第24回福島県「県民健康検査」検討委員会で清水一雄委員(左)の発言を聞く、険しい表情の星北斗座長。写真はすべて、福島県福島市。2016年9月14日
第24回福島県「県民健康検査」検討委員会で清水一雄委員(左)の発言を聞く、険しい表情の星北斗座長。写真はすべて、福島県福島市。2016年9月14日 Photo by OSHIDORI Ken

必要なのはさらなる検証、その県民の要望は無視?

原発事故後に始まった小児甲状腺検査を縮小する? うそー!? というわけで、9月14日の第24回福島県「県民健康調査」検討委員会に取材に行ってきました。

委員会の最後に、星北斗座長は、小児甲状腺検査縮小の議題を持ちだしてきたけど、検討委員会の委員の方々で、はっきりとご自分の意見をおっしゃった方々は、ことごとく反対しておられました。

その中で印象的だった3人の委員の意見を紹介します。

◆清水修二委員(福島大学人文社会学群経済経営学類特任教授)
小児甲状腺がんに関して、被曝の影響とは考えにくいという評価をしたが、それは一巡目の評価まで。二巡目の検査の評価はまだ何も出ていない。この二巡目の評価を甲状腺検査評価部会でするまで、甲状腺検査縮小の議論をするのは妥当ではない。

◆清水一雄委員(日本医科大学名誉教授、金地病院名誉院長)
チェルノブイリ原発事故後の小児甲状腺がんのデータを見ると、10年後まで増えている。今はまだ5年半なので、これからしっかりと検査を続けていかなくてはいけない。

私は甲状腺検査評価部会の部会長もやっていて、その時には「放射線の影響は考えにくい」という報告をしたが、今はもう少し「放射線の影響ではないか」という懸念がある。放射線の影響も考慮に入れながら、今後いろんな検証を進めていくべき。

◆成井香苗委員(福島県臨床心理士会会員、前東日本大震災対策プロジェクト代表)
小児甲状腺がんを、10年、15年の規模で調査していき、「原発事故の影響があった」もしくは「なかった」と、どちらかの結果が出るだろう。私はどちらの結果になっても、県民にとって、被曝した子どもたちにとって、良い結果だと思う。
「被曝の影響がなかった」という結果が出れば、甲状腺がんを患った子どもたちは、結婚でも出産でも安心してできる。
「被曝の影響があった」という結果が出れば、チェルノブイリ事故のようにきちんと認めてもらって、対応・対策を国に保障してもらう。

どちらにせよはっきりさせてあげることが、子どもにとって重要。しかし、甲状腺がんと判定された場合の心理的なケアはもっと必要。

検討委員会も県民の声も「甲状腺検査は続けるべき」、もしくは「拡大すべき」という声ばかりでした。
検討委員会も県民の声も「甲状腺検査は続けるべき」、もしくは「拡大すべき」という声ばかりでした。Wire art by OSHIDORI Ken

どのご意見も、もっともだと思います。そして、この日の委員会で初めて「『県民の声』とりまとめ」という資料が出ました。集まった福島県の方々の意見を、福島県庁がまとめたものです。2011年からこの委員会を取材しているけど、このような資料が出たのは初めて。

私はこの「『県民の声』とりまとめ」こそ、もっと取り上げられるべきだと思いました。これは県庁や福島県立医科大への電話・メール、甲状腺検査出張説明会・出前授業、避難者交流会・相談会に寄せられた意見や要望です。単なる不安だけでなく、的確な意見がほとんど。

