数十年に1度”という大寒波(写真はイメージ)

 だが、融通を受けたのはこの日に止まらなかった。

「結局、1月は23日から26日まで4日間、2月も1日、2日に電力融通を受けました。特に2月2日の需要は、1日時点で供給の99%と見込まれたほどの危機的状況で、2月の2日間は北海道、東北、中部、関西の各電力会社から計300万キロワットほどの融通を受けました。加えて、全国の火力発電所に指示を出し、規定の発電量の101%でフル稼働させたり、小売事業者からも買い増したりしたほか、本社のエレベーターの本数を間引くなど、厳しい対応を迫られました」

 それでも、電力は「間に合ったのだから」と、良しとするのか。あるいは、太陽光発電をはじめ再生可能エネルギーをさらに導入すれば補える、とでも言うのだろうか。

 上に記した状況がどれほど危険であったか。東京工業大学名誉教授の柏木孝夫氏によれば、

「予備率という言葉があります。電力会社が供給する電力の余裕度をあらわす数値で、これが3%を切ると、いつ停電になってもおかしくありません。今年は大寒波の影響で、東京電力は1月23日に、24日の予備率が1%になるという見通しを発表し、他社から電力の供給を受けました。その結果、予備率は3%を超えましたが、1月から2月に他社に何度も融通を要請したということは、もはや東電単体では、予備率を常に3%以上に保てなくなっているということです。夏場も3%に近くなることが常態化しており、大停電の一歩手前というケースが増えているのです」

 また、今回は他社から電力の融通を受けたほか、

「デマンドレスポンスが数回発動されました。これは電力会社が電力不足で困っているとき、提携会社が電力需要を抑制し、それを受けて電力会社がインセンティヴを支払うというシステム。今回、これが数回発動されたことからも、いかに危機的な事態であったかがわかります」(同)

不整脈のようなもの

 むろん、電力の逼迫は異常な寒波の影響だが、予期せぬ事態も起きていた。

「弊社は晴れの日のピーク時間で全体の15%ほど、約800万キロワットを太陽光発電で賄っていますが、太陽光パネルに雪が積もって数日間溶けず、発電ができませんでした。そこを補うべく、揚水発電をフル稼働しましたが、そうすると翌日使う水がなくなって、他社からの融通が必要となりました。茨城県鹿島と福島県広野の二つの火力発電所が、トラブルで機能しなかった影響も大きかったです」

 ふたたび東電広報室の嘆き節だが、それに同情したり、あるいは非難したりする余裕は、われわれにはないはずだ。なぜなら、その結果、危機的な状況に置かれているのは、われわれ自身だからである。

 東京工業大学の澤田哲生助教は、この電力危機に、

「読売新聞以外は大きく扱わず、世間的には話題になりませんでしたが、潜在的な危機が依然として存在するのに、国民がその情報を受けとれていないのは、大きな問題です」

 と危機感を募らせ、北海道大学特任教授の奈良林直氏も、

「今回は電力融通によって事なきを得ましたが、もし停電していたら、病院の生命維持装置、手術、人工透析、保育器などがすべてストップしてしまいます。病院の予備電源は7、8時間分しかなく、停電がそれ以上続くと、人命に関わる事態になってしまいます」

 と、こう警告する。

「今回も仮にどこかの発電所が1カ所でも止まったり、送電線が切れてしまったりしたら、停電になっていた可能性は十分ある。それほど綱渡りの電力状況なのです。2003年に北米で起きた広域大停電は、送電会社のシステムダウンなどが原因で、ニューヨークからカナダ南東部にかけて約2日間、停電になりました。日本でも同様の、いや、もっとひどい事態にならないともかぎりません」

 奈良林氏は、リスクを回避するために一定量の原子力発電はやむを得ず、

「原発を稼働するリスクもありますが、それよりも停電で命が失われるリスクのほうが大きい」

 と主張するが、それについては(下)で検証する。まずは、太陽光発電が機能しなかった問題を掘り下げておきたい。

機能しなかった太陽光

 1月28日付の朝日新聞朝刊に、〈基幹送電線、利用率2割 京都大特任教授、大手10社分析〉という記事が掲載された。そこには、

〈「空き容量ゼロ」として新たな再生エネ設備の接続を大手電力が認めない送電線が続出しているが、運用によっては導入の余地が大きいことが浮かび上がった〉

 と書かれていたが、奈良林氏によれば、

「素人の指摘と言わざるをえません。再生可能エネルギーの送電線は、太陽光発電が100%機能した場合に対応できるようになっています。しかし、太陽光では1日の4分の1ほどの時間しか発電できず、また晴れの日は約半分です。だから送電線の利用率が低いのは当然のことです」

 要は、利用率の平均値が低いからといって、再生可能エネルギーの設備を次から次へとつなげば、送電線はパンクしてしまうということだ。そこからもう一つ見えるのは、そもそも太陽光発電が、極めて不安定だという事実である。

 ふたたび柏木氏が言う。

「今回は太陽光パネルに積もった雪が予想外に溶けなかったわけですが、こうした不測の事態は今後も起きえます。天候次第で発電量が大きく変化する太陽光発電は、堅実な電力システムの基礎であるベースロード電源になりません。発電量は多すぎても電圧が上昇してしまい、常に需給のバランスがとれている必要があります。供給量が乱高下する太陽光発電では周波数が安定化せず、体にたとえれば、あたかも不整脈が発生するようなものです」

 雪が積もらなくても、雨が続けば発電できない。ところが、日本では2012年に導入された固定価格買取制度で、太陽光発電による電力を固定価格で買い取ることが、電力会社に義務づけられているのだ。

菅氏主導の天下の悪法

 この制度の問題点を、

「ほかの電力より割高なうえ、コストは国民が賦課金の形で支払わされています。月々に分割されていて気づきにくいですが、制度開始直後は年間負担額が684円だったのが、いまは8232円と、12倍に膨れ上がった。国民全体の負担額は今後、年間数兆円に達するとの試算もあります」

 と、電力関係者が指摘する。また奈良林氏は、

「当時の菅直人総理とソフトバンクの孫正義社長の打ち合わせを通して作られた、天下の悪法です」

 と一刀両断し、続ける。

「当時、孫氏は菅総理を持ち上げ、脱原発を煽っていました。震災直後に広がった“原発憎し”の世論を背景に、超党派の議員が法成立を求めて署名する動きもあって、深い議論がなされずに法案が可決されてしまった印象です。1キロワット時42円でスタートし、いまは28円ですが、太陽光発電の世界的な買取相場は10円以下。最近は中国製の安価なパネルが登場し、事業者のコストは大幅に下がっているのに販売価格は一定なので、投資家や事業者には非常に利回りのいい商売で、彼らが国民を搾取する状況になっています」

 結果として電気料金が高騰すると、また別の問題も起きてくる。

「たとえば鋳物、ガラス、製鉄などの企業は、以前は原発による深夜の割安な電力を使ってきました。ところが、電気料金の値上げで大打撃を受け、倒産や海外移転の例が相次いでいます。産業の空洞化が進み、日本の国際競争力も下がってしまいます」(同)

(下)へつづく

「週刊新潮」2018年3月1日号 掲載