配当所得との損益通算・3年間繰越控除がOK
上場廃止が伴う株式買取請求、譲渡損失発生でも上場扱いに
上場廃止が伴う株式交換に対する反対株主の株式買取請求を巡り、上場廃止後に生じるみなし配当等に対する源泉徴収税率は、上場扱いとして軽減税率(10%)の適用がある旨の文書回答が大阪国税局から昨年公表された。しかし、上場廃止後の株式交換完全子会社への買取請求の際に譲渡損失が発生するケースも、上場株式と同様に取り扱うことができるか否かにまで踏み込んだ回答はなされていない。そのため、株式買取請求を行った個人投資家から、上場扱いとして確定申告を行ってよいのかどうかという疑問の声が挙がっていたところだ。そこで、この取扱いを課税当局へ取材したところ、譲渡損失が発生するケースでも、上場株式の譲渡として、配当所得との損益通算や3年間の繰越控除が適用されることが明らかとなった。
個人株主側ではみなし配当と株式譲渡収入に区分、譲渡損失が発生も
株式交換において、株式交換に反対する子会社の株主から反対株主の株式買取請求があり、株式の発行会社がこれに応じた場合には、その株式の買取対価は、税務上、みなし配当と株式譲渡収入とに区分される。
その仕組みを具体的に見てみよう(図参照)。株式交換に反対する株式買取請求に係る買取対価は、「資本金等の額」に係る部分と「それ以外の部分」に分けられるが、株式の取得価額が「資本金等の額」に係る部分を上回っている場合には、その差額は株式の譲渡損失として認識されることとなる。一方で、「それ以外の部分」は、みなし配当に該当することとなる。したがって、株式買取請求の対象となる会社が、資本金等の額が小さく利益積立金額が大きいほど、株式の譲渡損失が発生するケースが多くなるといえる。
株式買取請求の効力発生時には非上場に
会社法上、株式交換完全子会社への株式買取請求の効力発生日は、その株式交換の効力発生日(会社法786条5項)とされている。しかし、上場会社を完全子会社とする株式交換が行われる場合、その子会社は、証券取引所の上場規程により株式交換の効力発生日の3日前の日に上場廃止となることから、株式買取請求の効力発生日の時点では、すでに子会社は非上場会社となってしまう。
ここで問題となるのが、非上場となった子会社が株式買取請求に応じて株式を買い取った際に、個人株主側で株式の譲渡損失が発生した場合、その譲渡損失が上場株式と非上場株式のどちらの譲渡として取り扱われるかである。上場株式の譲渡に該当すれば、株式買取請求に伴い発生した譲渡損失は、配当所得との損益通算や3年間の繰越控除が認められる一方で、非上場株式の譲渡に該当する場合は、配当所得との損益通算等が認められていないからだ。
大阪局の事前回答、譲渡損失が発生するケースまでは踏み込まず
みなし配当等は上場扱いで10%の源泉
上場廃止が伴う株式交換に対する反対株主の株式買取請求を巡り、上場廃止後に効力が発生するみなし配当や譲渡所得の源泉徴収税率については、大阪国税局が平成23年8月4日付けで事前照会に対する文書回答を行っている。具体的には、約定日と受渡日の関係から、株式買取請求の効力発生日の3日前に上場を廃止し、効力発生日に株主を確定する必要があるやむを得ない事情によるものであることなどから、上場扱いとして軽減税率(10%)の適用があるという内容だ。
上場廃止後に発生する反対株主の株式買取請求に係る譲渡損失についてまでも上場扱いとして、配当所得との損益通算や3年間の繰越控除が適用できるか否かまで踏み込んだ回答はされていないが、課税当局は、反対株主の株式買取請求の際に、個人株主に譲渡損失が発生するケースでも、上場株式のみに認められる配当所得との損益通算や3年間の繰越控除の適用を認めている。
資本金等の額が小さく利益積立金額が大きい会社に株式買取請求を行う場合、多額のみなし配当が生じる可能性が高いが、株式買取請求の効力発生日に上場が廃止されていても上場扱いとされるため、みなし配当と譲渡損失の損益通算が可能となる。この柔軟な取扱いは、個人株主にとって朗報といえそうだ。
株式交換に反対する株式買取請求を行う場合、反対株主は、株式交換の効力発生日の20日前から効力発生日の前日までに、発行会社に対して株式買取請求に係る株式数等を通知しなければならない(会社法785条5項)。しかし、株式振替手続の実務上、反対株主は、この会社法で明記された手続に加え、株主の口座から発行会社の口座へ株式を移管するための振替手続を発行会社から任意で要請されるケースがほとんどであった。この点について、今般の会社法制の見直しに関する中間試案では、反対株主に対して、会社が開設する買取口座への振替申請を義務付ける方針が明記されている。企業側からみれば、振替申請に会社法上の根拠ができることは朗報といえそうだ。 |
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T&A master
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キーワード 「株式買取請求」⇒92件
(週刊「T&A master」441号(2012.3.5「SCOPE」より転載)
(分類:会社法 2012.5.18 ビジネスメールUP!
1683号より
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