ちょっと前の話題ですが、「シンデレラ体重」という言葉がSNS界隈を賑わせました。
記事によれば、「シンデレラ体重」を求める計算式は、
「身長(m)×身長(m)×20×0.9」
これは、BMIの18の値になるので、「低体重」の領域に入り、女性の場合は生理がとまったり、栄養失調に陥ったり、そういった危険性があるのではないか、という指摘が相次ぎました。
私が気になったのは、この「シンデレラ体重」の語源で、ハフポスは穏当に、
大手エステサロンが20年前に提唱したとされるが、詳細は不明だ。
としていますが、メディアによっては「たかの友梨」のエステサロンが最初に使い始めた、としています。
たかの友梨ビューティクリニックが最初にシンデレラ体重という言葉を提唱した際は、「BMI19.8」が理想とされていたそうだ。
シンデレラ体重とは、「たかの友梨ビューティークリニック」が1998年頃に提唱した理想の女性向け体重の概念である。
というわけで、この「シンデレラ体重」なる語を考え出したのは「たかの友梨ビューティークリニック」なのではないかというのが定説なのですが、ほんとうかなあと思い、調べてみました。
計算式の変遷について
既に指摘がされているように、この「シンデレラ体重」がトレンドになったのは、今回が初めてではなく、2016年3月ごろにも話題になっています。このときは、NHKもニュースにしました。2016年3月29日のアーカイブ。
NHKによれば、
「シンデレラ体重」という指標は、もともとは大手エステサロンの「たかの友梨ビューティクリニック」が、女性の理想的な体重として20年以上前に考案したもので、そのときの計算式は身長×身長×22×0.9でした。
と、「シンデレラ体重」の元ネタを「たかの」に求めています。恐らく、このNHKの書き方が、「シンデレラ体重」=「たかの」を結び付けたのではないか、と推測されます。
この2016年のときも、既に「シンデレラ体重」は「身長×身長×20×0.9」として流れていたわけですが、NHKは、そもそも「たかの」は「身長×身長×22×0.9」という値として提唱したのであり、なぜか数値が元々より落っこちている、と書いています。
なるほど、「シンデレラ体重」という語自体は、この2016年よりも前から存在しているようです。以下、少し羅列してみましょう。
2015年11月6日。
おかちゃんは娘から聞いて初めて知ったんですが
理想体重とシンデレラ体重があるようで
理想体重は身長×身長×20で
シンデレラ体重は理想体重×0.9で出るみたいです
2014年7月24日。
シンデレラ体重計算とは
“標準体重よりもより美しく見える体重のことです。”
そして、その計算式は
BMI = 身長(m)身長(m)✕ 20
シンデレラ体重 = BMI ✕ 0.9
2010年4月8日。
シンデレラ体重とは
その体重が自分が一番きれいに見える
体重ということらしいです。
早速、計算方法-!
