格闘ゲーム大会で活躍するプロゲーマーたちに密着した世界初のドキュメンタリー映画「リビング ザ ゲーム」が、2018年3月3日より東京・渋谷のイメージフォーラムを皮切りに公開される。

この公開タイミングは、絶妙だ。

1月には世界最大級の格闘ゲーム大会の日本版「EVO Japan」の開催、2月には「日本eスポーツ連合(JeSU)」の発足、同団体による「闘会議2018」での初のプロライセンス認定大会の実施と、今年に入ってから国内での大きな展開が相次ぎ、プロゲーマーとeスポーツをめぐる話題が、目下のゲームシーンをめぐる最大のホットトピックになっているからだ。

ビデオゲームで競うことが、スポーツと呼べるのか?

ゲームの腕前で食っていくプロゲーマーという職業は、是か非か?

eスポーツの普及のために、プロライセンスや賞金制度は本当に必要なのか?

にわかに増加した報道を受けて、そのような議論がゲーム業界内外のメディアで、今さまざまな立場の人々の思惑の違いや深度のばらつきを孕みながら交わされている。

しかし、その最も中心にあるべきアスリートたるプロゲーマーたちの闘いの実態と素顔を、ゲームコミュニティ外の人々が目の当たりにできる機会は、ほぼ皆無に近い。 ゲームにいまだネガティブなイメージの根強い世間一般に向けては言わずもがな、おそらくは欧米や韓国でのeスポーツマーケットの巨大化に倣おうとビジネス的な思惑で注目を寄せる近隣業界の人々でさえ、そうだろう。

プロゲーマーたちの人間性を炙り出す強烈なストーリーテリング

「リビング ザ ゲーム」は、そのような理解の非対称に一石を投じ、ゲームとスポーツをめぐる認識を前に進める出発点にもなりうる、貴重な作品だ。 本作の特徴は、ゲームへの興味の有無に関わらず、プロゲーマーたちが織りなす人間ドラマへと観る者を否応なく惹きつけていく、徹底して映画的なケレン味に満ちたストーリーテリングの力にある。

映画の“主人公”として位置づけられているのが、プロプレイヤーとしても知られており、格闘ゲーム界の世界的なカリスマ・梅原大吾を乗り越えようと奮闘する、気鋭のチャレンジャー・ももち。1/60フレームの反応を競う「ストリートファイター」シリーズのトッププレイヤーではあるものの、撮影当初の2014年末の時点ではホテルマンの仕事との兼業だった彼が、恋人のチョコブランカとともにさまざまな生活上の不安や葛藤を乗り越えながら、ストイックに日々の訓練に身を捧げる。

梅原大吾
梅原大吾
ももち
ももち

そしてアメリカで繰り広げられる世界大会の大舞台で、ウメハラらライバルを制して優勝を目指すという「ロッキー」じみた図式が、物語の主軸をなしている。 これに絡めて、彼らが対戦するフランスのルフィやアメリカのジャスティン・ウォン、台湾のゲーマービーといった海外のライバル選手たちの横顔が随時織り込まれていくというのが、本作の基本的な構成だ。

ハレの祝祭感あふれる大会での真剣勝負の場で、2人の日本人選手の前に立ちはだかる“敵キャラ”としての異国のアスリートたちの登場が描かれた後に、彼らの各国での日常の暮らしぶりや文化背景、それに立脚したゲームに賭ける人生観が掘り下げられていく語り口は、さながら「はじめの一歩」や「バキ」のような格闘・スポーツ系少年マンガの様式に近い。

 

そのようなマンガじみた世界が確かに“現実”の記録として繰り広げられているという認知の倒錯が、観る者を奇妙な酩酊感へと引きずり込んでいくのである。

そして最高峰の大会である「EVO」が繰り広げられるラスベガスのギラギラした夜景と、喧噪に満ちた会場で観衆がスター選手たちをコールする、どぎついまでのハリウッド映画的なスペクタクルは圧巻だ。

その過剰な絵面には、たとえば「eスポーツ」のような健全さを指向する言葉のニュアンスには容易に納まりきりそうもない、この世界の猥雑さゆえの魅力が、きわめて濃密に凝縮されている。

「リビング ザ ゲーム」が投げかける、eスポーツシーンへの問題提起

 

翻ってみれば、こうした様々なキャラクター性や各国のエスニシティが過剰にディフォルメされた世界観は、彼らが没入していった「ストリートファイター」というゲームシリーズのコンセプトそのものだ。

ゲーム世界の虚構の中で具象的に描かれた「俺より強いやつに会いに行く」のストーリーテリングが、世界中のストリートの遊戯場に集ったゲーマーたちを感化していくかたちで、多額の賞金が飛び交う現実のシーンが築かれてきた。

つまり、ルールに基づく競技であるのと同等かそれ以上に、フィクションの力に動機づけられた模擬であることによって、最も古くからある格闘ゲームの競技大会シーンは成立している。

そのように形成されてきたシーンの現実の妙を、巧みな映画文法を駆使してスクリーンのフィクショナルな力学の中に再度差し戻すことによって、改めて逆照射してみせること。

それこそが、「リビング ザ ゲーム」という映画の真骨頂だと言えるだろう。

そう、これからのプロゲームやeスポーツの担い手たちが、どんなシーンを望むにせよ、それを本当に大きな潮流に育てていくためには、ゲーマーたちのコミュニティを動機づける強いストーリーテリングの力が不可欠だ。

 

そして奇しくも、映画が描いた2015年末までの展開の延長線上に、JeSUが掲げたプロライセンス認定制度に対しても、“主人公”2人はそれぞれに対照的なスタンスを採っている。

 

すなわち、制度に真っ向から疑義の声明を発したももちと、あえて制度に乗ることで状況を望ましい方向に導こうとする梅原と。

いちゲーマーとしてのみならず、いまや国内コミュニティの立場を二分するシンボルとして立っている彼らは、どのようなシーンを作り出していくのか。

現在進行形の現実のストーリーを読み解き、望むならば自分たちが未来のゲーム競技のシーンを導くための原点としても、「リビング ザ ゲーム」は必見のプロローグである。

【公開情報】リビング ザ ゲーム

公式サイト:http://www.living-the-game.com

3月3日(土)より、シアター・イメージフォーラムにてロードショー ほか全国順次公開
ⓒWOWOW/Tokyo Video Center/CNEX Studio

上映劇場シアター・イメージフォーラムにて、監督および出演プロゲーマーらのトークイベントも下記日程にて開催!

  • 3月3日(土)21:00 の回・上映後 【登壇者】合津貴雄 監督/梅原大吾
  • 3月4日(日)21:00 の回・上映後 【登壇者】合津貴雄 監督/ももち
  • 3月9日(金)21:00 の回・上映後 【登壇者】合津貴雄 監督/チョコブランカ
  • 3月10日(土)21:00 の回・上映後 【登壇者】合津貴雄 監督/松江哲明 監督

※内容はすべて予定です。登壇者及び内容は、予告なしに変更する場合がございます。