昨年、急速に注目を集めるようになったビットコイン。ビットコインの仕組みはブロックチェーンという技術で支えられている。人によっては、ブロックチェーンを「世界が変わる技術」と評するほどである。
今回はブロックチェーンに関して、メルカリのエンジニア3人に話を聞いた。
曾川 景介(Keisuke Sogawa・写真左)
2011年、京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻修士課程を修了。2011年にIPA未踏ユース事業に採択。大学院修了後にシリコンバレーの FluxFlex社にてWebPayを立ち上げる。ウェブペイ株式会社の最高技術責任者(CTO)としてクレジットカード決済のサービス基盤の開発に従事、LINEグループに参画しLINE Pay事業を経験。2017年11月、株式会社メルペイ取締役に就任(株式会社メルカリの執行役員も兼務)。
濱田 優貴(Yuki Hamada・写真中)
株式会社メルカリ、取締役。東京理科大学工学部在学中に株式会社サイブリッジを創業、取締役副社長に就任する。2014年10月に同社退社後、株式会社メルカリにジョイン。2016年3月に取締役に就任する。
高橋 三徳(Misato Takahashi・写真右)
2007年に株式会社Speee創業、取締役に就任、2010年楽天株式会社入社、国際版の開発や市場アプリの開発をリード。2011年株式会社スポットライトCTOに就任、2013年に楽天株式会社に売却、退社後、スタートアップの支援や大手企業のコンサルティングを行う。2017年8月メルカリ入社。2018年よりメルペイに参画、メルカリファンド投資先のtsumug社取締役
ー皆さんのブロックチェーンとの関わりをおしえてください
濱田:5年程前に、100台のサーバを使って自分でマイニングしていました。結果としては、それでサーバー代の数%くらいしかまかなえなくて。その時に採掘したライトコインはどこかに消えちゃいました(笑)。
今思い返せば、その時はブロックチェーンの意味するものを理解できていなかったんです。理解した今は「これによって何かが変わる」という確信が出てきました。
いまのブロックチェーンは、インターネット黎明期の「ダイヤルアップの頃のワクワク感」に近いと思っています。ピーガラガラです(笑)。
高橋:私も濱田と同じ5年くらい前に知ったのですが、当時は全く興味があるませんでした(笑)。ただ、理解を深めるうちに「これは世の中を変えるものだ」と感じています。ブロックチェーンが生み出す非中央集権の世界は、新しい経済の概念をつくることになるかもしれませんね。
曾川:私は以前、ユーザ間での物のやりとりに関するプロジェクトを進めていました。そのようなお客様同士のコミュニケーションにおける通貨として、ビットコインのようにお客様同士で対価をやり取りする手段があればいいなあと考えていました。その時の空想が、ようやく現実化されたのがビットコインだと思っています。そういう意味では、待ち望んだものがやっと登場したという気持ちです。
ーブロックチェーンとはどのようなものでしょうか
濱田:今まで、あらゆるシステムにおいて「絶対」という言葉は使えませんでした。たとえば、「絶対に間違いがない」といったような。でも、ブロックチェーンによって、ようやく「絶対」という言葉が使えるようになったのです。
ブロックチェーンの仕組みを簡単に言うと、過去の取引が全部記載されていて、その記載が正しいかどうかを多数の人がチェックできます。そのため、ブロックチェーンに記載されているデータには「嘘が存在しない」と言われていますね。
高橋:厳密にいえば「絶対に嘘がない」ではないけれど、絶対にかなり近い概念かも。
曾川:そのシステムの堅牢性を、ここ数年かけて証明してきたといってもいいかもしれません。そのため、今、その堅牢性が評価されて、ブロックチェーン代表されるビットコインにの価値は急上昇しているわけです。
高橋:そうそう。ブロックチェーンは「絶対」ということを実現できるシステムとして登場しました。そうしてはじめて、人々の信頼をそこに蓄積できるようになったのです。たとえば、お金のやり取りやモノを買った履歴、そのようなものを全部蓄積することができるようになりました。
