日本国内では、北朝鮮の核・ミサイル開発の脅威と、韓国文在寅(ムン・ジェイン)政権の対北融和姿勢ばかりが注目され、今にも韓国が北朝鮮に併合されかねないような印象が強まっている。

 しかし、韓国はそれほど弱体な国なのか、その軍事政策や軍事力整備の実態については、意外に知られていない。

 米ドナルド・トランプ政権も昨年9月の電話による首脳会談以降、韓国がSSBN(弾道ミサイル搭載原子力潜水艦)を保有することを容認する方向に政策転換している。日本は、北朝鮮のみならず韓国に対してもどう備えるべきかが問われている。

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1.北朝鮮以上の核開発潜在能力を持つ韓国

 韓国には投射手段も含め核戦力保有の高い潜在能力がある。

 核兵器の保有について韓国国内世論には、日本のような核アレルギーはなく、一貫して過半数の国民が支持している。

 韓国ギャラップ社が昨年9月8日に発表した、同月5~7日に全国の成人男女1004人を対象に実施された世論調査結果によれば、韓国が核兵器を保有することについて賛成は60%、反対は35%であった(『聯合ニュース』2017年9月8日)。

 韓国は核兵器製造の潜在能力も高い。核兵器の材料となるプルトニウムの抽出能力も保有している。

 『ニューヨーク・タイムズ』紙が昨年10月28日、米国科学者連盟の報告書を引用して、韓国の核兵器製造能力を分析した結果、 韓国が保有している24基の原子炉から出る再処理物質でプルトニウムを抽出すれば核爆弾4300 発以上を製造することができると報じた。

 同紙はまた、韓国が1970~80年代に2度にわたって秘密裏に核兵器開発を試み、2004年には韓国科学者が国際原子力機関 (IAEA)に報告せず核物質を再処理して濃縮したことがあるとも報じた。(『中央日報』2017年10月30日)。

 また、韓国は、加圧水型原子炉を主に計24基以上、17.5ギガワットの発電容量を有する原発大国でもあり、核弾頭製造の潜在能力も高い。

 ソウル大原子核工学科の徐教授が昨年10月31日、韓国国会外交統一委員会の参考人として招致された。

 韓国の核兵器開発に必要な時間についての質問に対し、核兵器の開発には現在は再処理されていない原発で使用済みの核燃料からプルトニウムを抽出することになるが、これを再処理すればプルトニウム50トンとなり、核爆弾1万発を作る量に相当すると述べている(『中央日報』2017年11月1日)。

 これに対し北朝鮮が保有している抽出済みのプルトニウムは、以下のように報じられている。

 韓国国防部は昨年1月11日に『2016年版国防白書』を発刊した。同白書によると、北朝鮮は寧辺の核施設で再処理したプルトニウムを50キロ保有していると推定されるとしている。

 『2008 年版国防白書』では40キロと推定しており、8年で10キロ増えたことになる。 核兵器1個を作るには4~6キロのプルトニウムが必要とされ、北朝鮮は10個程度の核兵器を作ることができると推定された(『聯合ニュース』2017年1月11日)。

 このように韓国政府は昨年1月の時点では、北朝鮮が製造できる核兵器数は、主にプルトニウム保有量から10~15個と見積もっていた。

 しかし昨年2月には、韓国情報当局は、ウラン濃縮による核爆弾も含めることにより、北朝鮮が核兵器を最大60個ほど製造できると判断している。

 昨年2月8日に『中央日報』が確認した軍と情報当局の北朝鮮核物質に関する対外秘文書には、2016年を基準に北朝鮮の高濃縮ウラン (HEU)保有量を758キロ、プルトニウム保有量を54キロとしている。

 核兵器1個を作るのにプルトニウム4~6キロ、HEUでは16~20キロが必要で、情報当局の推定値を考慮すると北朝鮮が保有する核物質でプルトニウム弾9~13個、HEU弾37~47個を作ることができ、計46~60個の核兵器を製造できることになる(『中央日報』2017年2月9日)。

 北朝鮮が保有している核兵器用のプルトニウムと濃縮ウランの量は、まだ60個分程度である。

 これに対し、韓国はプルトニウムだけでも約1万個分を抽出できる量を蓄積しており、本格的なプルトニウム抽出に取り組むようになれば、韓国の方がはるかに多くのプルトニウム爆弾を製造できるとみられる。