理想体重 = 身長(m)×身長(m)×20
シンデレラ体重 = 理想体重×0.9
この「身長(m)×身長(m)×20×0.9」で、ネット上で発見できた最古の例は、2009年11月30日ごろ*1のもの。
シンデレラ体重って
一番からだが女らしく見える
体重なんだってー
たかの友梨情報だから
間違いないよ
身長(m)×身長(m)×20
↑
標準体重
標準体重×0.9
↑
シンデレラ体重
んん?このコメントが正しいとすると、そもそもこの「20×0.9」の計算式は、「たかの」が言い出したことになりませんかね。他に引っかからないので、何とも言えませんが。
さらに遡ると、「シンデレラ体重」の語は残りますが、「20×0.9」の計算式ではない、別のものになります。
ちょっと前後しますが2010年3月20日。
通常が身長引く100です。シンデレラ体重が身長引く110です。
これだと、160センチの方だと50Kgがシンデレラ体重になりますが、「20×0.9」の計算式だと、46.08kgなので、ちょっと差が出てしまいます。身長にもよりますが、-110のほうが緩い感じですね。
この説は2005年3月30日の発言小町の投稿にもあります。
少々、誤解があったようですんで、訂正します。
若い女性の平均的な体重は
身長(cm)-110です。生理が止まりそうで怖い… : 美容・ファッション・ダイエット : 発言小町 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
というコメントに対して、以下のようなタイトルでレスがつきます。
シンデレラ体重は駄目
かな吉さんが仰るのはきっと「美容体重」ですね。
間違いなく、中身は不健康になります。
twitterでもいくつか発言があります。元リンクは載せませんが、コメント部分だけ。
2010年1月9日
それこそ80年代くらいから一部で言われているらしい。身長-120=体重。シンデレラ体重って言うくらいだから、実現は無理じゃよ…お伽話お伽話。
80年代から言われているという発言も気になりますが、この人は「身長ー120」を採用しています。さすがにそれはヤバイ。
この人はもう一つ呟いていて、
2010年1月9日
あ、今ちゃんと調べたらシンデレラ体重、身長-120=体重だったのは昔で、今は標準体重×0.9のことを言うらしい。間違い情報すいません。
おお、「標準体重」のことが、BMI22の数値を指すのであれば、NHKのいう「22×0.9」が成り立つんですが、ところが別のツイートでは、
2010年1月9日
それでも、標準体重が身長(メートル)×身長(メートル)×20だから、それに0.9…あ、考えたくない。
と、標準体重を「×20」で考えているので、これは今までどおりの「×20×0.9」説になってしまうので成り立ちません。ううむ。
もうひとつ他の方のツイートもありました。
2009年8月16日
※シンデレラ体重には120方式のほか、110方式、基準9割方式、など諸説あります。120/110方式は身長を選ぶ気がします。
「120方式」などの数字は、「身長ーx」のxに入る数字のことでしょう。これは先ほどのツイートと同じです。気になるのは「基準9割方式」で、「基準」がBMI22を指すなら、「22×0.9」と「シンデレラ体重」が結びつきます、が、いかんせん、「基準」が何を指すのかわからないので、断言ができません。
というわけで、2016年以前にネット上で確認できる「シンデレラ体重」の数式は以下の4つ。
①身長×身長×20×0.9
②身長ー110
③身長ー120
④基準×0.9
④を「身長×身長×22×0.9」としてもいいような気はするのですが、twitterの呟きのみで、サイトがいまいち見つけられなかったので、果たしてどこ情報なのかが気になります。少なくとも、2009年以前に、「22×0.9」と「シンデレラ体重」を結び付けている情報は発見できなかったので、NHKのいう「20年以上前から」そのように呼んでいた、というのは断言はできなさそうです*2。
「美容体重」のことなのか
先ほどの発言小町のレスには、それは「美容体重」ではないか、という指摘がありました*3。なるほど、「シンデレラ体重」ではない別の表現ならば、「身長×身長×22×0.9」があるかもしれませんね。
2017年12月22日。
「身長(m)× 身長(m)× BMI値(20)= 美容体重」となり、
上記はBMIの20がとられてますね。「22*0.9」は「19.8」なので、ちょっと違います。
2015年1月23日にも似たような記述。
美容体重(kg)=身長(m)×身長(m)×20
理想の体重って? 大切なのは見た目? BMI、美容体重、洋服を綺麗に着こなせる体重の目安おさらい | 女子力アップCafe Googirl
2010年3月30日の知恵袋にはこんな記述。
身長 157cm
(中略)
美容体重 49.3kg(健康的で美しい体型です。男性もこのくらいがお好みのよう。エクササイズで締めるところは締めて。)