今までのシステムでは、「絶対」といえるものがなく、それゆえにそこにあるデータは信用できないものでした。でも、ブロックチェーンにかかれていることは、「絶対」事実と言っても過言ではないと思います。そのため、その積み重ねが信用になっていきます。誰かが言っていることを信用するよりも、その事実の積み重ねの方が信用できるのです。その点で、ブロックチェーンは、信用を担保する仕組みともいえます。
濱田:歴史ではあらゆるポイントで革命が起こってきましたよね。農業革命から、産業革命、情報革命。そして、ブロックチェーンによって信用革命が起こっていると考えています。今までの仕組みではできなかった「信用を蓄積する」ことができますから。ただ、それだけのことですが、それによってできることがとても多いのです。
「壊れない自動販売機を作る感じ」と例えられるかも。
曾川:例えがよくわからない(笑)
たとえば、メルカリで行っているメルチャリでは、その信頼の仕組みを活用することもできます。今まで、人の信頼は、大きな物を対象にした時にしか信頼は測られませんでした。たとえば、家を買う時のローンの与信などです。給与や資産をみて「この人には、これくらいお金を貸せるな」と計算していました。ただ、それには手間がかかるので、細かいものを貸す時に、いちいちそんな計算はしていられませんよね。そのため、「この人に自転車を貸していいかどうか」を判断する方法はありませんでした。
メルカリにはその人の過去のやりとりがあります。それの積み重なりを信頼とみなすこともできます。そうすると、このやりとりを与信にすれば、メルチャリのような小さなものに対しても、信頼の仕組みを使うことができます。「この人は3年間、毎月、メルカリを使ってくれている。だから信頼できそうだ。自転車も貸しても返ってきそうだ」といったことを判断することができるようになります。ブロックチェーンを使えばそのような今までにできなかった与信の活用ができるのです。
ーブロックチェーンとは技術的にも革新的だったのでしょうか
曾川:技術的にはハッシュ関数と暗号の要素技術の組み合わせです。ただ、その組み合わせが妙でした。コンピュータプログラムの基礎は、「データ構造とアルゴリズム」だと言われていますが、ブロックチェーンはこの2点に加え「ネットワーク」の3点がうまく組み合わさった仕組みです。
コンピュータプログラムの基礎的技術の組み合わせだったゆえに、多くの人々が理解可能でした。それゆえに流行っているというのもあるかもしれません。奇抜なものだったら使われていなかったかもしれませんね。
他にR4Dとして取り組んでいる量子アニーニングに比べるとずっと理解しやすい概念です(笑)。量子アニーリングも一度理解してしまえばそこまで難しい問題ではないといえますが。
ービットコインは、ブロックチェーンとどのような関係性でしょうか
高橋:ブロックチェーンは前述の通り、記載されているデータを信頼できる仕組みです。信頼できるものは、それが金であれ、日本円であれ、貨幣として使うことができます。そのうち、今もっとも使われているのがビットコインです。
曾川:以前は人々は「金」という価値を信じていました。今はインターネット上での「ビットコイン」というものに価値があると信じられています。数年前に、とある決済サービスで、ビットコインを対応するかどうか考えていました。しかし、当時は、そのビットコインの説明を人々にするのが大変でした。しかし、今は、ビットコインの説明がいらなくなりました。おカネとしてはその点が重要なのです。ビットコインの仕組みによって価値が生まれるのではなく、人がそれを信じているということが重要なのです。その点で、今は、ビットコインがもっとも人から信じられているおカネ的な概念とも言えます。
ちなみにメルペイは「信用を創造して世の中の仕組みを作る」というミッションをおいています。そこにおける信用は、形のある貨幣やビットコインである必要ではなく、何か信用できる対象があれば良いと考えています。ただ、現時点では、その信用の対象としてもっともわかりやすいのが貨幣です。そして、ビットコインは、それを分散計算で信頼性を担保しているだけです。それでも、信用されるから通貨として利用されるのです。