 ウラン濃縮については報じられていないが、原子炉の普及度などから見ても、韓国の方が高い潜在能力を保有しているものと推定される。

 総合的に見て、韓国がひとたび本格的なプルトニウム抽出やウラン濃縮に取り組み始めれば、短期間で北朝鮮をしのぐことができるであろう。

2.2020年のSSBN保有に向け進む韓国

 トランプ米大統領と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は昨年11月7日、韓国ミサイルの弾頭重量に制限を設けていた米韓ミサイル指針を廃止することで合意した(『ジェーン・ディフェンス・ウィークリー(以下JDWと略称)』2017年11月15日)。

 これで韓国は、弾頭重量が2トン以上の「怪物」弾道ミサイルの開発を開始することになった(『レコード・チャイナ』2017年9月6日)。

 昨年6月に就任した宋永武(ソン・ヨンム)国防長官は昨年7月31日に韓国国会で、原子力潜水艦の建造を検討する準備ができていると発言している。

 宋長官は就任前の6月の人事聴聞会でも、敵の潜水艦を制圧するためにわれわれも潜水艦が必要であるため原子力潜水艦を考えていると答えていた。

 韓国では盧武鉉政権が2003年に、2020年までに4000トン級原子力潜水艦3隻を建造する計画を推進したが、計画が外部に漏れ1年後に白紙になっている(『聯合ニュース』2017年7月31日)。

 韓国の李洛淵(イ・ナギョン)首相が昨年8月16日にテレビ番組に出演し、北朝鮮の核脅威に対抗するため原子力潜水艦を導入する必要があると発言している。

 韓国が核保有を主張することは北東アジアの核武装を加速化させることになりかねないとしながらも、原子力潜水艦の導入は別問題だとして、検討する時期が来たと述べている (『聯合ニュース』2017年8月16日)。

 さらに、韓国大統領府関係者が昨年11月8日、原子力潜水艦導入は昨年9月に行われた米韓首脳会談で原則的な合意があったことを明らかにしている。大統領府は当時、米国が原潜保有に合意したとの報道について事実ではないと述べていた。

 ただしこの関係者は、原潜を購入する可能性や、米韓が共同開発する可能性や購入も検討しているものの、米国が原潜を他国に販売した前例がないことから国内建造になりそうで、国防部の原潜研究に参加している専門家は、米国が積極的に技術支援をすれば3年あれば進水が可能とみていると述べている。

 原潜の燃料は米韓原子力協定により、濃縮率20%以上のウランを米国から購入することが制限されているが、トランプ大統領が原潜保有に合意しただけに、米韓原子力協定が韓国に有利な方向に改定される可能性がある(『中央日報』2017年11月9日)。

 韓国は既に国産の大型潜水艦の開発を進め、巡航ミサイルを搭載しているが、2020年頃にはこれに国産の弾道ミサイルを搭載することを目指している。

 533ミリ魚雷発射管から玄武-3巡航ミサイルを発射できる韓国のType 214KSS-2潜水艦の後継KSS-3は、玄武-3弾道弾を垂直発射する発射管を6基装備するBatch 1が3隻建造され、そのうち2隻は建造中である。

 これに続く KSS-3 Batch 2は垂直発射管を10基以上装備してSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を発射するとみられ、SLBMを搭載したKSS-3は2025 年頃に就役する模様である(『エビエーション・ウィーク&スペース・テクノロジー』2016年11月7日)。

 韓国は蔚山現代重工業で昨年6月30日、張保皐(チャン・ポゴ)-�級潜水艦(3000トン)3番艦の起工式を行った。

 張保皐-�級は1、2番艦が大宇造船海洋において建造中で、3番艦を含む3隻の建造は2020~2024年に完了する。

 張保皐-�級は初めて韓国独自の技術で建造される潜水艦で、SLBMを発射する垂直発射管を6本装備し、射程500キロの玄武(ヒョンム)-2B(弾道ミサイル)の発射が可能である(『中央日報』2017年6月30日)。

