【ベルリン=石川潤】ドイツの大連立政権発足が決まり、2017年9月の連邦議会(下院)選挙から5カ月以上続いた政治空白はひとまず収束した。ただ、メルケル首相の求心力低下は著しく、4年後の次の選挙より前に総選挙や首相交代に追い込まれるとの見方も多い。米トランプ政権が孤立主義に突き進むなか、強いドイツが担ってきた「国際協調の最後のとりで」の役割を続けられるかは不透明だ。
ドイツ社会民主党(SPD)が4日公表した、連立合意の是非を問う党員投票の結果は賛成66%、反対34%だった。メルケル氏は紙一重で首相4選をたぐり寄せたが、前回13年の首相就任時と比べて自身や与党の支持率は大きく下がった。
戦後ドイツで、選挙から5カ月以上も政治空白が続いたのは初めて。メルケル氏率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は17年9月の選挙で大幅に議席を減らし、自由民主党や緑の党との連立協議にも失敗した。第2党のSPDは当初下野する方針だったが、大統領の仲介で連立協議に引き入れ、譲歩を繰り返した末に何とか政権発足にこぎ着けたというのが実情だ。
その代償として、メルケル氏は財務相をSPDに、内相を姉妹政党のCSUに譲らざるを得なかった。CDU内にはメルケル氏へ不満が広がり、世代交代論も高まる。閣僚ポストに若手や女性を抜てきする人事案で党内の掌握を図るが、「キャリアの峠は越えた」(デュッセルドルフ大学のフォンアレマン教授)との見方が根強い。
メルケル氏が首相を務めるのは今回が最後とみられる。「自ら政権移行を描く最初の首相になろうとしている」(イエナ大学のディッケ教授)ともいわれる。CDUでは、幹事長に就任したクランプカレンバウアー氏や保健相に内定した若手のシュパーン財務次官らが後継候補にあがる。
ただ、SPDが連立入りを決めるまでの混乱が示すように、同党には大連立への反対論が根強い。メルケル氏が引き際と見定める4年後まで政権を維持できるかは予断を許さない。メルケル首相という看板は変わらないが、13年目に入る政権は大きく揺らいでいる。
ドイツを取り巻く国際情勢も厳しい。ロシアのプーチン大統領は領土的な野心を隠さず、英国の欧州連合(EU)離脱交渉も難航が必至だ。次の金融危機に備えるユーロ圏改革では、財政負担にどこまで応じるのかドイツ国内の意見対立すら解消できていない。
さらに、米トランプ政権は保護主義的な貿易政策を打ち出し、国際協調主義を激しく揺さぶる。メルケル氏が強いリーダーシップを発揮できなくなれば、欧州だけでなく世界経済も不安定さを増すのは間違いない。