【ワシントン=鳳山太成】トランプ米大統領が1日に表明した鉄鋼とアルミニウムの輸入制限をめぐり、与党・共和党の批判が相次いだ。政権内で関税発動に反対してきた自由貿易推進派で国家経済会議(NEC)のコーン委員長も辞任の観測が流れた。選挙の支持固めを狙ったトランプ氏の強硬策は政権・与党内の不協和音を強めている。
「(他国の)報復と意図しない結果に大いに懸念を持っている」。共和党上院ナンバー2のコーニン院内幹事は、他国との貿易関係に不満を持つトランプ氏の主張に一定の理解を示しつつも、強い懸念を示した。
上院農業委員会のロバーツ委員長は「他国の報復で一番の標的となるのは米国の農業だ。農業にとってはひどく逆効果となる」と語った。
大豆は米国の最大の輸出品で、中国や欧州連合(EU)は報復措置として米国産大豆に関税を課すとの観測も出ている。
輸入制限を憂慮する共和党議員が続出している。EUのユンケル欧州委員長は2日、ハーレー・ダビッドソンやバーボンなど米国の代表的な製品に報復関税を検討していると明らかにした。これらは、議会トップのライアン下院議長、マコネル上院院内総務の地元の名産品だ。ライアン氏は「大統領がほかの選択肢を検討することを期待している」(報道担当者)として、関税発動に反対する構え。
鉄鋼とアルミへの関税引き上げが耐久財や消費財の値上がりを招けば、消費者の負担は増える。共和党議員は11月の中間選挙で有権者が離れかねないと懸念する。
リー上院議員は「雇用を失わせる非常に大きな『増税』だ。正式決定の前に代替案を見つけられることを望む」と訴えた。サッセ上院議員も「大統領は米国人家庭に大幅な増税を提案している。共和党の政策ではなく、左派政権がやることだ」と強く批判した。
「まったくの過剰反応だ」。ロス米商務長官は2日、米CNBCテレビのインタビューで輸入制限への懸念に強く反発した。鉄鋼に25%、アルミに10%の関税を課す方針だが、双方の素材を多様する自動車を例に、3万5千ドル(約370万円)の自動車で0.5%の値上がりにすぎないとの試算を披露。「(消費者への影響は)大したことない」と言い切った。
国家通商会議のナバロ委員長も2日の米FOXビジネス・テレビで関税の影響は小さいと指摘したうえで「(鉄鋼やアルミの)需要家に大きな影響を与えるという考え方は、関税に反対するためのフェイク(偽)ニュースだ」と反論した。
政権内で関税発動に反対してきたNECのコーン委員長が辞任するとの観測も流れた。サンダース大統領報道官は2日「昨日何度も話をした」と観測を否定したが、ウォール街を代表するゴールドマン・サックス出身で、保護主義の考え方にクギを刺してきたコーン氏が離れれば、トランプ政権は保護主義への傾斜をさらに強めそうだ。
一方、米経済界は賛否が割れている。鉄鋼やアルミのメーカー、労働組合はトランプ氏の輸入制限を歓迎した。米国鉄鋼協会のギブソン会長は1日「米国内の鉄鋼生産設備は約4分の1が稼働していない」と指摘。「来週の正式発表を楽しみにしている」とした。鉄鋼労働者の組合連合も「トランプ氏の行動を称賛する」と表明した。
「米国経済、企業、労働者、消費者を傷つけるもので強く反対する」。米大手企業の経営者団体、ビジネス・ラウンドテーブルは1日、こう表明した。トヨタ自動車の米国法人は「米国での販売価格を大きく上昇させる可能性がある」との見解を示した。欧州系コンサルティング会社ローランド・ベルガー日本法人の長島聡社長は「日本車メーカーは日本から輸入する高張力鋼板などを使う比率が高く、関税引き上げの影響を受けやすい」と分析した。
米国際自動車ディーラー協会も、鉄鋼とアルミが自動車生産に不可欠な素材だとしたうえで「ここ数カ月、自動車販売は鈍っており、メーカーはコスト上昇を吸収する準備ができていない」(ラスク会長)と懸念した。
ビール協会も1日、トランプ政権の関税引き上げに反対する声明を公表。アルミの関税引き上げが、年3億4千万ドルを超える調達コスト増につながると試算し「米国でビール業界の雇用を危険にさらす」と批判した。