3.各種ミサイルの開発も積極的に進めている韓国

 トランプ米大統領と文韓国大統領が昨年9月4日に電話会談し、韓国製弾道ミサイルの弾頭重量制限を撤廃することで合意した。

 それまでの規定では、射程800キロで弾頭重量500キロまで、射程500キロで弾頭重量1000キロまで、射程300キロで弾頭重量2000キロまでに制限されていた。

 北朝鮮にあるミサイル攻撃の目標のほとんどは38度線から225キロ以内にあり、射程が 1000キロあれば韓国内のいずれの位置からも北朝鮮全土を射程に入れることができる。 (『JDW』2017年9月15日)。

 また、トランプ米大統領と韓国の文大統領は昨年11月7日には、韓国ミサイルの弾頭重量に制限を設けていた米韓のミサイル指針を廃止することで(正式)合意したと報じられている(『JDW』2017年11月15日)。

 玄武-2系列の弾道ミサイルの開発配備も文政権下で積極的に進められている。

 韓国政府の高官は昨年4月6日、国防部傘下の国防科学研究所の試験場で、射程800キロ の玄武系弾道ミサイルの発射試験を実施し、成功したことを明らかにした。

 ただし、韓国の試験場は弾道ミサイルを最大射程まで飛ばせないため飛距離を短縮し、精度をはじめとする性能の検証に焦点を合わせたという。

 射程800キロの玄武系ミサイルの発射試験成功が明らかにされるのは初めてで、さらに数回の発射実験を重ねて信頼性を検証し、2017年内の実配備を計画している。

 韓国軍は今まで、北朝鮮が挑発するたびに玄武系ミサイルの試験状況を公開してきた(『聯合ニュース』2017年4月6日)。

 韓国軍は昨年6月23日、文大統領が見守るなか射程800キロの玄武系列弾道ミサイルの発射試験に成功した。北朝鮮全域を射程に収めるミサイルで、事実上開発は完了しており、近く量産に入るという。

 玄武-2Cは、北朝鮮の弾道ミサイルの射程圏には入るが、長距離砲の射程からは外れる韓国の南部に配備しても北朝鮮全域を攻撃できる。

 現在、韓国軍が配備している弾道ミサイルは射程300キロ以上の玄武-2Aと500キロ以上の玄武-2Bの2種類で、今回試射を行った玄武-2Cの射程は800キロとされているが、実際には1000キロ 近く飛翔することから中距離弾道ミサイル(MRBM)に分類されると報じられている(『聯合ニュース』2017年6月23日)。

 北朝鮮のICBM発射に対抗して韓国は昨年7月28日に戦域弾道ミサイル(射程1000キロ以上)の試射映像を公開した。

 発射は4発を装填できる固定式発射機から行われ、2発が発射された。1発目は標的に命中し、2発目は掩体構築物と見られる標的の破壊に成功した(『JDW』2017年8月9日)。

 北朝鮮が昨年9月15日6時57分に弾道ミサイルを発射すると、韓国軍はその6分後の 7時3分に東海岸で北朝鮮の発射地点への反撃を想定して玄武-2A2発を発射したが、2発中1発は失敗した(『中央日報』2017年9月15日)。

 韓国が開発する弾道ミサイルの弾頭重量制限が昨年9月5日に撤廃され、韓国軍が戦術核兵器の破壊力に匹敵する弾頭重量2トンの弾道ミサイルの開発に乗り出すことが分かった。

 『韓国毎日経済』はこれを「怪物ミサイル」と表現して報じ、地下数十メートルに構築された施設を破壊可能であるという。

 韓国政府筋によると、この合意に基づき、現在射程800キロの玄武-2Cの弾頭を2トンに大型化する案を検討中だという。

 弾頭重量2トンの弾道ミサイルが開発されれば、弾頭重量2.2トンの米国のGBU-28地下目標破壊用侵徹爆弾 バンカーバスターよりも大きな破壊力と貫通能力を持つとされている(『レコード・チャイナ』2017年9月6日)。

 韓国はまた、陸海から発射でき広域破壊用弾頭を搭載した垂直発射も可能な「海星-�」対地巡航ミサイル(CM)も開発している。

 韓国の防衛事業庁(DAPA)は昨年4月18日、新たな戦術艦対地誘導弾の開発を完了したと発表した。敵地の沿岸部と地上の目標を攻撃するシステムで、装甲車を貫通する子弾数百個を散布し、サッカー場2面分の面積を焦土化できる。

