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中国「全人代大会」で見えた、習近平と李克強の「恐るべき暗闘」

「半永久政権」に反対の声も…?

李克強首相の大チョンボ

3月5日月曜日の北京時間午前9時、ベルが鳴って習近平主席がのっしのっしと、人民大会堂の「万人大礼堂」のひな壇に入ってくると、待ち受けた全国人民代表大会の2970人の代表たちが、一斉に拍手を送った。

習近平主席に続いて、静かな足取りで李克強首相が入ってきた。

今回から、全国人民代表大会の常任委員長(国会議長)となる栗戦書党常務委員(共産党序列3位)が、やや自信のなさそうな声で開幕を宣言する。

「代表2980名中、2970名が出席しており、法定人数に達しているため、開幕!」

残り10人は、病気だったり、失脚したりした者だ。

全員で起立して、国家斉唱。中国中央テレビのカメラは、壇上中央で国家を口ずさむ習近平主席を、アップで映し出す。

続いて、李克強首相の「5年間の政府活動報告」に移った。時間にして、1時間47分のロングスピーチである。

李首相の第一声は、「各位代表」(各界の代表の皆様)と呼びかけるものだったが、いきなり声が擦れて、調子がおかしい。ちょうど2年前のこの日の「政府活動報告」が、私の脳裏によぎった。

 

2年前はよほど体調不良だったようで、後半は汗だくになりながら、言い間違えを連続した。あげく、「鄧小平の一連の重要講話の精神を深く貫徹する」と述べた。

これは草稿では、「鄧小平」ではなく、「習近平総書記」だったのだ。そのため、演説が終了するや、習近平主席は怒りに満ちた表情で、李克強首相と挨拶を交わすこともなく、すたすたとひな壇から出て行ってしまった。

だが、「2年前の再現となるのでは」という私の懸念は、図らずも的中してしまった。演説が始まってわずか1分、草稿の2段目の段落で、李克強首相は、習近平主席の怒りを買う決定的なミスを、2回も犯してしまったのだ。

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毛沢東時代なら失脚していたかも…

一つ目は、草稿には日本語に訳すと、こう書いてあった。

「(2017年10月開催の)第19回党大会で、習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想の歴史的地位を確立した」

それを李首相は、こう読んだのだ。

「(2017年10月開催の)第19回党大会で、習近平新時代の中国の特色ある社会主義の歴史的地位を確立した」

なんだ、「思想」が抜けただけではないかと思うなかれ。今回の全国人民代表大会は、普段の年は10日ほどしか開かないのに、20日までの16日間という、過去25年で最長の日数である。

なぜこれほど長いかと言えば、最大の理由は、習近平主席が、計25ヵ所もの憲法改正を断行したいからである。

憲法改正の目玉は3点で、第一に前文に「習近平」という名前を入れること。第二に国家主席の任期を撤廃して、「習近平半永久政権」を可能にすること。第三に、そういった「習近平超一強体制」に歯向かう者を「合法的に」パージできる国家監察委員会を設置することである。

前文に習近平の名前をどう入れるかというと、「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」と入れるのである。つまりこの長い句は、あくまでもこれで「一句」なのだ。

そのため、やや穿った見方をすれば、李克強首相は、習近平主席が今回行おうとしている憲法改正の精神に逆らったことになるのだ。

加えて、この長い句の中で、最も大事な単語は「習近平」で、その次は「思想」なのである。なぜなら、「建国の父」毛沢東主席を誰よりも敬愛している習近平主席は、これまで「毛沢東思想」としか入っていなかった憲法に、「習近平思想」を加えることで、偉大な毛沢東に並び立つというという悲願を抱いているからだ。

こうしたことから、他の単語はともかく、「習近平」と「思想」だけは、絶対に取りこぼしてはならないのである。毛沢東時代なら、この一点のミスだけで、失脚させられた可能性がある。

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