これはかなりスポーティーカーである。というのが、走り始めての第一印象だった。正直、ビックリした。意外の元凶は、こう申し上げてはフォルクスワーゲン グループ ジャパン(VGJ)にケンカを売るようだけれど、ま、お買いにならないとは思いますが、ならないでほしいのですけれど、ボディーサイドにドーンと貼られたTDIのステッカーにも一因があった。カッコ悪くないですか。
もちろん担当者の心情はわかります。排ガスの浄化システムの不正ソフトウエアをめぐる「ディーゼルゲート」の危機を乗り越え、待望久しいTDIがついにやってきた! 日本市場における輸入車のディーゼル比率はここのところ2割を超えている。モデルによっては半数以上だ。販売の現場としてはまさに「待ってました!」だったろう。
しかるに本国から送られてきたTDIは、ガソリン2リッターのTSIと外見上、なんにも変わらなかった。なぜ変わらないかといえば、TSIとTDIはガソリンとディーゼル、違うのは燃料だけの、同じ1枚のカードの裏表、あるいは色違い、みたいなモノであることに意味があるからである、お互いにとって。21世紀のクリーンディーゼルと、ガソリン直噴ターボはそういうイメージづくりがなされている。
されど、少なくともキャンペーン用のクルマにTDIと書いておかなければ、いったいどうしてこのクルマがTDIだと知らせることができましょうぞ、と時代劇みたいなセリフまわしではいわないだろうけれど、VGJの担当者は憤慨されるに違いない。もし、おことが担当者であったら、いかに対処しましょうぞ。それに、である。売り物には貼ってないのであるから、気にする必要はみじんもござらん、TDIのステッカーは。というようなやりとりを書いていると長くなるだけですけれど、申し上げたかったのは、繰り返しになるけれど、パサートTDIはスポーティーな仕立てである、ということである。
さる2018年2月14日のバレンタインデーに発売になったTDIの日本仕様は、パサートのセダンと同ヴァリアント(ワゴン)の2ボディーで、「エレガンスライン」と「ハイライン」の2種のグレードが設定されている。
今回webCGが借りたTDIはヴァリアントのハイラインで、車両価格は509万9000円。ガソリンの2.0 TSIにもヴァリアントのハイラインはあって、そちらは474万9000円。ということは、ディーゼルエンジン代として35万円お高くなっている。しかし、そのことは外見からは判断がつかない。TDIのバッジすらない。だからTDIと大書したステッカーを貼りたくなっちゃったのですねー。しつこくて、すいません。
例えば、リアスポイラーは「Rライン」や「GTE」と同じ形状で、スポーティヴネスを強調している。のだけれど、このスポイラー、いまどきにあっては控えめで、筆者の目は留まらなかった。
気になったのは、同じリアでも、ルーフではなくて、下の方だった。エキゾーストはデュアルパイプになっているのだけれど、ごく控えめで、むしろ隠しているようにも見える。新世代ディーゼルのEA288型ユニットは、190ps/3500-4000rpm、400Nm/1900-3300rpmという強力な最高出力&最大トルクをディーゼルにしては高めの回転域で生み出すというのに……。これが環境という名の重い十字架を背負っている宿命なのでありましょうか。
筆者の目は次に、235/45R18の大径偏平タイヤとホイールに照準が合った。400Nmという、自然吸気のガソリンエンジンだったら4リッターV8並みのトルクをフロントのタイヤは路面に伝えねばならない。間違いなく重責である。銘柄は「ピレリP7」ならぬ「チントゥラートP7」。これはピレリ初の“グリーンパフォーマンスタイヤ”であるという。ちなみに「Cinturato」とはイタリア語で「ラジアル」を意味する。
でもって、ドアを開けてハッとしたのは、ウッドがダッシュボードに貼りめぐらされていることであった。これぞハイラインの証しだ。シートはナッパレザーで、サイドのサポートが、乗り降りに不便なことはまったくないけれど、かなり張り出していて、見た目はスポーティーである。そのくせ、このシートにはヒーターやベンチレーション、マッサージ機能までついている。
じつのところ筆者は迷っていた。ハイラインはラグジュアリー&スポーティー仕様だとして、いったい旦那仕様なのか、走り屋仕様なのか? エンジンもかけていないのだから、わからんのは当たり前である。
で、シフトレバーの横の控えめなシルバーの丸型ボタンを押してエンジンを目覚めさせると、ドカンと駆動系が微妙にひと揺れする。燃料をスパークプラグではなくて、圧縮によって自然着火させるディーゼルの爆発力=トルクの大きさを予感させる。
Dレンジに入れて走り始めると、軽くアクセルを踏んだところで、いきなりグワッと前に出る。乗り心地は硬めだ。パサートはエレガンスライン以上のグレードには「ドライビングプロファイル機能」が標準装備される。つまりTDIを選ぶと標準で付いてくる。ノーマルからスポーツにモードを切り替えるとエンジンと6段DSGはメリハリをくっきりとさせ、乗り心地が若干硬くなるような気すらする。アダプティブシャシーコントロール“DCC”は、テスト車のハイラインには付いていないというのに。
EA288型はディーゼルにしては回りたがる。さすが新世代である。タコメーターのレッドゾーンは4000rpmの半ば以上から始まっている。「可動式ガイドベーン付きターボ」という過給機が組み合わされている。これはエンジンの回転数に応じてターボチャージャーのタービンのガイドベーンを制御し、低速では開口面積を小さくして排ガスの流速を上げ、高速では開口面積を大きくして抵抗を減らすことで過給効果を高める。図で見ると、可変ジオメトリーターボのことのようである。ターボラグを減らすのに効果的で、ドライバビリティーと燃費を向上させる。
得意なのは街中での加速だ。ごく低回転、EA288型は1900-3300rpmのあいだで2リッターの排気量から前述400Nmもの大トルクを発生するわけだけれど、むしろアイドリングの750rpmぐらいから1900rpmに達するまでのトルクの盛り上がり感のほうがスゴイ。イッキに駆け上がる。龍(りゅう)が天に昇るがごとし。見たことありませんけど、ビュワッといく。一瞬、フロントが持ち上がる。
100km/h巡航は6速トップで1600rpmと、近頃の多段化を鑑みると、ちょっとギアが低めかもしれない、いまどき。扱いで肝心なことはガバチョと踏まないことだ。中間加速時のレスポンスではガソリンエンジンに軍配が上がる。街中でも高速でも、ゆったりした気分でドライブする。ディーゼルに乗っていると、おのずとそういう気分になることもまた確かである。今回は試していないけれど、ハイスピードで延々と走り続けるとき、ディーゼルほど頼もしい相棒はない。
居住空間も荷室も広い。こういうクルマを目一杯使い倒すようなライフスタイルを送りたいものである。いずこかに隠れ家があって、というような……。
というわけで、フォルクスワーゲンによき実用車がまた加わった。輸入車のディーゼル戦線はますます熾烈(しれつ)になるに違いない。こうなると、日本のメーカーはどうするんだろう……。
(文=今尾直樹/写真=小河原認/編集=関 顕也)