 今回開発されたのは垂直発射型で、2018年から量産し2019年に配備を開始する。斜め発射型は2014年に開発され2016年に配備を開始している (『聯合ニュース』2017年4月18日) 。

 韓国DAPAは昨年4月18日、海星を改良した海星-�対地巡航ミサイルを開発し、2017年後半に量産を開始し2019年配備開始を目指していることを明らかにした。海星-�は潜水艦や車両搭載からの発射も可能であるという(『ディフェンス・ニュース』2017年4月21日)。

 韓国は射程約400キロの空中発射巡航ミサイルも保有している。韓国空軍は昨年9月13日、前日にF-15Kからドイツ・スウェーデン製のタウルス巡航ミサイルを発射する初めての訓練を実施し、標的に正確に命中したと発表している。

 泰安半島付近から発進したF-15Kが発射したタウルスは、黄海の上空1500メートルから発射後に下降して高度500メートルを維持して400キロを飛行し、群山沖にある島の射撃場近くで3000メートルまで急上昇してからほぼ垂直に降下して標的に命中した(『聯合ニュース』2017年9月13日)。

 超音速対艦ミサイルの開発も進められている。韓国軍消息筋は昨年4月20日、韓国が音速の3~4倍で飛翔する射程300~500キロの対艦巡航ミサイルを、2020年頃までに配備することを目標に開発していることを明らかにしている(『聯合ニュース』2017年4月20日)。

 このように韓国は、米国により課せられてきた弾道ミサイルに関する制限を取り払い、文政権下でも積極的に長射程で弾頭威力の高い各種ミサイルの開発配備を進めており、その射程は日本列島にも及びつつある。また対地・対艦攻撃能力も確実に向上している。

4.着上陸作戦能力の向上を進める韓国

 韓国軍は独島級大型輸送艦、揚陸艦、エアー・クッション型揚陸艦艇(LCAC)の建造を進めており、着上陸侵攻能力も向上させている。

 韓国DAPAは昨年4月28日、独島級(1万4500トン)大型輸送艦2番艦の起工式を同日、釜山の韓進重工業で行うと明らかにした。2018年4月に進水し2020年に就役する。

 大型輸送艦を建造するのは 2007年の独島建造から約10年ぶりになる(『聯合ニュース』2017年4月28日)。

 韓国DAPAは昨年7月31日、蔚山現代重工業から2隻目となる次期揚陸艦(LST-�) LST-687天子峰を海軍に引き渡すと発表した。DAPAは2014年11月1日に一番艦 LST-686天子峰を海軍に引き渡している。

 天子峰は海軍が保有していた高俊峰級揚陸艦(LST-�) より速力、搭載能力が向上している。4500トンの天子峰は速力23kt(キロノット)で、海兵隊300人、揚陸艇3隻、戦車2両、水陸両用戦闘車8両を搭載でき、艦尾にヘリ2機が離着艦できる飛行甲板を有する。

 また国産の戦闘システムおよび指揮統制システムを備えているため、上陸作戦指揮所の役割を果たすことができる(『中央日報』2017年7月31日)。

 韓国DAPA は昨年2月9日、現代重工業社に2016年暮れに発注したLSF-�または Kite 631と呼ばれるLCAC2隻の建造を1年早めて2021年に納入とすると発表した。同社は2007 年にLSF-�2隻を受注し、これら2隻は揚陸艦独島に搭載されている(『JDW』2017年2月15日)。

 ヘリ装備も向上している。

 韓国では韓国次期輸送ヘリコプター計画(KUH)が進められており、韓国陸軍が245機の装備を計画しているKUH-1スリオン30機が、5億2000万ドルで海兵隊向けに追加発注された(『エビーエーション・ウィーク&スペース・テクノロジー』2017年1月9日)。

 韓国DAPAは昨年6月27日、韓国が国内開発している小型武装ヘリ1号機の組み立を開始したことを明らかにした。DAPAは昨年10月に詳細設計審査を行い、2018年末に試作1号機をロールアウトし、早ければ2022年に配備する(『中央日報』2017年6月27日)。