逆算してみると、BMIが約「20」で出るので、これも同じでしょう。
2008年11月のアーカイブで、こんな計算サイトもありました。
ためしに160センチで入れてみると、「美容体重」は51.2kgと出てきます。逆算するとぴったり「20」になります。なので、これも上記のものと同様の計算式なんでしょう。
他にも、2015年1月4日のツイートにはこんな表がありました。
https://twitter.com/shisyunki06/status/551711474154885120(削除済み)
これだけではどういう計算方法かはわかりませんが、「身長×身長×BMI」の式ならば、逆算するとBMI値は「18.5」ぐらいになるので、これは「痩せ」に入るラインですね。
また、先ほどの「身長-110」説を「美容体重」としているページもありました。2008年10月9日。
でも、美容体重は自分の身長-110なので、41キロになるまでダイエットがんばります。
というわけで、一口に「美容体重」といっても、だいたいのラインは「身長×身長×20」のようですが、明確にきめられた数式はなさそうです。そして、相変わらず「22×0.9」の式は見つけられません。
たかの友梨の著書にはあるものの…
とすると今度は書籍を頼ることになります。本来であれば、当時の雑誌やパンフから「たかの友梨」関連のものを探すのがいいのですが、さすがに難しかったので、一般書に限って、「たかの友梨」名義の本を読めるだけ読んでみました*4。
すると、「身長×身長×22×0.9」が書かれた書籍を発見することができました。
まずは「たかの友梨式 11品目ダイエットbook」(光文社1998)。
たかの友梨式11品目ダイエットbook―シンデレラコンテストでも実践!3カ月でやせるレシピ (光文社女性ブックス VOL. 72)
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 1998/02
- メディア: ムック
- この商品を含むブログを見る
BMI値が22前後の人たちが最も病気にかかりにくく、死亡率も低いことから、この22という数値をもとにした、身長(m)×身長(m)×22で求める「健康体重」を、日本の新しい標準体重にしようという動きもあります。
しかし、日本の女性はスリム願望が強いので、エステティックサロンを訪れる女性は、健康体重マイナス10%の「美容体重」をひとつの目安にしています。
「11品目ダイエットbook」P128-129
そして、以下のような計算式を記載しています。
おお、出てきましたね。しかし、たかのはこれを「シンデレラ体重」とは呼ばずに、「美容体重」としています。
もうひとつ、「たかの友梨 スイス式ダイエット」(世界文化社2000)。
本書では洋服をカッコ良く着こなせる理想体重を目標にしています。日本人の女性は欧米の女性に比べて、顔の大きさや身長に大きな違いがあります。ですから一般に言われている健康体重では、少しふっくらした印象。理想体重は健康体重のマイナス10%。
「スイス式ダイエット」P124
そして、先ほどの書籍と同じ計算式を提示しています。
計算式はやはり「22×0.9」を採用していますが、やはり「美容体重」と言う名称で、「シンデレラ体重」という言葉は出てきません。無論、これ以前の著書にも出てきません*5
なので、「身長×身長×22×0.9」の数式を提唱したのは恐らく「たかの」で間違いないでしょうが、しかしそれを「シンデレラ体重」と呼んだかどうかまでは、まだ留保が必要です。
「標準体重」の変遷
ここで注意したいのが、「たかの」が提唱する「美容体重」は、BMIの基準をもとにしているということです。ということは、BMIの計算方法が日本にやってくるまで、この「美容体重」の計算式は存在しないことになります。
BMIが、肥満と関連付けてWHOで提唱されたのが1980年代の初め*6、日本では、1993年から*7日本肥満学会がBMIに基づく肥満の判定基準が使用されたそうです*8。1998年にはWHOは肥満の値について新しい判定基準を設けたので、1999年に日本肥満学会もそれに揃えています。つまり、BMIが日本に入ってきたのは1990年代前半、定着し始めたのが90年代後半~2000年代といったところでしょうか。
その期間のダイエット本は、果たして「美容体重」的な考えをどのように持っていたのでしょうか?それを考えるためには、まず、「標準体重」がどのような変遷を辿ってきたかが大事です。
BMI以外の標準体重の算出方法として使われていたのは以下の通りです。
①ブローカ・桂変法:(身長ー100)×0.9
*180センチ以上の場合*9は、(身長-110)
*150センチ未満の場合は(身長ー105)
②ブローカ法:身長ー100
③松木式:1943年メトロポリタン生命保険会社の表を改変
④箕輪式:健康成人5000人の中央値
⑤後藤式:「理想体重と糖尿病の治療目標」1961*平均値
⑥加藤式:(身長ー50)/2
