産経新聞が2月8日、「沖縄の交通事故で米兵が日本人を救出し、後続車にはねられた」という自社の報道について、「日本人を救助した」事実が確認できなかったとして、お詫びしたうえで記事を削除した。
この記事を配信していた「Yahoo! ニュース」が3月5日、お詫びと訂正を発表した。「ニュースを提供した責任」がその理由。提供元の記事をめぐり、ポータルサイト側が謝罪するのは極めて異例だ。
発端となった記事とは…
そもそもこの問題をめぐっては、産経新聞がこの「事実」を報じていない沖縄の地元2紙が「日本人として恥だ」と批判。一方、地元紙の琉球新報は独自の検証記事で、米軍も沖縄県警も「救助」を否定しており、産経新聞が県警に取材をしていなかったと反論していた。
事の発端は、産経新聞が12月9日に配信した以下のような記事だ。
《【沖縄2紙が報じないニュース】 危険顧みず日本人救出し意識不明の米海兵隊員 元米軍属判決の陰で勇敢な行動スルー》
2017年12月1日に沖縄市で起きた多重事故で、在沖縄米海兵隊の男性曹長が、「クラッシュした車から日本人を救助した在沖縄の米海兵隊曹長が不運にも後続車にはねられ、意識不明の重体となった」との内容だ。
記事では、沖縄の地元紙をこう批判している。
「米軍=悪」なる思想に凝り固まる沖縄メディアは冷淡を決め込み、その真実に触れようとはしないようだ。
この記事はネット上で拡散。様々な「まとめサイト」なども相次いで引用していた。
さらに、地元では回復を祈った寄せ書きイベントが開かれ、佐喜真淳・宜野湾市長も参加している。
産経新聞はこのイベントを報じた記事《「あきらめないで…」沖縄・佐喜真淳宜野湾市長も日本人救助後重体となった米海兵隊員に感謝のメッセージ》で沖縄県の翁長雄志知事を以下のように批判的に報じている。
トルヒーヨさんの勇敢な行動に対して全県民を代表する翁長雄志知事が沈黙に徹するなか、沖縄県内の首長でこうした形でメッセージを贈るのは佐喜真市長が初めて。
なお、3月5日午後7時現在、この記事は削除されていない。
琉球新報が反論
この問題は自衛隊にも波及した。
陸上自衛隊第15旅団も12月21日、Facebookで「自分の事を犠牲にしてでも、日本国民を助け出すという勇敢な行動に、私達は心から敬意を表します」と言及。
米海兵隊に折り鶴を贈呈している様子の写真がアップされている(記事は2月2日に修正)。
そのほか、八重山日報(石垣市の地元紙)や防衛ホーム新聞(防衛省、自衛隊員向けの新聞)などもこの件を引用するなど、情報は拡散した。
批判された琉球新報は1月独自に検証記事《産経報道「米兵が救助」米軍が否定 昨年12月沖縄自動車道多重事故》を掲載。
米海兵隊と県警が救助を否定しているとして、産経新聞が沖縄県警に取材しないまま、「誤った情報に基づいて沖縄メディアを批判した可能性が高い」と批判した。
産経新聞が自社内で記事を再検証をしたのは、この記事を受けてからだった。
そして2月8日、「記事は取材が不十分」だったとして、以下のようにお詫びし、該当記事を削除したのだった。
記事中、琉球新報、沖縄タイムスの報道姿勢に対する批判に行き過ぎた表現がありました。両社と読者の皆さまにおわびします。
Yahoo!「ニュース提供の責任」
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こうした産経新聞の判断を受け、Yahoo! ニュースは「事実関係に間違いのある記事を提供したことを重く受け止めておわびする」と謝罪した。
発表によると、産経新聞から以下の2つの記事の配信を受けたという。
- 「あなたは真のヒーローです」…邦人救出で重体の米海兵隊員に祈りのメッセージ(配信日時:2017/12/10 22:40)
- 危険顧みず日本人救出し意識不明の米海兵隊員 元米軍属判決の陰で勇敢な行動スルー(配信日時:2017/12/11 09:00)
「Yahoo!ニュース」では、1つ目の記事を「日本人救出で重体 米兵に祈り」という見出しでトピックスに選び、さらにトップページにも配信したという。
トピックスはすでに削除されている。「Yahoo!ニュースとしてもユーザーにニュースを提供した責任がある」としており、「間違いがあったことをお伝えする必要があると判断」したという。
Kota Hatachiに連絡する メールアドレス:Kota.Hatachi@buzzfeed.com.
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