 着上陸作戦に任じる空挺師団の新設、特殊任務旅団の編成、海兵隊航空隊の復活も進められている。

 宋韓国国防部長官は、有事の際に米陸軍の第101・第82空挺師団のように早期に敵陣深くに投入される攻勢的精鋭機動部隊として、空挺師団を創設する必要性について発言したことが確認された。

 宋長官が最近行われた国会国政監査で、「防衛的線形戦闘」から「攻勢的縦深機動戦闘」に戦争遂行方式を変えると強調したのも、空挺師団のような攻勢的部隊創設を念頭に置いているという(『東亞日報』2017年10月17日)。

 韓国国防部は昨年の1月4日、2019年に計画していた金正恩朝鮮労働党委員長ら北朝鮮の軍事指導部を除去して戦争指揮施設の機能を麻痺させる任務を担う特殊任務旅団を、2年前倒しして2017年内に編成する方針を黄大統領権限代行首相への2017年度業務計画報告で明らかにしている(『聯合ニュース』2017年1月4日)。

 金正恩斬首部隊と呼ばれる特殊任務旅団が昨年12月1日、従来の特殊戦司令部隷下部隊の一部を改編して創設された。この旅団の規模は1000人前後になるものと予想されている。

 この部隊は朝鮮半島の有事の際に「金正恩除去作戦」を含め、北朝鮮の首脳部を狙った特殊作戦を遂行する (『WoW! Korea』2017年12月1日)。

 韓国海兵隊航空隊が44年ぶりに復活すると報じられている。

 韓国DAPAは昨年1月30日、海兵隊にスリオンを元に韓国航空宇宙産業(KAI)社が開発した上陸機動ヘリ2機が2017年に装備されることを明らかにした。

 上陸機動ヘリは揚陸艦で海兵隊の兵力や装備を輸送する上陸作戦、地上作戦の支援のための空爆、島嶼地域の局地挑発への迅速対応などの任務を遂行する。

 海兵隊はこれまで米海兵隊の上陸機動ヘリに依存してきたが、今回の2機を皮切りに2023年までに2個大隊28機を配備する計画である(『中央日報』2017年1月30日)。

5.攻撃的な軍事戦略に応じた装備近代化と増額される国防費

 親北左派政権とみられている文在寅政権のもとでも、先制攻撃も含む「三軸システム」戦略に応じる装備体系の整備が積極的に進められ、それに必要な国防予算もこれまで以上に増額されている。

 装備近代化の基本方針として、「3軸システム」の整備が明示されている。

 韓国は、北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対応するため、韓国軍のミサイル能力の拡充、ミサイルなどによる迅速な先制打撃を行うためのキル・チェーンと呼ばれるシステムの構築、韓国型ミサイル防衛システム(KAMD)の構築などに取り組むこととしている。

 また、北朝鮮による5回目の核実験の実施を受けて、2016年9月、韓国国防部は、既存のキル・チェーン、KAMDに大量反撃報復概念(KMPR)を追加し、韓国型の3軸システムへと発展させると発表した(『平成29年版防衛白書』)。

 韓国国防部は2017年4月14日、3軸システムの構築を当初計画の2020年代半ばから2020 年代初めに前倒しした2018~2022年の国防中期計画を発表した。

 キル・チェーンでは当面、偵察衛星4~5基を海外からリースして北朝鮮全域を監視するとともに、2022年までに独自の軍事衛星5基を打ち上げる計画で、北朝鮮地域の衛星映像を分析するシステムも来年から構築を始めることにしている。

 また、射程 500キロの玄武-2B、800キロの玄武-2C戦域弾道ミサイル、1000キロの玄武-3巡航ミサイルをはじめとするミサイル、230ミリ級の多連装ロケット発射機などの配備を 1年早める。

 KAM では、北朝鮮のSLBM発射を探知する能力の補強、弾道ミサイルの迎撃能力と韓国重要施設の防衛能力向上のため、PAC-3の追加購入、中距離対空ミサイルの改良、北朝鮮の弾道ミサイル発射を探知するためのレーダ「グリーンパインBMEWR」2基の追加購入などを行う。

 KMPR では、金正恩委員長をはじめとする北朝鮮指導部を排除する特殊任務旅団が装備するUH-60ヘリのエンジンや機体を改良し、特殊作戦用無人機などを新たに導入する(『朝鮮日報』2017年4月14日)。