⑦厚生省:日本人の肥満とやせの判定図1986
⑧明治生命:もっとも死亡率の低い男女別・身長別の標準体重表1985
1980年代~2000年のダイエット本や肥満関係の本から、「標準体重」と、どの算出方法で計算しているかを、以下の表にまとめました。*10
表をご覧いただけるとわかりますが、BMI以前はブローカ・桂変法の「(身長ー100)×0.9」が主流でした。桂がブローカ法に*0.9したのは、「日本人はその1割を引いたぐらいが適当*12」としたからだそうです。
日本肥満学会が提唱した1993年以降は、ほぼBMI一辺倒になります。なので、「標準体重」の変遷は、
1980年代~1993年ごろ:ブローカ・桂変法
1993年以降:BMI
ということになるでしょう。
「標準体重」よりも下を目指す
日本には1990年代前半に、「標準体重」の大きな転換点があったということになります*13。
なかなか興味深いのは、どちらのスタンダードの時も、ダイエット本は、「標準体重」ではなく、「標準体重よりもちょっと下」を目指すことがあった、ということです。
自分の体重が標準よりどの程度多いのか、あるいは少ないのかを知るためには、つぎのような式が使われています。
身長(cm)-105=標準体重(kg)
『食べてやせる』(三笠書房)1991*14
これはブローカ法ではないのかと思うのですが*15、数値が「100」ではなく「105」で、通常よりも標準体重が低く出ます。
この数値の使い方は他の書籍にも散見され、
または、(Broca法)
150cmの人 150-105=45kg 40~49kg 標準体重
160cmの人 160-110=50kg 45~55kg 標準体重
『四十歳からのダイエット』(海竜社)1987 P222
他にも、
●身長150センチメートル以下は、身長マイナス100を。
●身長151~165センチメートルは、身長マイナス100に0.9をかけて。
●身長165センチメートル以上は、身長マイナス105を。
『症状から知る減量法』(みずうみ書房)1986 P27
とまあ、けっこう様々です。全般的には「標準体重」としてブローカ・桂変法を使用しているのですが、書籍によってはなぜか低めの値を出しているものもありました。
1990年5月13日の朝日新聞には、若い女性の「やせ願望」に関する記事の中にこんな記述があります。
「身長マイナス105は健康体重、110は美容体重、115が女優体重」の説が、タレント業界にはあるという。
朝日1990/5/13 P19
色々な情報が乱立していた中で、BMIという正式な数字の登場はダイエット界において大きな意味をもったのでしょう。しかしながら、いかんせん、いわゆる「標準体重」が今までのものよりも高くなりすぎたのが、業界的には少々扱いづらい部分があったんではないでしょうか。
前掲したたかの友梨の著書にもあったように、「一般に言われている健康体重では、少しふっくらした印象」となってしまうわけです。
なので、1990年代後半になると、このBMIでの標準体重の算出方法について批判的な主張も出てきます。
この表(引用注:BMIの肥満度判定)を見ると、「かなり太めでも正常の範囲なんだ」と感じる方が多いでしょう。
『「かくれ肥満」に目覚めよ』(青春出版社)1997 P16
著者はこの「標準体重」の数値が大きすぎると批判的で、当時イギリスとアメリカに出されたとされる論文から、「BMIが19以下」の女性の死亡率が低かったことを挙げており、BMI22の標準体重の算定を否定しています*16。
ことの真偽はともかく、この「標準体重」より下にダイエット目標をもつことはままあることで、2007年2月21日の朝日の地方欄には、兵庫の事例として、エステサロンの「美容体重」が平均より低く設定されていたことが書かれています。
このサロンの表は一般的な標準よりかなり低い数値を「標準体重」「美容体重」として示していました。消費者に、自分は太っているのでエステを受ける必要があると誤解させるおそれがあります。
朝日2007/2/21 兵庫 P25
要するに、ダイエット業界では、「標準体重」より下を目標とした体重設定が以前から行われていたけれども、BMIの算定方法が主流化し、今までの標準体重より重くなったことをきっかけに、それよりも下を目標とした理想的な「標準体重」が明確化されていったのではないか、ということです。「シンデレラ体重」「美容体重」という言葉も、このBMIによる「標準体重」が数値として確固たる地位を築いたからこそ生まれた産物のように思えます。
「シンデレラ体重」をどのように利用したか
少し話が脇にそれましたが、BMIという明確な数値が出てきたことで、逆に美容業界においては、それよりも下を理想とした体重を目標とする気運が出てきたのであろう、ということです。「シンデレラ体重」という言葉も、その余波によるものでしょう。
では、ようやく本題ですが、「たかの」では、「シンデレラ体重」という名称を本当に使ってきたのでしょうか?
