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 米グーグル(Google)は2018年3月5日(米国時間)、新しい量子プロセッサ「Bristlecone」を発表した。「0」と「1」の情報を重ね合わせ状態で保持できる「量子ビット」を72個搭載する。同社はこの新しい量子プロセッサを使って、量子コンピュータが従来型のコンピュータでは実現不可能な計算能力を備えていることを示す「量子超越性」を実証する。

写真●グーグルが発表した新量子プロセッサ「Bristlecone」
出所:グーグル、撮影:Erik Lucero氏
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 グーグルは量子ビットの数が49個よりも多くなると、量子コンピュータの振る舞いを従来型のコンピュータでシミュレーションできなくなると主張している。より具体的に言うと、量子ビットが49個あり、量子回路の「深さ」が40以上で、2つの量子ビットによる演算操作(量子ゲート)のエラー率が0.5%を下回る量子コンピュータが実現できれば、量子超越性を実証できるとしていた。

 グーグルのブログでの発表によれば、Bristleconeの量子ビットの数は72個で、量子ビットの読み出しエラー率が1%、1つの量子ビットによる演算操作のエラー率が0.1%、2つの量子ビットによる演算操作のエラー率が0.6%である。量子ビットの数は量子超越性を実証できる数を超えている。しかしグーグルが「最も重要」とする2つの量子ビットによる演算操作のエラー率は、目標である0.5%にわずかに届いていない。

 むしろBristleconeの重要なポイントは、量子ビットのエラー率の低さを維持したまま、量子ビットの数を増やすことに成功したことにありそうだ。グーグルは2015年に、9量子ビットの量子プロセッサを発表しており、2つの量子ビットによる演算操作のエラー率は0.5%だった。Bristleconeは量子ビットの数が8倍に増えたがエラー率はほぼ同じであり、グーグルの量子プロセッサ技術のスケーラビリティ(拡張性)が実証されたことになる。

 グーグルと米カリフォルニア大学サンタバーバラ校で量子コンピュータの開発を率いるジョン・マルティニス(John Martinis)氏は2017年12月の会合で、グーグルが2017年末のクリスマス休暇の前後から量子超越性の検証を開始するとしていた。このBristleconeが、量子超越性を検証するための量子プロセッサとなる。検証にはしばらくの時間がかかるもようだ。

 グーグルはBristleconeを使って量子超越性のような量子コンピュータシステムの性能検証を実行するだけでなく、量子化学シミュレーションや組み合わせ最適化、機械学習といった実用的なアプリケーションの検証も進めていく予定だ。