この記事は日経 xTECH有料会員限定ですが、2018年3月8日5時まではどなたでもご覧いただけます。
ジョブディスクリプションが存在しない恐怖
そう言えば、裁量労働制の拡大を巡り国会でドタバタ劇が繰り広げられていたとき、Twitterなどソーシャルメディア上ではSE職と思われる技術者たちの反対論であふれかえっていた。何でも屋を強いられる(なんちゃって)SEであり、身をもってその勤務実態を知っているため、「裁量労働制の拡大=長時間労働と賃金カットのまん延」としか思えないからであろう。
ただし、裁量労働制におけるSEの定義と、人月商売のIT業界におけるSEの実態の乖離(かいり)があまりにすさまじいため、よほどのホワイト企業でない限りSE職に裁量労働制を導入することは不可能だ。定義と異なるにもかかわらず、SEに裁量労働制が適用されているなら、技術者は労働基準監督署に駆け込んだほうがよい。仮に仕事の内容が裁量労働制で定義されているSEと同じものであっても、システム開発でプロジェクトマネジャーの指揮命令を受けるなら、裁量労働としては疑義がある。
実は、そんな事を考えているうちに、日本企業における裁量労働制の問題点にたどり着いた。というか、脱時間給労働を導入する際や長時間労働の是正を図る際にも考えなければならない根っこの問題である。おそらくSEが最もひどい例だろうが、日本企業ではそれぞれの職務の定義が極めて曖昧で、どんな職務であっても多かれ少なかれ何でも屋を強いられるという問題だ。つまり、明確なジョブディスクリプションが無い。
ジョブディスクリプションは「職務記述書」と訳されているが、各職務について具体的な内容、職務の目的や目標、権限と責任の範囲などを詳細に記述した文書を指す。欧米企業はジョブディスクリプションをベースに人材を採用し、人事管理に取り組む。個々の従業員の成果を明確に測れるのもジョブディスクリプションがあればこそだ。「SEって何だっけ」「さあ?」などと職務内容が曖昧な日本企業とわけが違うのだ。
お気付きだと思うが、あらかじめ定めた時間を働いたものとみなす裁量労働制には、ジョブディスクリプションが不可欠である。実際、日本でも裁量労働制を導入している企業(ただしホワイト企業に限る)では、しっかりしたジョブディスクリプションを作成している。逆にジョブディスクリプションが無く、職務内容が曖昧なままだと、企業や上司の“裁量”で従業員の仕事の範囲が広がり、仕事量が増える恐れがある。