「私は外科医なので、様々な手術をしてきましたが、今は基本的に人の身体を傷つける手術は、できるだけ避けるべきだと考えています」
こう語るのは、帯津三敬病院名誉院長の帯津良一氏(81歳)。そんな帯津氏が「自分が患者なら受けたくない手術」として挙げたのが食道がんの手術だ。
「私が40代後半の頃、食道がんの手術をした患者さんに『先生だったら、この手術を受けましたか?』と聞かれたことがあります。当時の私は手術こそが最も有効な手段だと思っていたので、自信満々に『もちろん受けますよ』と答えました。
しかし、今はそうは思いません。あまりにも身体への負担が大きすぎるため、その後の患者さんの人生、QOL(生活の質)を大きく損なってしまうからです。特に首から上の手術をすると人相までも変わってしまう」
健康増進クリニック院長の水上治氏(69歳)も同じ意見だ。
「食道がんの場合、『食道亜全摘術』(食道とリンパ節を切除し、胃を持ち上げて残っている食道とつなぎ合わせる)という大手術になるため、医者の腕によって大きな差が出ます。
中村勘三郎さん('12年、食道がんの手術後死去。享年57)のように、合併症の危険もある。術後死や後遺症を考えると、60歳を超えてからは受けたくない」
最悪の場合、食べられなくなり、寝たきりになることも考えられる。にもかかわらず、腕試し感覚で、食道がんの手術をしたがる医者は少なくない。しかし、医者自身がその手術を受けるかといえば、答えは「NO」だ。
食道がん同様に、多くの60歳以上の医師が受けたくないと答えたのが、膵臓がんの「膵頭十二指腸切除術」だった。
大腸がんの権威で、神奈川県立がんセンターの赤池信氏(68歳)ですら膵臓がん手術には否定的だ。
「治癒切除率の低さと術後合併症の頻度、QOLを考慮すると正直、自分なら受けたくない。手術の代わりに重粒子線治療を選択したい。
他にも膀胱がんに対する人工膀胱造設術は避けたいですね。理由は自己管理が非常に困難で、常に尿漏れが続くからです」
前立腺がんの手術も「受けない」と答えた医者が多かった。大阪大学人間科学研究科未来共創センター教授で循環器内科医の石蔵文信氏(62歳)が語る。
「前立腺がんや甲状腺がんは進行が遅いので、手術せずとも、そのまま人生を終えられる可能性が高い。実際80歳以上で亡くなった男性を調べてみると、多くの人に前立腺がんが見つかっています。
最近はPSAという前立腺がんマーカーの数値がちょっと高いとすぐに『手術しよう』と言われますが、海外の論文では手術のやり過ぎを指摘する声も多い」