ゲームに出てくるCGのイカとタコが幕張メッセでライブ

スプラトゥーン2の図

スプラトゥーン2が発売されてから、初めてのライブということになります

正直に話すと、ガイドはゲーム音楽のコンサートなどに詳しい人間ではありません。そういう意味で、この記事はそういったコンサートに足しげく通う方々に向けた記事ではありません。そんな中、2018年2月10日、11日に幕張メッセで開催された「闘会議2018」において、スプラトゥーン2に登場するイカとタコの2人組アイドルユニット「テンタクルズ」のライブを観覧する機会に恵まれました。

このスプラトゥーンシリーズのライブについて、知識としてはずいぶん前から知ってはいましたし、動画でも観たことはありました、また、それが大変に評価が高いことも良く分かっていました。しかし、事前に知っていたにも関わらず、会場に足を運んで得た体験に衝撃を感じました。

ボーカロイドの初音ミクなどもずいぶん前から実際に観客を入れたコンサートをしていますから、ゲームに詳しいユーザー、それこそスプラトゥーンが好きなユーザーからすればいまさらかもしれません。「ゲームに登場するイカとタコのCGが幕張メッセでライブを開いている」と知らない人が聞いたら意味が分からないレベルの話です。

しかし、そのコンサートを観て、あまりの素晴らしさに涙を流す人も少なくありません。そしてガイドは、このハイカライブを体験して「これは泣いてしまう」と思いました。ガイドのように、知識としては知ってはいるけど、ゲーム音楽というものに何が起きているのか、実際に体感したことが無い人の方が多いと思いますので、お話しておきたいと思います。

本物のバンドをバックに、CGが歌う

スプラトゥーンの図

スプラトゥーンはイカがインクで床を塗りあうシューティングゲームです

そもそも、CGがコンサートをするというのはどういうことなのか、と思う人がいるかもしれません。スプラトゥーンシリーズは、イカがインクを撃ち合って、ステージ上を自分のチームのインクの色により広く染めれば勝つ、という一風変わったオンライン対戦主体のシューティングゲームです。初代スプラトゥーンには「シオカラーズ」という2人組イカ、ゲーム内の言葉でいえば人間の姿とイカの姿の両方を持つ「インクリング」のアイドルユニットがゲームに登場しました。

このアイドルユニットがゲーム内の「フェス」というイベントでライブをしています。これを実際にやってしまおうというのことで、2016年1月30日、闘会議2016において「シオカライブ2016」という、シオカラーズのライブを開催しました。

それが大好評を博し、闘会議2018では、2017年7月21日に発売した最新作スプラトゥーン2でシオカラーズに代わって登場するアイドルユニット「テンタクルズ」が「ハイカライブ」を開きました。ちなみに、テンタクルズは1人はインクリングですが、もう1人はタコ、ゲーム内の言葉でいうところの「オクタリアン」だったりします。なので、イカとタコのライブなのです。

闘会議2018では「ゲーム音楽ステージ」が設置され、テンタクルズ以外にも、オーケストラやDJなど、CGでもなく、イカでもタコでもない、人間のアーティストがパフォーマンスを繰り広げます。

そんな中で、テンタクルズが登場する「ハイカライブ」では、ステージに透過スクリーンというものが設置されます。半透明のスクリーンのようなもので、後ろが透けて見える中、CGのキャラクターが浮かび上がると、まるで本当にそこにいるかのような視覚効果が得られます。

これは、動画で見るものよりも、現地で実際に目で見た方が圧倒的に実在感が強く、おそらく知識がない人がちょっと遠目で観れば、そこにCGが実在しているという不思議な体験に驚くことでしょう。何しろ、後ろには人間のバンドがきちんといて、その演奏の前でCGのキャラクターが歌って踊っているのです。

圧倒的クオリティが空間を制圧する

ニンテンドースイッチの図

テンタクルズはニンテンドースイッチのスプラトゥーン2で登場した新しいアイドルユニットです。今回のライブでその魅力に気がついたという人も多そうです

しかし、テンタクルズの2人をそこに実在させているのは、透過スクリーンという仕掛けだけのせいではありません。より重要に感じるのはそのクオリティです。バンドの演奏、照明などのステージ演出、そしてもちろん歌、さらにテンタクルズの振り付け。これらの呼吸が、ぴったりとあってこそ、本当にそこに2人がいるかのように感じられます。

さらに、振り付けも素晴らしいものがあります。ラップ担当で小柄なヒメの自信たっぷり、天真爛漫に会場を煽っていくスタイル、ヒメを「先輩」と呼び、敬語で控えめのDJ担当のイイダはショルダーキーボードを途中で取り出して演奏するなど多彩さを見せつつ、時折ドキッとする妖艶な美しさを見せる。2人のキャラクターの魅力的なパフォーマンスは、やはり、単なるCGの映像を観ているだけではない、ライブ感とでもいうようなものを出すことに成功し、観客を魅了します。

