北朝鮮の核・ミサイル能力向上にどう対処するか ――トランプ政権の核態勢見直し(NPR)が示唆するものとは

 2017年11月29日未明、北朝鮮は日本海に向け「火星15」と呼ばれる新型ICBMの発射を行った。ロフテッド軌道で発射された火星15は、これまでに発射された火星14を大きく上回る高度約4500kmにまで到達し、通常弾道軌道であれば、米東海岸を含む全土を射程に収めることのできる1万3000km近い飛翔能力を有していることが明らかとなった。

 

本稿では、北朝鮮の核・ミサイル能力の現状を技術的観点から評価した上で、それが日米にもたらす影響と、トランプ政権が進める核戦略やミサイル防衛政策とどのように関係するかを考えてみたい。

 

 

北朝鮮によるICBM開発の技術的評価

 

火星15は、二段式の液体燃料エンジンと再突入体(Re-entry Vehicle:RV)を収めた弾頭部分から構成されている。この構造自体は火星14と変わらないが、ミサイル本体は一段目、二段目ともに明らかに直径が大きくなり、推力が増したことで、その分ペイロード(搭載重量)も大きくなっていると考えられる。

 

また、弾頭部分の形状も火星14とは大きく異なっている。当初は鮮明な画像がなく、先端部それ自体がRVのように見えたものの、高解像度の画像を見ると、どうやら火星15の先端に取り付けられているのは、左右2つに割れるタイプのフェアリング(保護カバー)で、RVはその中に搭載されているように見受けられる。

 

本体の大型化によって推力が向上していることは、それだけフェアリング内に重いRVを搭載可能であることを意味する。それはつまり、核弾頭を小型化する必要性が弱まり、比較的大型の水爆を搭載することが可能になりつつあるということだ。あるいはその逆に、複数の小型核弾頭を搭載(多弾頭化)したり、ミサイル防衛による迎撃を難しくするデコイ(囮)を仕込むといった可能性も考慮する必要が出てきた。

 

北朝鮮のICBM能力のうち、推力の向上とペイロードの拡大は明らかに悪いニュースだ。しかしながら、これらはICBMに必要な数ある技術要素の一つに過ぎず、北朝鮮が米本土を確実に攻撃できるようになるまでにはまだ時間を要する。事実、米軍ナンバー2のセルヴァ統合参謀本部副議長は、2018年1月末の時点で「金正恩は、(ICBM用RVの)点火やターゲティング技術、残存性のある再突入技術を実証していない」と述べている。この点については、マティス国防長官も昨年12月に同様のことを述べているから、ここ数ヶ月間の米軍の技術評価は一貫していると見てよいだろう。

 

大気圏への再突入技術で大きなハードルとなるものの1つが、突入時の熱に耐えるための防護技術だ。スカッドのような比較的射程の短い弾道ミサイルは、熱防護材にアスベストやグラファイトを使用しているが、射程が長く再突入時の速度がより高速になる=加速に応じてRVの表面温度が7千度近くに達するICBMになると、より軽量で強固な生産の難しい熱防護材が必要になる。一般的に、ICBM用RVの熱防護材には炭素強化繊維複合材(カーボンFRP)が使われている。当然、炭素複合材の製造に関わる器材や材料は輸出規制品目だが、北朝鮮は昨年7月4日に火星14の実験を行った時点で、「炭素複合材の国産に成功した」と宣言している。

 

だが仮に、北朝鮮が高度な熱防護材の製造自体に成功していたとしても、それの機能を検証するには様々な実験が必要となる。一般的に、弾道ミサイルの熱防護を検証する方法は、流体力学のコンピュータ・シミュレーションや極超音速風洞(hypersonic wind tunnel)実験、アークジェット施設での実験などがある。また北朝鮮は既に2016年の時点でスカッドのエンジン排気を熱防護材に当てて、再突入時の熱負荷を再現する模擬実験を行なっている。それに加えて、北朝鮮がロフテッド軌道でのミサイル発射を繰り返すのも、通常弾道軌道よりも速い再突入速度を再現して、熱防護の実験をする狙いがあると考えられる。

 

またRVの熱防護は飛翔安定性とも密接な関係がある。一般的なRVは円錐形をしているが、この形状は飛翔安定性や内部に搭載する核爆発装置の大きさ、その固定位置に影響する。再突入時の安定性を確保するためには、RVを鉛筆の先のような細長い形状にするのが理想である。しかし、外側の形状を細くしすぎると突入速度が速くなり熱負荷が増す上、核爆発装置を搭載するスペースが狭くなってしまう。爆発装置の固定位置も同様に飛翔時の安定性に影響する。単純に言えば、重い爆発装置は先端に搭載する方がバランスがいいが、弾頭の先端は細くなっているので、これも爆発装置の大きさを制限する要因になる。

 

他方、クレヨンのような丸みのある形状のRVを用いると、爆発装置を収めるスペースを確保できる反面、重心が後ろに寄り過ぎ、飛翔安定性が崩れやすくなってしまう。再突入時にRVのバランスが崩れれば、熱負荷が大きくなり命中精度に影響するし、最悪の場合RVはバラバラになって兵器として機能しなくなってしまう。この問題を解消するには、RVにスピンモーターや推力偏向ノズルを搭載し、RVをコマのように回転させて安定性を高める方法があるが、北朝鮮がそのような技術を有しているかどうかは今のところ明らかではない。