現在、「たかの」のホームページのサイト内検索をかけると、ひっかかるページは「5つの黄金法則」という体重管理などのアドバイスのページ。
標準体重とシンデレラ体重(理想体重)
標準体重の測定方法は「身長(m)×身長(m)×22」
“たかの友梨”が考えるシンデレラ体重(理想体重)は「標準体重×0.9」
標準体重よりやや軽めをめざしましょう。https://megalodon.jp/2018-0304-2256-56/https://www.takanoyuri.com:443/concept/golden/golden.html*17
この記述がいつからあるのか不明ですが、明確に1998年のものと同じ数式が書いてあります。
ところが、このページ。2017年7月のアーカイブを見てみると、記述が変わっていることに気がつきます。比較のために現在を左、2017年を右に置いた画像を添付しましょう。
たかの友梨式 5つの黄金法則 |エステといえば“たかの友梨”(2017年7月)
そう、少なくとも2017年7月までは、「シンデレラ体重」の記述がまったくないんです。
アーカイブは2006年まで遡ることができますが、当該ページにおいては「シンデレラ体重」の記述があったことは一度もありません。それなのに、現在はなぜか突然、「シンデレラ体重」の計算式までもが掲載されている。これはどうしてでしょうか?
ここで私はひとつの仮説を立てました。
その仮説の一助となるのが、次のページのアーカイブです。2016年4月2日の、「2016年度エステティックシンデレラ大会」のことが掲載されているページ。
“たかの友梨”が考えるシンデレラ体重(理想体重)は、標準よりやや軽め。ダイエットというと体重ばかり気にしがちですが、バランスのとれた健やかなボディをめざします。
第25回 たかの友梨エステティックシンデレラ大会 2016 | エステといえば“たかの友梨”|フェイシャル/小顔・ブライダルエステ ・ダイエット/痩身
計算式こそ書いていないものの、「シンデレラ体重」が、「標準よりやや軽め」と称して掲載されています。
ところがところが、同じ年の3月9日のアーカイブを見てみると…
ダイエットというと体重ばかり気にしがちですが、“たかの友梨”がめざすのは、バランスのとれた健やかなボディ。
第25回 たかの友梨エステティックシンデレラ大会 2016 | エステといえば“たかの友梨”|フェイシャル/小顔・ブライダルエステ ・ダイエット/痩身
なんと、1ヶ月前にはこの「シンデレラ体重」の記述がごそっとなかったわけなんですよ。どうして突然、「シンデレラ体重」の記述を付け加えなければならなかったのか。
日付を思い出して頂きたいのですが、「シンデレラ体重」が付け加わったのが、遅くとも2016年4月2日。そして、NHKが「シンデレラ体重」をニュースにしたのが2016年3月29日。この日付の近さは気になりませんか? あれ、そうするとさっきの「5つの黄金法則」のページに突然付け加わったのも、もしかすると2月に話題になってから?*18
私の仮説は、「たかの」は、「シンデレラ体重」が話題になったからこそ、わざわざ自身のサイトに付け加えたのではないか、というものです。それは検索流入を狙ってのことかもしれませんし、もしかすると、<「たかの」が「シンデレラ体重」を提唱した>ということを既成事実化したかったからかもしれません。逆に言えば、「シンデレラ体重」の用語を創ったのは「たかの」ではないかもしれない、ということです。少なくとも、そこまで「身長×身長×22×0.9」の「シンデレラ体重」をフューチャーしているわけではなかったのでしょう*19。
今日のまとめ
①「たかの」が「シンデレラ体重」を提唱したという定説に一役買ったのが2016年3月29日のNHK。
②NHKによれば、「シンデレラ体重」は元々は「身長×身長×22×0.9」だということだが、ネット上で、「シンデレラ体重」をそのように記載しているものは発見できなかった。