濱田:最近、人と話をしていて「お金とビットコインがどちらが欲しい?」と聞くと、「ビットコイン」と答える人が多いのです。そのビットコインの金額がいくらとも言わないのに。それほど、人がビットコインを信仰し始めたのは面白い現象です。
高橋:だから価値保存の方法としてのビットコインは定着しつつあります。ただ、「発行量を増やす」といったことをすると、信用破壊になるかもしれませんが。
濱田:そのようなことは「絶対にやらない」にも関わらず「仕組みとしてはできるよね」という人がいるので、話がおかしくなるのが現状ですね。
そのような「もしかすると」といった話は、元をただせばビットコインだけでなく、「金」の話でもありました。たとえば、金は有限じゃないかもしれません。コピーできるかもしれません。錬金術で生み出せるかもしれません。でも、いま、世の中では、そのような議論はほとんどしていませんよね。なぜなら何百年の歴史で「金が複製できるかどうかなどは、もう議論しないでいいよね。複製できないということでいいよね」となりました。
だから、「金は価値がある」と信じられているのです。
ビットコインもそうなるでしょう。「どうこうだから信頼できない」という議論はいつか終わって、信頼できるようになります。それがビットコインかはわかりませんが(笑)
高橋:このブロックチェーンが普及した理由として、ブロックチェーンが、価値を担保できるという経済性を内包していたからとも言えます。
曾川:今までインターネットにおいて、オープンソースの世界はボランティア活動でした。いまはブロックチェーンで本当の貨幣を生み出すことができます。たとえば、「イーサリアム」が最たるものでしょう。経済性がないプロトコルは、なかなか普及が促進されにくいものです。たとえば、某次世代インターネットプロトコルも経済性があれば、もっと普及は早くするかもしれません(笑)。
メルカリは「捨てるをなくす」ことで新しい価値を生み出すマーケットプレイスとなるべく日夜プロダクトを開発していますが、もしこれがタダで人にものをあげる仕組みを提供していたらここまで多くのお客様に使っていただくことはできなかったでしょう。
メルカリ上でお客様自身で売ってもいいと思う価格をつけることで経済合理性が生まれ、その結果、価値の交換の連鎖にサスティナビリティがもたらされたと言えるでしょう。
ーなぜブロックチェーンが生まれたのでしょうか
高橋:ブロックチェーンの概念が注目を浴び始めたのは、リーマンショックの後です。そう考えると、お金や経済に対する信用不安があっために、「信用できるもの」として、ブロックチェーンやビットコインが生まれたのではないでしょうか。
曾川:リーマンショック後の、景気改善施策の量的緩和も世の中の人全員を平等によくしたわけではないですし。
濱田:そう、これだけお金が増えていると、牛丼の値段も高くならないとおかしいのにね。つまり、お金が世の中にきちんと分配されていないわけです。
高橋:家など、お金持ちが買うものだけが高くなっていますよね。
曾川:再分配がきれいに起こってないということですね。
これは、人の価値の再評価が行われていないからです。たとえば労働力はそれ自体が持つ価値を評価しにくいのです。そのため、それらの価値があがっていません。
対して、土地などの評価はわかりやすいものです。そのため、量的緩和で土地の値段があがりました。
でもブロックチェーンを使えば、そのような今、価値として評価しにくいものも可視化できるかもしれません。それによって、あらゆるものの価値が可視化されると、経済も今よりは平等に影響を与えることができるでしょう。そうすれば、より多くの人たちをエンパワーメントできるかもしれません。ブロックチェーンはそのような可能性を持っているのです。
濱田:メルカリにも、このあたりを一緒に考えて取り組んでくださる経済学者がいると良いですね(笑)
ーそのようなブロックチェーンが持つ性質を利用することにより、中央集権ではなく、人々同士で意思決定を行うことを「Decentralized(分散化)」ともいいます。この考えは、どのように世の中を変えるでしょうか
高橋:いままでは人同士のやりとりではトラブルが避けられませんでした。