 

前述のとおり、RVの性能をシミュレートする方法はいくつかある。だが結局のところ、それが期待通りの能力を発揮しているかを正確に検証するには、通常弾道軌道で長射程の実射実験を行うしかない。例えば米国は、カリフォルニア州のヴァンデンバーグ空軍基地から6800km離れたマーシャル諸島クワジェリン環礁の試験場に向けて、データ取得用の模擬弾頭を1~2発搭載したミニットマンⅢICBMの実射実験を年平均4〜5回行っている。

 

当然ながらこうした実験に際しては、本物の核ミサイルの発射と誤認されないよう慎重な配慮がなされており、事前の航行警報や進入禁止区域の設定はもちろん、ミサイルも米中部の実戦配備基地から発射するのではなく、巨大なICBMを一度解体してから、実験打ち上げ施設のある西海岸まで運び込み、再度組立てをした上で、太平洋の沖合に向けた安全な飛翔コースを設定する。

 

だが、北朝鮮が1万kmを越えるICBMを通常弾道軌道で発射するための飛翔コースはかなり制限されている。朝鮮半島から南東方面にはグアムがある上、その更に東はハワイに向かうコースとなってしまうから、長射程のミサイル実験は米国を過度に刺激する恐れがある。かといって、北東方面にはロシアやアラスカ、米本土があり、尚更発射実験には向いていない。となれば、残る選択肢は2017年9-10月に火星12を立て続けに発射したときのように、北海道の襟裳岬を超え、日本列島を飛び越えたコースを延長し、南米のペルーやチリ沖の海域を狙うコースしかない。

 

いずれにしても、北朝鮮にとって最大射程でICBMの実験を行うのはハードルが高い。また米軍がやっているように、着弾地点付近の沖合にあらかじめ観測船を待機させて、飛翔データの取得を行うことも困難とみられることから、仮に最大射程の実験をしても北朝鮮が自ら科学的な検証データを取得できるかどうかもわからない。

 

したがって、北朝鮮はロフテッド軌道での発射や、射程を意図的に制限した実験を繰り返しつつ、客観的な科学的検証を待たずに、一方的にICBMの「完成」を宣言するのだろう。火星15を発射した時点で、朝鮮中央通信が「核武力完成の歴史的大業を実現した」と表明しているのは、既にそういう意味合いがあるようにも見受けられる。

 

 

北朝鮮のICBM脅威に対抗する米本土ミサイル防衛

 

以上は、北朝鮮のICBM能力単体を評価したものだが、米国と北朝鮮の戦略関係を見る上では、米本土を守る弾道ミサイル防衛(BMD)の存在も忘れてはならない。

 

米ミサイル防衛局は、北朝鮮とイランからの弾道ミサイル脅威に対処することを目的として、アラスカ州フォートグリーリーとカリフォルニア州ヴァンデンバーグ基地に、Ground Based Interceptor(GBI)/Ground Midcourse Defense(GMD)と呼ばれる米本土防衛用の迎撃システムを配備してきた。2017年5月30日にはICBMを想定した迎撃実験に成功している他、同年11月には44基目のGBIの配備が完了している。

 

この他、ネブラスカ州オマハの戦略軍司令部など、一部の重要拠点には高高度終末防衛システム(THAAD)も配備されているが、マッハ20を超える極超音速で落下してくるICBMをターミナルフェイズ(大気圏内)で迎撃するのは難しいため、事実上GBIによるミッドコース(宇宙空間)での迎撃が米本土防衛の要となる。

 

GBIは80%以上の迎撃成功実績を誇るSM-3を使用するイージスBMDに比べ成功率が低く、昨年5月の成功を含めてもこれまでの迎撃実績は56%に留まっている。とはいえ、5000kmを越える最大射程と1800km近い迎撃高度を有するとされるGBIは、単発のICBMに対して最長交戦距離からであれば最大4回の交戦が可能だ。つまり、単純計算で11基のICBMには対処できることになる。

 

マティス国防長官やセルヴァ大将らが述べているように、現時点では、北朝鮮のICBM能力は米本土を確実に攻撃するには至らっておらず、その意味で「ゲーム・チェンジャー」にはなり得ていない。したがって当面の注目点は、北朝鮮が確実なICBM用RVの再突入技術を確立させるかという点と、米本土のBMDを確実に突破しうる数の弾頭・ミサイルを揃えられるかという点であろう。

 

もっとも、米国は北朝鮮のICBM脅威が質・量両面で高まることを見越して、本土防衛能力の強化に乗り出しつつある。例えば、米議会ではFY2018の国防授権法をめぐる審議プロセスの中でGBIの追加配備を推奨したり、11月にはホワイトハウスがミサイル防衛関連予算として40億ドルを追加計上するよう要求していた。こうした傾向は2月12日に発表されたFY2019の予算教書にも盛り込まれており、そこでもGBI20基を追加調達するよう要求している。この他にも、ミサイル防衛局は、1基の迎撃ミサイルから複数の迎撃体を放出して、飽和攻撃やデコイ対処を行う多目標迎撃体(MOKV)の開発を進める予定である。【次ページにつづく】

 

 

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