20年ぶりの営業最高益更新をほぼ確実にしたソニー。ゲームや半導体、金融、音楽の4事業の営業利益は1000億円を超える見通しで、凋落の象徴と見られてきたテレビなどのAV(音響・映像)やカメラも安定的に稼ぎ出す力を取り戻した。平井一夫社長兼CEO(最高経営責任者)の改革で、少なくとも業績面では復活したのは間違いない。
今回の復活劇で欠かせない要素が、ソニーから他社にはない特徴的な商品やサービスが生まれている点だ。据え置き型ゲーム機「プレイステーション4(PS4)」が好調なゲーム事業に加え、エレクトロニクス事業でも有機ELテレビやウォークマン、ミラーレスカメラなど、いわゆる「ソニーらしい」特徴的な商品がユーザーの心を再び掴んでいる。
ソニーは本当に変わったのか。現場レベルで交流がある関係者に現在のソニーの姿を聞いた。
外見はスマート、でも中身はオオカミだ
部門別の営業利益見通しが1800億円と、2018年3月期におけるソニー好業績のけん引役であるゲーム事業。PS4および関連サービスの拡大に欠かせないのが、サード・パーティー(ゲームソフト会社)の存在だ。PSシリーズの人気タイトルの一つがセガゲームスの「龍が如く」。主に日本の繁華街を舞台に繰り広げられるアクションゲームは、2005年末にPS2向けソフトとして発売以来、シリーズ累計で950万本を売り上げている。そんな人気ゲームシリーズのプロデューサーを務めるセガゲームスの名越稔洋取締役は、ソニーのゲーム事業の今を「羊の皮をかぶったオオカミの集団」と評する。
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE、当時はソニー・コンピュータエンタテインメント=SCE)との付き合いは2世代前のゲーム機「プレイステーション(PS2)」の時代から。当時のSCEはAVメーカーとしての強みがあり、DVD搭載でPS2を爆発的にヒットさせた。「龍が如く」の第一弾はまさにPS2の絶頂期にうまく流れに乗ることができた。
龍が如くは今でこそ人気シリーズだが、当時はコンセプトがなかなか理解されなかった。僕の認識では龍が如くはあくまでもオーソドックスなアクションアドベンチャー。ただ設定が日本の裏社会っていうだけなんだけど(笑)。(倫理基準のハードルが低い)「パソコンゲームでもいいんじゃない」っていう声すらあったほど。でもそれじゃ投資を回収しきれないから、どうしても据え置き型ゲーム機で勝負したかった。
そんな苦しい状況の中で唯一話を聞いてくれたのがSCE。「PS2で出すからこそ意味がある」っていう僕の主張を、SCEがチャレンジャーとして受け入れてくれたわけ。こういうところは「ソニーらしい」よね。
当時のSCEの経営陣には、久夛良木健さんや丸山茂雄さんがいた。僕が言うのもなんだけど、あの人たちは堅気じゃない(笑)。なかでも久多良木さんは、自らの高い理想を追求しつつ、誰よりも早く新技術を世に出そうとする。そのエネルギーには圧倒された面もあった。
ただ今のSIE幹部や現場のメンバーにも、「濃い」人はいっぱいいる。確かに見た目は昔よりはスマートになったけど、それはあくまで仮の姿。羊の皮を被ったオオカミのような集団だ。ひと皮剥けばいい意味で常識がない人たち(笑)。エンタメを理解しつつも、純粋なゲーム屋じゃないから面白いと感じるのかもしれない。今もゲーム屋にはない底知れぬ迫力があるのは事実だ。
ソニーのためにゲームをつくるわけじゃない
今はPS4が成功を収めているけど、ユーザーの想いに真摯に取り組んでいる印象を受ける。前機種のPS3では、PS2の成功体験が強烈すぎたのかもしれない。当時は「過去を絶対に超えるんだ」という思いが強かった。今はそうした思いをいったん整理し、愚直にユーザーの要求にこたえようとしている。我々とネットワークなど新しい機能やサービスに対する議論もかなり活発になっている。
セガとしては別にSIEのためにゲームをつくるわけじゃない。だけど、ハード屋とソフト屋がいかに同じベクトルを向けるかは重要だ。今のSIE経営陣は、「このソフトはユーザーのすそ野を広げるものか、コアファンの思いに応えるものか」とロジカルに分析して戦略を進めている。これは龍が如くシリーズでも作品ごとに使い分けてきた部分。決してご機嫌はとらないが、プラットフォーマ―であるSIEの戦略と相反しないことは我々にとっても重要だ。
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