東京23区の5倍ほど、面積3000平方キロにおよぶ巨大湖の水が消えてなくなった。
ここは、かつて南米ボリビアで2番目の広さを誇ったポーポ湖。ボートのそばには黒いゴム長靴が転がり、真っ白になった魚の頭骨には、照りつける太陽の光が反射している。水が生命の源なら、ここは水も生命もない死の世界だ。
アンデスの高地から巨大な湖が消えたのはなぜか。
発熱する湖
ボリビアのアルティプラノは、アンデス山脈を構成する2本の山脈に挟まれた高原地帯だ。高原の北端近くには、海抜3810メートルの地点にペルーとボリビアの国境にまたがってティティカカ湖が広がる。一方、南端には世界最大の塩湖、ウユニ塩湖があり、ポーポ湖はこの二つの湖の間に位置している。
ポーポ湖と運命をともにしているのが、「水の民」とも呼ばれる先住民ウルの人々。近年は湖が縮小して魚が減り、漁をするにも湖の中央部まで出なくてはならない状態だった。2014~15年には、水温が上昇して湖面がさらに下がり、死んだ魚が大量に浮かび上がった。ボリビア保健省から派遣されているフランズ・アスクイ・ズナは、水温が38℃を記録したのを受け、湖は「発熱している」と表現した。
湖に生息していた鳥たちは、食べ物がなくなって餓死するか、ほかの土地へ移動した。そして2015年に、温まった湖水がアルティプラノ高原の風にあおられて大規模な蒸発を起こし、ついに湖は姿を消した。
一帯を災害地域に指定し、周辺の村々に食糧などを配給した政府は、雨が降って水位が少し回復した2017年初頭には、誇らしげに空撮写真を公表した。しかし、湖の水位が低ければ蒸発も速い。現地を視察したエボ・モラレス大統領は、地元住民ならとうの昔に知っていたその事実を目の当たりにするのだ。同年10月の衛星画像で、湖は再び消失寸前であることがはっきりした。ポーポ湖とその周辺に暮らす貧しい人々の生活は、ますます厳しい状況に陥っているのだ。
世界の湖が危機に
気候変動により、世界各地の湖の水温は、海水温や気温を上回る勢いで上昇している。蒸発が加速し、さらに人為的な要因も加わって、水不足や汚染、鳥や魚の生息域の喪失は深刻さを増すばかりだ。
「気候変動はあらゆる地域で確認されていますが、湖に与える影響はさまざまです」と話すのは、米イリノイ州立大学の水域生態学者キャサリン・オレイリーだ。彼女は、64人の科学者が参加する世界的な湖沼調査の共同責任者を務めている。