夜中にトイレに起きる、しっかり寝た気がしない。そんな悩みは姿勢と関係があった。ぐっすり眠るための姿勢について専門医に聞いた。
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最近、寝つきが悪い、途中で何度も目が覚め、トイレに起きることも増えた……。そんな悩みを抱える大人も多いはず。だがそれも、睡眠専門医の白濱龍太郎さんによれば自然なこと。「年齢とともに眠る力は落ちてくるのです」。睡眠と深い関わりのあるメラトニンというホルモンの働きが、加齢とともに落ちてくるからだ。
とはいえ、ぐっすり眠って、朝、すっきり目覚める方法はないものか。白濱さんによると、実は眠るときの姿勢は睡眠の質と関係があるという。
具体的な姿勢の話に入る前に、質の高い睡眠を手に入れるのに必要な2つの要素について触れておこう。1つ目は副交感神経を優位にすること、2つ目が深部体温を下げることだ。
副交感神経は呼吸や血圧、排泄(はいせつ)、代謝などを調節している自律神経のうち、リラックスしているときに活発になる神経。深く眠るためには、日中に活発だった交感神経をオフにして、副交感神経を優位にする必要がある。夜中にトイレに起きるのは、実は交感神経のスイッチが切れていないせいで、腎臓や膀胱(ぼうこう)が働き、「トイレに行け」という指令が出ていることも要因の一つなのだ。
一方、深部体温は内臓など体の中の体温のこと。「朝目覚める頃から上昇を始め、昼間は高いまま、夜にかけて下降する。深部体温が下がると眠くなる仕組みが体にはあり、入眠時には手足から熱を放散して深部体温を下げています」
■副交感神経への切り替えを妨げない姿勢とは
つまり、ぐっすり眠るには、副交感神経への切り替えや、深部体温が下降するリズムを妨げない姿勢であることが大事なのだ。
「例えば腕枕などで体の一部が圧迫されていると、神経も圧迫され、交感神経の緊張につながって、眠りが浅くなります。血行が悪くなれば、手足から熱がうまく放散できないため、深部体温が下がらず、やはり入眠の妨げなります」。
体を圧迫せず、血行にも良い基本の姿勢は「あおむけの大の字」。広い面で体重を支え、手足を広げているので、体に熱がこもりにくい。
「ただし、睡眠中は喉の筋肉も緩むため、あおむけで寝ていると舌が喉の奥に落ち込み、気道を塞ぎやすい。いびきや睡眠時無呼吸などの心配があり、楽な呼吸を重視する人には、横向きのほうが向いています」
睡眠の質を上げるには、寝具選びも重要だ。腰が沈み過ぎるベッドや、高過ぎたり横幅が短過ぎたりする枕だと、寝返りのたびに交感神経が刺激され、中途覚醒しやすくなる。
■睡眠の質を上げる環境づくり~ベッドと枕をどう選ぶ?
体への圧迫が小さいこと、神経の緊張がないことは、良い眠りのために必要な条件。体のどこかに圧力を集中させず、ゆったりと休むためには、寝具選びも重要だ。
(1)寝返りしやすいのは硬めのベッド
寝返りは多い人だと、一晩に数十回打つ。硬めのベッドのほうが腰部分が沈み込まず、寝返りが打ちやすいため、神経も刺激されない。
スムーズな寝返りなら安定した睡眠が続くが、寝返りを打ちにくいと交感神経が刺激されて眠りが妨げられ、自分の寝返りで目覚めてしまう。
(2)肩の部分が沈むと圧迫が少ない
硬いベッドは、横向きになったとき肩が圧迫される。面では硬く支え、点では沈む構造の寝具であれば、肩への圧迫が小さい。
(3)狭いベッドに2人は覚醒しやすい
狭いベッドで一緒に寝ると、相手の寝返りやトイレに起きたときの振動が伝わりやすく、深い眠りを得にくい。
(4)同じベッドでもマットレスを分ける
マットレスだけは別々にして寝るなどの方法で、振動の影響は軽減できる。
(5)枕の横幅は頭3個分の幅を
枕は高過ぎると気道が圧迫される。首の部分のアーチを埋める程度の低めのほうが呼吸をしやすく、横幅が十分ある広い枕のほうが、寝返りを打ちやすい。
(ライター 中城邦子、イラスト 内山弘隆)
◆健康は姿勢で変わる
第1回 「×」の人は気を付けて 日常動作の正しい姿勢図鑑
第2回 階段の上り下りや座り動作 こんな姿勢は体に悪い
白濱龍太郎さん
睡眠専門医。東京医科歯科大学呼吸器内科・快眠センターなどを経て、睡眠・呼吸の専門クリニック、RESM新横浜院長。医学博士・日本睡眠学会認定医。著書に『誰でも簡単にぐっすり眠れるようになる方法』(アスコム)など。
[日経おとなのOFF 2018年2月号記事を再構成]
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