・ 事故後に生まれた子どもの甲状腺検査もしてほしい。
・ 大人にも甲状腺検査を推奨すべき。
・ 成人後も2年おきに検査をしてほしい。
・ 関東も放射性物質が飛んでいるのだから、他の地域も検査をするべき。
・ 白血病・白内障など他の症状についても検査をするべき。
・ 個人ごとの行動記録は異なるのに、代表性の線量評価では無謀ではないか(11年3月11日〜7月11日までの4か月の行動記録から外部被曝線量の評価を出す「基本調査」がおこなわれたが、県民からの回答率はわずか27パーセント程だったことから、県民の線量分布を正しく反映しているのか疑問がもたれている)。
・ 外部被曝線量の推計期間が、4か月間だけでは不十分ではないか。
・ 避難区域の人はすぐに避難して、そこまで被曝していない。福島にとど まっていた人の方が被曝しているのに、検診等の機会が避難区域の人よりも少ないのはおかしい。
・ 放射線の影響が「ある」と「ない」の両方の意見を聞きたい。
・ 「放射線の影響がある」と主張している専門家を検討委員会に呼び、公開で議論してほしい。
・ 「放射線の影響は考えにくい」ではなく、分からないとすべきではないか。
・ 初期被曝のちゃんとした測定もせず、チェルノブイリとの比較や、(福島県内での被曝の)地域差がないこと だけで「放射線の影響が考えにくい」と書くのは恣意的。見直してもらいたい。

委員会後に星座長(左)にぶら下がり取材をするマコさん。 Photo by OSHIDORI Ken
委員会後に星座長(左)にぶら下がり取材をするマコさん。 Photo by OSHIDORI Ken

このような意見が他にもたくさん出ているのです! 「検査を縮小してほしい」なんていう意見、一つもないよ!もっときちんと検証してという意見ばかり。

甲状腺がんの手術をした患者の家族会の方々も要望書・意見書を出しました。それとともに、数人の患者さん本人(10代)の意見や、数人の保護者の意見も出ました。全て、「きちんと検査を続けてほしい、もっと検査を拡大してほしい」というご意見です。

あのさー、検査を縮小すべきと主張する人たちが根拠にしている「甲状腺検査が、福島の方々の不利益になるから、ストレスになるから」という意見は、いったい誰のものなの? 福島県での小児甲状腺検査に関わっている勤務医の方とゴハンを食べた時、こうおっしゃっていました。

「甲状腺検査でストレスが増える、というのは、僕に言わせれば、それは医者が悪いんだよね。A2判定(注)ののう胞でも、不安に思って心の病気になる方もいるから負担になる、という話が出ているけれど、それは医者の説明不足なんだよ。『A2判定ののう胞は問題ない』ときっちり説明すればいいだけで。そして治療が必要なものは、検査で見つかった方が良いんだし」

あ、そうか! つまり、「ストレスが増えるから検査をやめる」という話は、歯科検診をするとちょっとした虫歯が見つかっても、「ヤバイ! 総入れ歯になるかも!」と不安に思う人がいるから、「歯科検診はやめます!」と言うようなもの? でも、歯科医師が検査で虫歯を見つけてきちんと説明すれば、治療ができるし、早期発見の方がいいですもんね!
また、甲状腺検査縮小の根拠として、ストレスが増えること以外にも、過剰診断が挙げられています。しかし、甲状腺検査の責任者である福島県立医科大の鈴木眞一先生は、かつて検討委員会で「腺内転移やリンパ節転移は画像で見て極めてよく分かりますので、分かる範囲で、過剰な予防切除はしておりません」と過剰診断を否定する趣旨の発言をしていたこともあったので、過剰診断を根拠に甲状腺検査縮小をするのも疑問です。

検討委員会後の会見で、星座長は「僕は『甲状腺検査縮小』とは言っていない。『縮小を含めた今後の議論を』と言ったのに、勝手にメディアが書いた」とご説明。そうなの??

しかしですね、記者会見終了後に、帰りを急ぐ星座長をつかまえてぶら下がり取材をしていると、それを書いたと言われた地元メディアの方が来られ、「うちが悪いんですか? でも星先生ははっきりと『縮小』っておっしゃっていましたよ」と詰め寄っているところもバッチリ押さえました☆ 全国ニュースになるのはほんの一部だけれど、実際の委員会ではこんなにいろんなことがありました。これは本当に重要なことだからもっと取り上げられるべきだよね!