ここは熱帯インドネシア。穏やかな水面が日差しを受けてきらめいている。温かい湖に飛び込み、平泳ぎをしていると、触手を持つゼラチン質の生き物が次々と浮かび上がってくる。淡い黄色の体が真っ青な水とコントラストを織り成す。
泳ぎながら辺りを見回すと、コーヒーマグくらいの半透明の生き物が数え切れないほどいる。「ゴールデンジェリーフィッシュ」というクラゲの仲間だ。毒を持つ大きなクラゲと異なり、ゴールデンジェリーフィッシュは無害だ。ミズクラゲと同様、刺胞がとても小さく、刺されたとしても何も感じない。(参考記事:「【動画】大量の「電気クラゲ」が海岸に漂着」)
「海水湖(marine lake)」とは、陸地に囲まれた海水の湖で、世界で約200の海水湖が確認されている。パラオ、ベトナム、インドネシアに多いが、人里離れた場所にあるため、研究が進んでいない。なかでも、クラゲが生息する海水湖は数えるほどしかない。有名なのはパラオ、マカラカル島の「ジェリーフィッシュレイク」だ。(参考記事:「日本の国土より広い海洋保護区を可決、パラオ」)
そんな中、海洋生物学者のリサ・ベッキング氏がナショナル ジオグラフィック協会の支援を得て、海水湖の研究を行った。ベッキング氏は拠点を置くオランダのワーヘニンゲン大学で有志を募り、インドネシア西パプア州のラジャ・アンパット諸島を目指した。研究チームは海水湖の生物多様性を記録し、保護管理の計画を立てるため、2011年と2016年に現地を訪れた。
クラゲと泳ぐ
海水湖は、石灰岩が浸食されてできたカルスト地形にある。ベッキング氏らが訪れた場所はカルスト特有の沈殿物が多いため、調査の第1候補に選ばれた。
ベッキング氏らはトレッキングと試料採取の合間に、一帯の海水湖を2時間にわたって空撮。その映像をGoogleマップやほかの地図と照合し、まだ記録されていない海水湖が42もあることを発見した。