たとえば、「言った、言ってない」「払った、払ってない」「聞いていない」などです。そのため、そのやりとりのトラブルを解決するため仲介者が存在していました。たとえば、それは不動産の仲介であったり、車のディーラーであったり。
でも、ブロックチェーンで信頼が担保できるようになりました。
また、契約もブロックチェーン上でできるようになりました。そのため、仲介者が不要になっていきます。中央にいた人たちがいなくなり、非中央化が進みます。これがDecentralized(分散化)です。
曾川:世の中において、価値を動かす時は、摩擦によって、価値が減衰するようになっていました。摩擦とは、たとえば、仲介コストや手数料、配送コストなど、いろいろな形がありますが、やりとりをする時に生じるコストです。そのような中間コストの一部はDecentralizedなしくみによって低減することが出来ます。
濱田:たとえるならば、あるAさんが別荘がほしいとします。そこで、銀行から1億円を借りて、別荘を買いました。その時点では、リアルなお金は1円も動いてはいません。ただ、Aさんは別荘は毎日は使っていないので、それを他の人に貸し出します。そして、その費用を銀行の融資の返済にあてます。ただ、貸している間は、自分は泊まれません。結果的にAさんは別荘を買いましたが、そこに住めていません。元からあった状態と変わりません。そう考えた場合、ここでは、リアルなお金は何も動いていないのに、帳簿上の経済はまわっています。
もし、このコミュニケーションで、価値のやりとりに摩擦がなければ、経済を回すことができます。
ただ、実際には、価値のやりとりに摩擦が生じます。たとえば、銀行はお金を貸す時に手数料をとります。不動産の売買にも手数料がかかります。別荘を貸す時にリスティング広告を出せば、それも費用になります。しかし、ここで、仲介者を要しない仕組みがあれば、摩擦も少なくなり、みんな得をします。もちろん、仲介者はトラブルの解決などの価値提供をしていることもあるでしょう。ただ、Decentralizedな仕組みの方が、そのような価値提供の費用を安く実現することができます。
ビットコインですら「不正な利用がされることがない」という前提だったら、取引のコストは0でも良いのです。でも、現実的には、改ざんなどをしようとする人がいます。それを防ぐために、PoWで、コストをかけて不正のやりとりが起こらないようにしています。ただ、そこにかかるコストは、本来は中央集権が行うやりとりで発生するコストよりもずっと安いはずです。
ーDecentralization(分散化)はあらゆる産業にインパクトを与えると言われていますが
高橋:全部Decentralizedになるか、というと疑問です。
曾川:そう。まず、仮想通貨の取引所が、Decentralizedではありません。Decentralizedな仕組みが、みんなにとって使いやすいわけではありません。世の中の一般の人たちがたくさんの人が使おうとすると、Decentralizedされたサービスよりも、Centralizedされた(中央集権化された)サービスの方が使いやすいということもあるでしょう。今後は、Decentralizedな世界の上に、Centralizedのサービスが生まれるといった世界になるかもしれません。
インターネットがそうなっています。インターネットは、Decentralizedだと思われていますましたが、実際のところ、大半のユーザのトラフィックはGoogleや主要なCDNを中心に流れています。そう考えると、実はインターネットは中央集権です。ネットワーク効果が生まれ結果的に「Winner takes all」を引き起こし、その勝者がCenterになるという特性があるのです。ただ、そのような世界において、勝者がネットワークにどう価値を再分配するのかがとても重要です。その分配がすなわち社会保障になります。それに関して少し自分の話をさせてください。
濱田:曽川さんの社会保障の話きましたね(笑)
曾川:メルカリに入るまではずっと決済ビジネスに関わってきていて、自分たちでやっていた会社や前職のLINEでも決済に関わってきました。前職を退職して「何をしようか」と考えた時に決済には十分に取り組んできたので他の何か新しいことに取り組みたいと考えていました。ただ、結果的に、今、メルカリで仮想通貨やブロックチェーンにまつわる事業に携わっています。それはなぜか。