③ネット上での「シンデレラ体重」のパターンは「A身長×身長×20×0.9 B身長ー110 C身長ー120 D基準×0.9」。Dの「基準」が「身長×身長×22」であればNHKの記事と一緒だが、詳細は不明。
④1998年・2000年のたかの友梨の著書に、「身長×身長×22×0.9」の数式は存在するが、名称は「美容体重」。
⑤「たかの」が提唱する前から、「標準体重」より下の体重を理想とするダイエット本がいくつも出ていた。
⑥「たかの」の公式サイトに現れる「シンデレラ体重」の語は、メディアで話題になったときにのみ付け加えられている傾向がある。そのことから、考えられる推測は2つ。
A「シンデレラ体重」の名称は「たかの」が提唱したものではなく、ネット上で成立した語だった。しかし、以前に使用した「美容体重」の数式を使って、話題に便乗し、既成事実化した。
B「シンデレラ体重」の名称は「たかの」が以前に提唱したが、あまりプッシュはせず、無名化していた。しかし、話題になったことでそれを復活させようとして、サイトの内容を書き換えた。
実はこの件について「たかの」に問い合わせているのですが、特にお返事がありませんので、真相はよくわかりません。今回の説の弱いところは、テレビや雑誌、何より広告などといった他媒体を確認できていないということです。最初の方で引用したように、2009年には「たかの友梨情報」として「標準体重×0.9」を「シンデレラ体重」として紹介している人がいるので、2009年ごろに、他メディアで、そのような言葉が伝わったのではないかな…という感じがします。私の気持ち的にはBを推したいところです。何か有力な情報があればお教えください。
ダイエットブームが日本で起こったのは、1960年代からといわれます。たかの友梨の自伝を読むと、彼女がいかにうまく時流にのったかがよくわかります。「何者」にもなれないと諦めていた女性たちを導く姿は、確かに甘美なサクセスストーリーです。しかし、昨今の「シンデレラ体重」の世相の反応を見ると、たかのが提示していた「何者」は既に古くなってきているのではないか、と感じます*20。90年代のシンデレラたちを見ながら、私は彼女たちの今の姿を思い浮かべます。恐らく40代、50代になったであろう女性たち。彼女たちは「何」になれたのでしょう。
*1:なぜ「ごろ」かというと、ブログの日付が出ていないので、コメントの日付から推測したためです
*2:
個人的な意見では、「22×0.9」が「20×0.9」になったのは、ただ単に書き間違えただけだという感じがします。20の方がきりがいいし。ネットロアの正しい伝わり方です
*3:
ちなみに先ほどのNHKの記事では、
「美容体重」(身長×身長×19)
としていますが、この項で確認したように数値は様々ですし、傾向としてはむしろ「20」の方が多いのではないか、と思います。
*4:
ちなみに、『カロリーのすべてがわかる本』(シーズ)1986 には、「ベスト体重(標準体重)」という表記で、(身長ー100)×0.9の式が紹介されており、また、厚生省の「肥満指導の手引き」の表を改変したものも使われています。ここには「美容体重」はまだ登場しませんし、数値も一般的なものです。
*5:
調べた本は本文以外では以下の通り。
たかの友梨 シンデレラ ダイエット パスポート なりたい自分に近づくビューティハンドブック
カロリーのすべてがわかる本―たかの友梨のエステティック作戦 (やせるテキストBOOKS)
個人的に気になるのは、
あたりが2005年前後なので、「シンデレラ体重」の言葉が出てくるのかも…と思うのですが、いかんせん今回はお金を使いすぎました。誰か読んだら教えてください。
*6:
The BMI has been used by the WHO as the standard for recording obesity statistics since the early 1980s.