 文政権下では、攻撃型兵器への集中投資がなされている。複数の韓国国防部関係者らが昨年7月18日、宋国防部長官が就任後に国防部の幹部に対し、軍を豹に変えるのが国防改革と述べ強力な改革を強調したことを明らかにした。

 国防部はKAMDより北朝鮮の大量破壊兵器を先制打撃するキル・チェーンに優先的に予算を配分することにしたという。

 また別の軍消息筋は、KAMDを完成するには多くの費用と時間がかかるため、敵が撃つ前に先に破壊するキル・チェーンが北の核やミサイル挑発を抑止するのに有効と述べた。

 韓国軍はキル・チェーン強化のために玄武系列の弾道ミサイルや巡航ミサイルと戦闘機から発射する精密誘導武器を大幅に増やす計画である (『中央日報』2017年7月19日)。

 3軸システム整備を重点に、国防予算の増額もなされている。

 韓国国防部は昨年6月8日、43兆7114億ウォン(4兆2800億円)規模となる2018年度国防予算要求を企画財政部に提出したことを明らかにした。これは対前年度比8.4%増で、年平均5%増水準だった李明博、朴槿恵政権よりも増加率が高い。

 国防部は北朝鮮の核ミサイルの脅威に備えた3軸システムの早期構築向けとして、2017年度比2655億ウォン増となる3兆6485億ウォンを要求した。

 軍用偵察衛星、長距離空対地ミサイル、ペトリオットの改良、特殊作戦用多用途ヘリ、無人機およびF-35Aなどが核心になる。

 また、全面戦争に備えた防衛能力の強化のため、2017年度比7333億ウォン増となる 6兆6413億ウォンを要求した。空中給油機、揚陸作戦用ヘリ、装輪装甲車、歩兵用中距離誘導武器などが核心になる(『中央日報』2017年6月9日)。

 韓国大統領府報道官が、文大統領は昨年7月18日、国防部長官、元長官や軍首脳部を招いた昼食会で、北との対話を追求するには圧倒的な国防力がなければ意味がない、国防予算の対GDP(国内総生産)比を現在の2.4%水準から任期内に2.9%まで引き上げることを目標にしていると述べたことを明らかにしている(『聯合ニュース』2017年7月18日)。

 韓国政府が国会に提出する2018年度(1~12月)の予算案のうち国防予算は前年比6.9%増となる43兆1177 億ウォン(4兆1983 億円)となり、2009 年の 7.1%に次ぐ増加幅となった。

 国防予算の2つの柱の1つ、防衛力改善費は前年比10.5%増加した13兆4825 億ウォン、もう1つの柱である戦力運営費は同5.3%増の29兆6,352 億ウォンとなった。

 防衛力改善費のうち、北朝鮮の核と大量破壊兵器の脅威に備える予算は4兆3359億ウォンと対前年比で13.7%増加した。

 年度別の国防予算の増加率は 2009年の7.1%から 2013年4.2%、2014年4.0%、2015年4.9%、2016年には3.6%と変遷し、2017年は4.0%だった (『聯合ニュース』2017年8月29日)。

 韓国国会は昨年12月6日、2018年度(2018年1~12月)予算案を可決し、国防予算は前年比7.0%増の43兆1581億ウォン(4兆4500億円)に確定した。国防部によると 2018年度の国防予算は国会の審議段階で、政府案から404億ウォン増額された。

 対前年度比増加率は8.7%増の2009 年度以来 9年ぶりの高水準となった。

 北朝鮮の核やミサイルの脅威が危険な水準に達していることに対抗した3軸システム関連予算を大幅に増やした。

 国防予算のうち戦力増強の予算である防衛力改善費が国会審議で378億ウォン増額され対前年度比10.8%増となった (『聯合ニュース』2017年12月6日)。

 このように、2018年度国防予算は4兆4500億円に確定し、9年ぶりの高水準の伸び率、対前年度比7.0%増となった。国会の審議過程で増額され、文大統領自身も在任中に国防費の対GDP比を2.9%に引き上げると述べている。

 予算項目では、3軸システム関連装備の予算が特に重視されている。韓国の文政権と議会は国防費をかつてない規模に引き上げ、3軸システム整備に全力を挙げるという方針では一致している。