詳細は割愛するのですが、メルカリに来る少し前くらいから価値と信用と社会保障に強い興味を持ったからです。社会保障の考え方は自分で行う「自助」、公的機関が行う「公助」、そして、人同士や社会による「共助」の3つの組み合わせだと言われています。
高橋:話が不思議な方にいってしまう(笑)
曾川:ブロックチェーンに戻ってくるので、もうちょっとだけ聞いてください(笑)。この社会保障の中で特に共助がメルカリと関係があります。当初、メルカリ代表の山田進太郎が言っていた「捨てるをなくす」という概念は「要らないものに新しい価値を見出す」という点で、お互いが助け合う共助だと考えています。そういうところで、メルカリは価値経済なので、貨幣経済に依存しない形で共助の経済ができる可能性があると感じました。そのため、そのような社会保障をつくることができるとするとメルカリならできるんじゃないかなと思ったりしました。
ちなみに、社会保障は、基本にはインフレ前提で設計された仕組みです。ただ、ブロックチェーンなどによる仮想通貨の経済圏は、発行通貨量にキャップがあるものが多いので、デフレになるものです。そう考えると、今は、片方でインフレを前提とした社会保障があり、片方で、デフレになる可能性を持った経済を信じている。そう考えると面白い時代です。
ビットコインもコミュニティで合意形成できれば発行通貨量の上限を増やせるかもしれませんが、その結果どうなるかは想像できないです(笑)
高橋:社会保障はブロックチェーンでしてほしいですよね。今は税金が何に使われているかわかりません。ブロックチェーンができればそれがトレースできます。何より、ブロックチェーンを使えば、価値を付けにくかったものに価値をつけることができます。そう考えると、ベーシックインカムも実現できるかもしれません。たとえば「いきているだけで価値」という仕組みも作れるかもしれません
曾川:たとえば、自分の健康情報をあげて報酬をもらえる仕組みがあればできるかもしれません。その健康情報を元に医学が発達し寿命が伸びるなら、将来の人はその情報に価値を感じます。その価値を前借りして対価を得ることができれば、思考実験のように思われると思いますが「生きているだけで価値を貰える」ということになるんじゃないかと思ったりします。
ーただブロックチェーンで社会保障をした場合、さきほどの話だと社会保障はインフレ前提に設計された制度ですが、ブロックチェーンはデフレになる仕組みです。そうすると社会保障に限界がきませんか
曾川:それは金銭的な価値で考えるからです。もしGDPが0やマイナスでも社会保障ができるようにするならば、金銭的以外のもので価値をつけることができるようになればいいのです。そして、ブロックチェーンなら、それができるかもしれません。
濱田:とある人が言っていた話が面白かったです。
「インターネットで情報が自由に送れるようになった。そして、ブロックチェーンで価値が自由に送れるようになった」と。
ブロックチェーンで、今、見えないような行動に価値をつけられるようになると、貨幣から離れて生きていけるようになるでしょうね。
ーブロックチェーンが普及すると世界はどのように変わるでしょうか
高橋:最近、僕自身、所有の概念も変わってきました。僕は、昔、所有に興味がありました。たとえば、車の所有は、「車を自分のものにすること」というものです。
でも、ブロックチェーンの考え方に触れて、最近は「死ぬまで使える権利」が所有という風に考えるようになってきました。
曾川:僕はもともと所有にあまり興味がありません。死んでも何も持っていけませんし。たとえば、もし僕が死んだ時に、誰も秘密鍵がわからず、僕のビットコインのウォレットにアクセスできなくなったら、僕のビットコインの価値はなくなります。ただ、僕のビットコインが死蔵されることで、ビットコインの経済圏の人たちは利益を享受できるでしょう。私がもっていたビットコインの価値分の発行量が減るということなので、すなわち、相対的に他の人のビットコインの価値をあげることになります。