*7:資料によっては1991年。
『わかりやすい肥満・ダイエットのすべて』(近代文藝社)1994 P18
*8:
『肥満の生活ガイド』大野誠(医師薬出版)2001 P61
*9:書籍によっては175センチ以上、170センチ以上などばらつきがあるが、180センチが学会的には正しそうです。
*10:
ダイエット・肥満で検索すると何百冊単位で出てくるので、各年代ピックアップして、50冊程度を調べました。その中でも、「標準体重」について記載があったものをまとめています
*11:☆は、算出方法は近似しているものの、数値に違いがある場合。
△は、表記があるものの算出方法が書かれていない場合、としました。
*12:『肥満症テキスト』(南江堂)P8
*13:医学的に考えれば、ブローカ・桂とBMIはその成り立ちが違うのではありますが、世のダイエット本はどちらも「標準体重」の算出方法として捉えていますので。
*14:ただし1972年の再編集らしいです
*15:
ちなみにwikipediaには以下の記述がありますが、何を参考にしたか不明です。
男性もしくは身長の高い女性には、身長から110を引いたものを、女性では105を引いたものを標準体重の目安とする、より簡易的な算出方法もある。
*16:
本筋と関係ないのでこの論文の真偽までは確かめませんでした
*17:後述するように、すぐに書き換えられるので、魚拓をとりました
*18:
念のために、2008年~2015年までの「シンデレラ」大会のページを確認しましたが、「シンデレラ体重」に関する記述はありませんでした。
第17回エステティックシンデレラ誕生! | エステティック たかの友梨Beauty Web|ダイエット/痩身・ブライダルエステ・フェイシャル/小顔・アンチエイジング
第18回たかの友梨シンデレラ誕生! | エステティック たかの友梨Beauty Web|ダイエット/痩身・ブライダルエステ・フェイシャル/小顔・アンチエイジング
第19回たかの友梨エステティックシンデレラ誕生! | エステティック たかの友梨Beauty Web|ダイエット/痩身・ブライダルエステ・フェイシャル/小顔・アンチエイジング
第20回たかの友梨エステティックシンデレラ誕生! | エステティック たかの友梨Beauty Web|ダイエット/痩身・ブライダルエステ・フェイシャル/小顔
第21回たかの友梨エステティックシンデレラ誕生! | エステティック たかの友梨Beauty Web|ダイエット/痩身・ブライダルエステ・フェイシャル/小顔
第22回たかの友梨エステティックシンデレラ誕生! | エステティック たかの友梨Beauty Web|ダイエット/痩身・ブライダルエステ・フェイシャル/小顔
たかの友梨エステティックシンデレラ大会とは? | エステといえば“たかの友梨”|ダイエット/痩身・ブライダルエステ・フェイシャル/小顔
第24回 たかの友梨エステティックシンデレラ大会 2015 | エステといえば“たかの友梨”|フェイシャル/小顔・ブライダルエステ ・ダイエット/痩身
*19:これは推測も推測なので脚注扱いにしますが、「たかの」は「エステティックシンデレラ大会」を毎年開いていることで有名ですが、念のために各賞に入賞した人が、この「シンデレラ体重」に収まるBMI「22×0.9=19..8」なのかも調べてみました。
まずは2016から2017。
年度 | 賞 | 身長(m) | 体重 | BMI |
2017 | グランプリ | 1.624 | 52.55 | 19.92511 |
2017 | 準グランプリ | 1.744 | 56.15 | 18.46107 |
2017 | ウエイトダウン賞 | 1.695 | 59.8 | 20.8143 |
2017 | メリハリボディ賞 | 1.683 | 56.05 | 19.78825 |
2017 | ミセス賞 | 1.65 | 61.2 | 22.47934 |
2017 | フォトジェニック賞 | 1.594 | 49.5 | 19.48178 |
