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【社説】

メルケル氏再び 欧州の価値観を守れ

 ドイツの大連立合意が社会民主党党員投票で承認され、第四次メルケル政権が発足することが決まった。自由、寛容など戦後、国づくりのよりどころにしてきた価値観を守り続けてほしい。

 昨年九月の総選挙から半年近く続いた政治空白だった。

 第二党の中道左派、社会民主党(SPD)は、メルケル首相率いる第一党の保守、キリスト教民主・社会同盟との大連立継続をいったんは拒否した。しかし、メルケル氏と少数政党との連立交渉が決裂すると、SPDは大連立交渉に転じ、先月合意。SPD青年部を中心に反発が強まり、党員投票に向け、反対派の党員が多数入党するなど大連立反対運動を進めていた。メルケル氏らは薄氷を踏む思いだったに違いない。

 英国民投票ではポピュリズム(大衆迎合主義)的キャンペーンが繰り広げられ、欧州連合(EU)からの離脱を決めた。

 約四十六万人が参加した今回の投票でも、同様の危うさを指摘する声があった。否決されれば、再選挙となり新興右派政党「ドイツのための選択肢」が、さらに躍進する可能性もあった。冷静な判断を歓迎したい。

 SPDの政権入りに伴い、「選択肢」が野党第一党になる。同党は、ナチの過ちを繰り返すまいとの戦後ドイツの歴史認識への反発を党幹部が公言するなど、極右的体質が色濃い。党勢拡大は、寛容や多様性を重んじてきたドイツ社会を損なう。新政権は政治の安定と信頼回復に取り組んでほしい。かじ取りは易しくはないが、大連立で得た安定を生かしてほしい。

 負担が大きく、異文化と衝突しながらの難民受け入れには国民の不満が大きい。連立合意では、年間受け入れ人数を十八万~二十二万に抑制するとしている。現実的対応を探ることになるだろう。

 英国が離脱するEU再建にも引き続きメルケル氏の手腕を期待したい。ユーロ圏改革や、強権姿勢を強めるポーランドやハンガリーへの対応が当面の課題だ。

 トランプ米大統領の「米国第一主義」で従来の価値観が大きく揺らぐ。ドイツには自由、協調などの価値観を担い、欧州をリードする存在であり続けてもらいたい。

 メルケル氏が四期目を全うすれば首相在任十六年となる。支持率低下は長期政権には宿命の飽きの表れでもある。次期政権を見据えた後継者育成は、ぜひにも必要となるだろう。

 

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