メルカリは物を売買をしているにも関わらず、共有を意味するシェアリングエコノミーと言われることもあります。なぜならお客様はお金を出してものを買いますが、その物をまた売ることができます。所有の権利はどんどん移転していきます。そう考えると、メルカリでの物の売買はシェアリングエコノミーに近い世界なのです。僕は、メルカリをお金がなくても使えるメルカリにしたいと思っています。つまりお客様の信用を創造して物をお貸しすることで使っていただく。それは、いわば、お金がなくてもものが買えるメルカリです。そしてメルカリ通して返してもらったものが誰かに使われる。そんな世界も面白いと思っています。
濱田:今は、そこに10%の手数料の摩擦があるから価値が減衰してしまいますが、いつか減らせる仕組みができるといいなぁと思っています。こんなこと言うとまずいかな(笑)。
ーブロックチェーンの課題に関しても聞かせてください。ブロックチェーン上で、契約をするスマートコントラクトという概念があります。ただ、スマートコントラクトを現実の世界で使おうとすると、契約対象の行使や真偽をきちんとブロックチェーン上の反映させる必要があります。そんなことが現実的にできるのでしょうか。
曾川:現実的に、あらゆるものの契約をスマートコントラクトに対応させるのは難しいのは事実です。だから使える場所は限られるでしょう。たとえば、VRの世界だとそこにあるものはデジタルなので、スマートコントラクト上に乗せやすいでしょう。
高橋:同じように、デジタルコンテンツならば活用できます。いつか、デジタルコンテンツが切手のように数億円で売買される世界はすぐにきています。
濱田:仮想通貨のティザー(Tether)の問題も同じ課題といえるかもしれません。これも、ブロックチェーン上では、ティザーが「法定通貨とレートが固定された通貨」としては成り立っていました。ただ、現実の世界では、ティザーで求められているだけの法定通貨を持っていないのではないかという疑惑が生じています。
高橋:このオラクルの問題を解決しないと、土地登記といったリアルとの接続は難しいでしょう。スマートコントラクトの契約は正しくても、登記された土地が正しい土地かどうかはわからないですから。
ーメルカリとしてブロックチェーンとどう向き合うかお聞かせください
高橋:メルカリもブロックチェーンで実装してみてもいいのでは。
曾川:メルペイも。
高橋:いつかブロックチェーンでできたメルカリのような、Decentralizedでモノを売買するプラットフォームはできるでしょう。
曾川:クックパッドのようにメルカリも、「メルカリなしで、お客様同士がモノや価値の交換ができるようになるという世界がくれば、解散する」
ということもありえるのかもしれないですね(笑)。
濱田:それをスマートコントラクトで記載しておきますか(笑)。
ただ、実際、ブロックチェーンベースで、メルカリのようなサービスは生まれてきています。我々の事業にとっては脅威と捉えることもできるでしょう。ただ、お客様がそのようなサービスを使うのであれば、それはそのようなサービスが便利だからということです。そうなれば、メルカリとしては、それ以上にお客様に便利を感じてもらえる仕組みを考えていきたいと思います。
曾川:本のフリマのカウルはブロックチェーンと親和性があります。カウルで自分の持っている本を登録すれば、自分の目録になります。いわば、ブロックチェーンの台帳になります。そういうものをメルカリで作っても面白いですね。
高橋:ブランド品の売買をするメゾンズにも使えるかもしれません。ブランド品にタグを入れておいて、保証書のようにブロックチェーンを使えれば、偽物に悩まされることも少なくなりますね。
濱田:今後、アートなどもそのような仕組みは活用ができるでしょうね。
ー日本としては、このブロックチェーンをどう捉えるべきでしょうか。
曾川:社会保障においては日本が先進国ですし、ブロックチェーンの活用で日本が社会保障のいい事例が作れると思います。
そのような点で、ブロックチェーンによる社会保障をリードできるようになると、世界にも貢献できていいですね。
ーでは最後に。今後、ビットコインはあがると思いますか?
濱田/曾川/高橋:知りません(笑)。
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