 また、韓国は近年、装備品の輸出を積極的に図っており、2015年の輸出実績は契約額ベースで約35億ドルに達し、2006年から9年間で約14倍となっている。輸出品目についても通信電子や航空機、艦艇など多様化を遂げているとされている。

 近年では、例えば2012年に209型潜水艦3隻をインドネシアに輸出する契約、同年新型補給艦(MARS)4隻を英国に輸出する契約、2014年にFA-50軽攻撃機12機をフィリピンに輸出する契約などが締結されている(『平成29年版防衛白書』)。

 韓国は国防技術研究開発にも力を入れており、2016年度の国防研究開発費は2936億円にのぼり、西側主要国では米国の7兆7761億円に次ぐ額に達している。

 他の主要国は、英国2479億円、フランス1150億円、日本1066億円、ドイツ1005億円である(『平成29年版防衛白書』)。

 このように韓国は、文政権下でも先制攻撃の要素を含む3軸システムなどを整備するための予算を急増させ、武器輸出、研究開発にも力を入れている。

結言

 韓国の以上の国防力整備の背景には、当然ながら核・ミサイルの開発配備を強行する北朝鮮の脅威に対抗するという目的があることは言うまでもない。

 日米韓が北朝鮮の脅威に一致して対抗するという面からみれば、このような韓国の国防力強化は望ましいことと言えよう。

 しかしながら、韓国のSSBNの保有、潜在的な核保有能力と各種ミサイル能力、着上陸侵攻能力の向上は、日本にとっても脅威になり得る。

 特に、米トランプ政権が韓国とのミサイル指針を見直して規制を撤廃し、原子力潜水艦の建造も容認したことは、米国が韓国のSSBNとSLBMの保有を黙認したことに等しい。

 韓国の核弾頭保有についても、北を上回るプルトニウム保有量などの韓国の核兵器製造の潜在能力の高さからみて、SLBM用核弾頭の開発配備も短期間で可能になるであろう。

 韓国が核兵器、SSBNの保有に至った場合、ナショナリズムが過度に燃え上がり、在韓米軍撤退から反日米、半島統一にはしり北の独裁体制に取り込まれるおそれもある。

 逆に過度なナショナリズムに走らず、安定した政治が続き、日米との良好な関係が維持されれば、長期的には、韓国の自由で開かれた社会と経済の優位性を生かし、北朝鮮を変質させ韓国主導の統一が可能になるであろう。

 そのいずれになるかは予測しがたいが、竹島問題、従軍慰安婦問題などにみられる根強い反日感情を考慮すれば、核保有をした韓国あるいは統一朝鮮が日本に敵対的になる可能性は十分にあり得る。

 韓国の国産兵器開発については、必ずしも順調に進んでおらず、戦車、潜水艦、戦闘機、レーダーなど先端的な主要装備の性能はまだ先進国並みの水準に達しているとは言い難い。

 しかしながら、韓国が与野党を問わず、また国民も核保有を含む軍備強化を支持し、攻勢的打撃力を含む3軸システムなどを作り上げるため国を挙げて尽力していることも事実である。韓国の今後の軍備増強の脅威を決して侮ることはできない。

 日本国内では、専守防衛の立場から敵基地攻撃能力保有の反対論が展開され、福島原発事故以降原発の新増設も認められず、防衛費増額も依然として実質ゼロに近い状況が続いている。

 しかし他方で日本の近隣国は、北朝鮮、中国は言うに及ばず、韓国も、急激な軍備増強とりわけSSBN、長射程ミサイル、着上陸侵攻能力などの戦略的攻勢能力を高めるため、左派の文政権下でも鋭意尽力している。

 その現実を踏まえるならば、日本の防衛力整備をめぐる議論が、今後も周辺環境の軍備増強の現実を無視した内向きの論議に終始するなら、日本と周辺国との間の力の均衡が崩れ、日本自らが韓国を含む周辺国の侵略の脅威に直面することになるであろう。

 日本も、自らの主権と安全を守るために、周辺国並みの防衛努力を払わねばならない時期に来ていることは、火を見るよりも明らかと言わねばならない。

筆者:矢野 義昭