2017 | 特別賞 | 1.639 | 58 | 21.59087 |
2016 | グランプリ | 54.95 | 19 | |
2016 | 準グランプリ | 1.687 | 53.15 | 18.6 |
2016 | ウエイトダウン賞 | 61.35 | 22 | |
2016 | メリハリボディ賞 | 1.7 | 62.5 | 21.6 |
2016 | ミセス賞 | 66.45 | 22.9 | |
2016 | フェイシャル賞 | 66 | 25.1 | |
平均 | 20.90313 |
*https://www.takanoyuri.com/news/2017cin/の動画参照。
*空欄は不明の人
四捨五入して平均21なので、ちょっと超えてる人が多い印象です。
過去のシンデレラ入賞者も調べました。参考にしたのは以下の本。
年度 | 賞 | 身長(m) | 体重 | BMI |
1991 | グランプリ賞 | 1.7 | 55 | 19.03114 |
1991 | 準グランプリ | 1.6 | 44 | 17.1875 |
1991 | ミセス賞 | 1.61 | 52 | 20.06095 |
1991 | ウエイトダウン賞 | 1.697 | 56 | 19.44573 |
1992 | グランプリ | 1.726 | 54 | 18.12643 |
1992 | 準グランプリ | 1.658 | 46 | 16.73358 |
1992 | ミセス賞 | 1.614 | 48.6 | 18.65646 |
1992 | ウエイトダウン賞 | 1.637 | 54.4 | 20.30026 |
1992 | ウエイトダウン賞2位 | 1.633 | 49.6 | 18.59984 |
1992 | アングルシェイプ賞 | 1.686 | 53.5 | 18.82082 |
1992 | チャーミング賞 | 1.654 | 53.7 | 19.62923 |
1992 | 特別賞 | 1.65 | 50.8 | 18.65932 |
1992 | 準グランプリ賞 | 1.71 | 48.8 | 16.6889 |
1992 | エステティシャン推薦賞 | 1.659 | 59 | 21.43676 |
1993 | ミセス賞 | 1.632 | 51 | 19.14828 |
1993 | フォトジェニック賞 | 1.719 | 57 | 19.28959 |
1994 | グランプリ | 1.69 | 60 | 21.00767 |
1994 | ウエイトダウン賞 | 1.655 | 60.15 | 21.96037 |
1994 | 準グランプリ | 1.675 | 48.75 | 17.37581 |
1994 | 準グランプリ賞 | 1.673 | 51.05 | 18.23912 |
1995 | グランプリ&ウエイトダウン賞 | 1.647 | 50.65 | 18.67206 |
1995 | 準グランプリ | 1.69 | 54.05 | 18.92441 |
1995 | フォトジェニック賞 | 1.635 | 50.9 | 19.04067 |
1995 | 入賞 | 1.602 | 49.5 | 19.28769 |
1995 | 入賞 | 1.714 | 55.95 | 19.04489 |
1996 | シンデレラ | 1.654 | 58.5 | 21.3838 |
1996 | シンデレラ | 1.644 | 59.8 | 22.12573 |
1996 | シンデレラ | 1.624 | 54.34 | 20.60381 |
平均 | 19.26717 |
20年以上前は、BMIがかなり低いことがわかります。とりあえずやせとけ、みたいなところもあったのかもしれません。母数が少ないので何とも言えませんが、そこまでBMI値は重視していないのではないか、という感じがするのも、「たかの」が「シンデレラ体重」をあまり重視してこなかった証左にはならないでしょうか。
*20:
彼女の「古さ」は、昨今の労働訴訟のニュースを見ても感じます。