「シェイプ・オブ・ウォーター」米アカデミー賞4部門受賞 作品賞と監督賞
米映画芸術科学アカデミーは4日、ロサンゼルスで第90回アカデミー賞授賞式を開いた。最多13部門で候補になっていたギレルモ・デル・トロ監督のファンタジーロマンス「シェイプ・オブ・ウォーター」が、作品賞と監督賞を含む4部門で受賞した。
登壇した受賞者やプレゼンターの大勢が、女性や少数民族、性的少数者などあらゆる人の包摂と権利実現の重要性を繰り返し強調した。「スリー・ビルボード」で主演女優賞を獲得したフランセス・マクドーマンド氏は受賞スピーチで、女性の候補者全員に立つよう促し、自分たちには「語りたい物語」や「資金が必要な企画」があると、女性が作り手となる作品の重要性を訴えた。
英国からは、「Darkest Hour」(邦題「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」)のギャリー・オールドマン氏が、チャーチル英首相役で主演男優賞を獲得。初受賞のオールドマン氏は受賞スピーチで大勢に感謝した上で、98歳になる母親の愛と応援に感謝し、「やかんを火にかけて。オスカーを連れて帰るから」と語りかけた。
様々な少数者差別の横行する冷戦下の米国を舞台に、発話障害のある清掃係の女性と、水中で生きる捕らわれの生き物との恋愛を描いた「シェイプ・オブ・ウォーター」は、作品賞と監督賞のほか、美術賞と音楽賞を獲得した。
昨年の授賞式で作品賞を間違って発表する羽目になったウォーレン・ベイティ、フェイ・ダナウェイ両氏が今年も出演し、作品賞を発表した。「シェイプ・オブ・ウォーター」のほか「スリー・ビルボード」や、リベラルの隠れた人種差別を痛烈に風刺した「ゲット・アウト」も有力視されていた。
主演女優賞に名前が呼ばれ大歓声を浴びたマクドーマンド氏は、いったん手にしたオスカー像を床に置き、会場の女性候補たちに立ち上がるよう促した。その上で、会場の映画製作会社幹部に「皆さん、まわりを見回して。私たちには語りたい物語があって、資金が必要な企画があるのだから。今晩の色々なパーティーで私たちにその話をするのでなく、数日後に私たちをオフィスに招いてください。それか、私たちのオフィスに来てください。どちらでもそちらの都合のいい方で。その時に、いくらでもお話しますから」と呼びかけた。
昨年秋に発覚した大物プロデューサー、ハービー・ワインスティーン氏による長年の性的加害行動疑惑を機に、ハリウッドは少数者の権利実現をめぐり揺れてきた。その中で注目の主演女優賞を得たマクドーマンド氏は、「今晩言い残したい単語は2つ、inclusion rider です」(キャストやスタッフの多様性確保を条件とする契約条項)と言明した。
舞台裏でマクドーマンド氏は、「inclusion rider」(包摂条項)で俳優は、作品のキャストとスタッフの人種・性別などの構成を少なくとも50%は多様なものにするよう契約の上で要求することができると説明した。
「私たちはもう後戻りしない」とマクドーマンド氏は言い、「女性がトレンド入りしてるっていうその発想がそのものが。いいえ、トレンドじゃない。アフリカ系米国人がトレンド入り? いいえ、トレンドじゃない。今から変わります。そこに包摂条項が関わってくることになると思う」と強調した。
マクドーマンド氏は「スリー・ビルボード」で、強姦され殺害された娘の事件を捜査しない警察と対立する母親を演じた。1997年の「ファーゴ」に続いて2度目のオスカー主演女優賞となった。
主演女優賞を発表したジェニファー・ローレンス氏は、「ハリウッドで新しい日が始まります。私たち全員の前に、新しい色々な挑戦が待ち受けています。けれども私たちは先人を決して忘れません。私の世代や未来の世代に向けて、道を切り開いた人たちを」と述べた。
授賞式では、性的暴力被害への連帯を示す「#MeToo(私も)」運動や、映画界における性的加害行動撲滅運動「Time's Up(もう時間切れ)」をアシュリー・ジャド、アナベラ・シオーラ、サルマ・ハイエク各氏が紹介する箇所もあった。3人とも、ワインスティーン氏非難に名乗りを上げている。
「新しい声や今までと違う声、自分たちの声がまとまって強力な大合唱になり、ついに『Time's up』と告げている。私たちが目にしてきた変化は、その大合唱が原動力となっている」とジャドさんは話した。
授賞式を司会した人気トークショー司会者のジミー・キメル氏は冒頭で、「ハービー(・ワインスティーン氏)に起きてることや、あちこちで起きてることは、もうずっと遅すぎたくらいだ」と切り出し、「不品行をこれ以上、なかったことにはできない。世界に見られているんだ」と述べた。
作品賞や監督賞、主演男優賞候補だった「ゲット・アウト」は、脚本を書いたジョーダン・ピール監督が、脚本賞に選ばれた。アフリカ系の候補が同賞を受賞するのは初めてで、ピール監督はハリウッドにとって「ルネッサンス(再生)」の時だと称えた。
「全ジャンルの最高の映画がどれも、仲間の黒人監督によって生み出されているようで、その動きの始まりに立ち会えて誇らしい」とピール監督は述べた。
女性監督作品で注目された「レディ・バード」や、スティーブン・スピルバーグ監督の「The Post 」(邦題「ペンタゴン・ペーパーズ」)は受賞を逃した。
助演女優賞は、人気テレビドラマ「The West Wing」(邦題「ザ・ホワイトハウス」)で知られるアリソン・ジャニー氏が、フィギュアスケートのナンシー・ケリガン選手襲撃で有罪となったトーニャ・ハーディング選手を描く「I, Tonya」で受賞。助演男優賞は、「スリー・ビルボード」で人種差別を重ねる警官を演じた、サム・ロックウェル氏が受賞した。
「眺めのいい部屋」、「ハワーズ・エンド」、「日の名残り」など数々の映画で知られるジェイムズ・アイボリー監督は、「君の名前で僕を呼んで」で脚色賞を受賞した。89歳のアイボリー氏は過去昨年長の受賞者で、1929年5月の第1回授賞式より早い1928年6月生まれ。
米プロバスケットボールNBAのスター選手だったコービー・ブライアント氏は、短編アニメ「Dear Basketball」で受賞した。
撮影賞に14回ノミネートされたロジャー・ディーキンス氏は、「ブレードランナー2049」でついに初受賞を果たした。
(英語記事 Oscars 2018: The Shape of Water and Frances McDormand rule)