ロシアの元スパイ、英で意識不明の重体 不明物質が原因か

2006年8月に13年の禁錮刑判決が下った日のスクリパリ氏 Image copyright Associated Press
Image caption 2006年8月に13年の禁錮刑判決が下った日のスクリパリ氏

英警察は5日、南西部ソールズベリーのショッピングセンターで今月3日に倒れているのが見つかり、意識不明に陥った男性がロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏(66)だと明らかにした。

ロシア軍の情報部員だったスクリパリ元大佐は、英国のためにスパイ活動を行ったとして、2006年にロシアで13年の禁錮刑判決を受けたが、2010年に米国とロシアの間でスパイ交換で釈放され、英国に居住している。

スクリパリ氏と一緒にいた33歳の女性も意識不明で、何らかの物質に触れたことが原因の可能性があるという。

警察は、「予防的措置」として現場近くのレストラン「ジッジ」を閉鎖。イングランド公衆衛生局(PHE)は市民の健康に影響を及ぼすリスクは確認できないとしている。

地元のウィルトシャー警察は、刑事事件の可能性があるとして捜査を開始した。意識不明の2人に外傷は見つからなかったという。

警察は「重大事件」を宣言し、複数の当局が捜査を行っている。テロ事件とは断定されていないが、当局は「柔軟に対応する」方針。

スクリパリ氏は、欧州で活動するスパイに関する情報を英情報機関MI6に提供していたとして、有罪判決を受けた。スクリパリ氏は、1990年代から提供していた情報の対価として10万ドルを受け取ったとされた。

2010年に米国人スパイ10人との交換でロシア政府が釈放した4人の1人が、スクリパリ氏だった。

警察によると、現在ソールズベリー地域病院の集中治療室で手当てを受けているスクリパリ氏と女性は、知り合い同士だという。

市中心部の複数の場所が立ち入り禁止になり、重装備の防護服を来た作業員が街路を放水ホースを使って除染した。

ソールズベリー地域病院では、職員たちに対して特に連絡がない限り通常業務を行い、外来受付をするよう求めた。救急外来も業務を続けているが、悪天候の影響で多くの人が訪れているという。

レストランの閉鎖について警察は、市民の健康に危険が及ぶリスクは確認できないと公衆衛生局は強調していると説明した。ただし、体調不良の際には予防的に、NHS111(医療電話相談)に連絡するよう呼びかけた。「もし自分自身やほかの人の体調が相当悪くなっていると感じたら、999(日本の119番に相当)に電話してほしい」。

ソールズベリーにあるスクリパリ氏の自宅近くの住民たちは、4日午後5時(日本時間5日午前2時)以来、警察がずっと留まっていると語った。

住民たちによると、スクリパリ氏は気さくな人柄で、数年前に妻を亡くしていた。

スクリパリ氏らが倒れていた現場の目撃者、フレイヤ・チャーチさんはBBCに対し、2人が「何かとても強いもの」を飲んだように見えたと話した。

チャーチさんは、「ベンチに年上の男の人と年下の女の子のカップルがいた。女の子は彼に寄りかかっているようで、気を失っていたように見えた。彼は何か不思議な手の動きをしていて、空を見上げていた。(中略)彼らはあまりにぼーっとしていて、もし私が何かしようとしても、どうやって助けられるか分からなかった」と語った。

イングランド公衆衛生局は物質が何だったか特定していない
Image caption イングランド公衆衛生局は物質が何だったか特定していない
ソールズベリー地域病院での除染作業
Image caption ソールズベリー地域病院での除染作業

何らかの物質に触れたのが原因である可能性について、2006年にロシアの元情報将校アレクサンドル・リトビネンコ氏が、ロンドンのホテルで茶を飲んだ後に放射性物質ポロニウム210の被曝で死亡した事件との類似性が指摘されている。

英内務省の公開調査委員会は2016年1月、リトビネンコ氏の暗殺はロシアのウラジーミル・プーチン大統領の了承の下で行われた可能性が高いと結論付けた。

コメントを求められた英国のロシア大使館の報道官は、「当該の人物の親類あるいは法的代理人、あるいは英当局からも、事案について大使館に連絡は来ていない」と述べた。

元英外相のサー・マルコム・リフキンドはBBCラジオ4の番組「ザ・ワールド・トゥナイト」で、ソールズベリーの事件について「きわめて凶悪な背景」がある可能性がうかがえると語った。

サー・マルコムはさらに、「FSB(ロシア連邦保安局)もしくは政権中枢が黒幕の可能性は確かにある。別の理由による犯罪行為だったかもしれない。2人あるいはどちらかの1人に、個人的な恨みをもつ者がいたのかもしれない。現時点では分からないし、それ以上推測をするのは意味がないだろう」と付け加えた。

スクリパリ氏への判決

2006年にモスクワの軍事法廷は、スクリパリ氏が「スパイ行為による反逆罪」で有罪判決を下し、同氏の肩書きや過去の表彰を剥奪した。

FSBは、スクリパリ氏が陸軍で勤務していた1990年代から英情報機関のために働いていたとし、国家機密とされた情報を提供し、MI6から報酬を受け取っていたと主張した。

当時の報道によると、スクリパリ氏は裁判で罪を認め、捜査に協力したという。

(英語記事 Critically ill man is former Russian spy

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