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仏作家セリーヌの激烈な反ユダヤ評論、大手出版社が復刊に意欲
【3月5日 AFP】フランス屈指の出版社ガリマール(Gallimard)のアントワーヌ・ガリマール(Antoine Gallimard)社長は4日、作家ルイフェルディナン・セリーヌ(Louis-Ferdinand Celine)が記した激烈な反ユダヤ主義のパンフレット類の復刊に改めて意欲を示した。
問題の作品は、物議を醸す小説家セリーヌが1930年代末ごろに書いた1000ページの評論集。同社長が復刊を示唆したところ批判が集まり、今年1月に計画の保留に追い込まれていた。
ガリマール社長は日曜紙ジュルナル・デュ・ディマンシュ(Le Journal du Dimanche)に対し、「計画を保留にはしているが、断念したわけではない」と言明。
社長は作品の内容をめぐって白熱している議論に触れ、「保留にした理由は単純だ。火が燃え盛っている時に価値あるものを打ち立てることはできない。沸き立つ劇場で声を届けることはできないからだ」と説明した。
フランス最大のユダヤ人団体は、中にはドイツによる仏占領開始直後に書かれたものもあり、「人種差別的で反ユダヤ的な憎悪のえげつない扇動」に当たる作品群だと主張している。
仏弁護士でナチス・ドイツ(Nazi)を糾弾するセルジュ・クラルスフェルド(Serge Klarsfeld)氏は、フランスのユダヤ人を死に追いやったコラボラトゥール(対独協力者)世代全体に影響を与えたのがセリーヌであり、復刊阻止のため法的措置も辞さない構えを示した。
ガリマール氏は、それでも復刊を希望しているのはセリーヌが残した痛烈な評論の「校訂版」であり、作品群とセリーヌを当時の歴史的文脈の中で捉え、セリーヌ研究の第一人者であるレジス・テタマンジ(Regis Tettamanzi)教授と著名な伝記作家でユダヤ人のピエール・アスリーヌ(Pierre Assouline)氏による序文を付す考えを示している。
■「卑しき天才」
「夜の果てへの旅(Journey to the End of the Night)」などの作品で知られ、当時はフランスの最も偉大な作家の一人と目されたセリーヌだが、「皆殺しのためのたわ言(Bagatelles for a Massacre)」、「死体の学校(School for Corpses)」、「苦境(The Best Sheets)」というこの3つの評論により、その名声は著しく傷ついた。
セリーヌは1944年、第2次世界大戦(World War II)のノルマンディー(Normandy)上陸作戦決行日「Dデー(D-Day)」後にフランスを離れ、後に欠席裁判により対独協力の罪で有罪判決を受けている。
ガリマール氏は、セリーヌにまつわる真実を直視し、「天才は同時に卑しき人間にもなり得る」ことを示すことが肝要だとしている。(c)AFP/Laure FILLON, Fiachra GIBBONS