圧倒的完成度、圧倒的パフォーマンスに裏打ちされ、そこに魅了されてしまった観客は、心からライブを楽しみます。その時、感覚的にはテンタクルズの2人はそこにいるという気持ちになります。ガイドもそうだったのですが、やはり初代のシオカラーズが好きだと思っていたけれど、ハイカライブを観たらテンタクルズも好きになり、ファンになったという人は少なくないんじゃないんでしょうか。

ですから、観客は彼女たちの一声一声に反応します……といっても彼女達は日本語を話せず、イカ語をしゃべるので字幕を読むわけですが。それでも、最後の曲だと言って「ええ~っ」と声がもれる様は、まさにライブのそれと同じものでした。

ゲームに内包された物語

スプラトゥーンの図

ゲームと現実の境界があいまいになる、そんな演出でした

テンタクルズの2人が舞台を去ると、次に登場したのはサプライズゲストのシオカラーズでした。サプライズと言っても、ほとんどの人が予想できていた上での登場ではあるのですが……。それでも、大歓声につつまれます。

これはもちろん、初代スプラトゥーンのアイドルであるシオカラーズの人気によるところが大きいわけですが、もう1つ重要なことは、ライブに2人が戻ってきたことが、ゲームと地続きになっている、ということです。スプラトゥーン2では、テンタクルズがシオカラーズに代わるアイドルユニットとして登場し、シオカラーズはゲームの表舞台からは姿を消す。しかしながら、裏でとある事件に巻き込まれ、プレイヤーと協力してその事件を解決する。

そして、事件を解決した2人がライブに帰ってきているわけです。長くなりますし、ゲームのネタバレにもなりますから詳細は避けますが、プレイした人が観れば、そこかしこにゲームの物語と繋がっている演出が観られ、観客の多くはゲームの体験とライブの体験がそこで重なり、ゲームと現実の境界が極めてあいまいになった物語の中で胸に熱いものがこみあげます。

記憶が曖昧になるアオリに対して「今度いなくなったら、ほっといちゃうよ」といったホタルのセリフに「ほんとだよ!」と心の中で突っ込みをいれるプレイヤーもたくさんいたことでしょう。ゲームの体験とライブ体験が重なりあうこの演出は、ゲームのキャラクターがやるライブだからこそ、と言えるかもしれません。

全員が1つになれる

ハイカライブの図

4人が一緒に登場するだけでも大盛り上がりなのに、さらにイマ・ヌラネバー!でヒートアップ!(イラスト 橋本モチチ)

シオカラーズはその代表曲である濃口シオカラ節を歌い、会場はこれ以上ないくらい最高に盛り上がります。盛り上がったと思っていました。しかし、そうではなかったのです。その後さらに、さらにさらに盛り上がることになります。

最後の曲は、4人で歌うと言って、シオカラーズはテンタクルズの2人を招き入れます。この時点で観客はもう大喜びなのですが、観客も一緒に歌おうといい、自分達に続いて観客も歌うように促します。「♪ラ~ ラ~ララ~ラ~ラ~」観客の誰もがすぐに歌える聞いたことのあるフレーズです。そしてこの時点で「あっこの曲は……」と気がついた人も少なくないでしょう。

少し練習をして、前奏が始まると、観客たちが一気にヒートアップします。それは、この曲を知っているからではなく、この曲の意味を知っているからでもなく、それはもう条件反射と言っていいぐらい勝手に、自動的に、前奏が入った時点で燃え上がるのです。なぜならその曲は、「イマ・ヌラネバー!」といい、スプラトゥーンにおいて、試合のラスト30秒に決まってかかる曲だからです。そう「今、塗らねば!」なのです。

この曲がひとたび流れれば、決して敵にやられてはいけないし、1人でも敵を倒せれば勝利に直結し、とっておきのスペシャルウェポンを放ち、そして最後の最後まで塗れるだけ塗りまくる、そういうことを会場にいる観客たちは、誇張なく何千回と繰り返しているのです。

ですから、頭で考えるよりも心が、心が感じるよりも体が先に、この曲で燃え上がるのです。これはもう止めろという方が無理なのです。前奏がかかった時点で、もはや観客も人間ではなくイカなのです。

この時ガイドは、ゲーム音楽の持つ圧倒的パワーを感じました。その場にいるほぼ全員が、何千、下手すれば何万という単位で、その30秒を繰り返し繰り返し体験し、それぞれにピンチとチャンスと逆転のありとあらゆる物語をもっていて、そしてその全てをこの音楽が想起させているのです。

テンタクルズという新しいアイドルの魅力、表舞台から姿を消したシオカラーズの物語、そしてそれぞれが持つ自分たちの体験、それらが音楽によって紡がれていくのですから、観客たちにとってこのライブが特別なものであることは言うまでもないでしょう。

ゲームの音楽は、映像が蘇るという意味で映画に近いものだとガイドは考えていましたが、ハイカライブを通して、考えを改める必要があると感じました。映画音楽的な側面もありますが、一方で、数十万数百万という人達が、同じ時期に、同じシチュエーションで、それぞれ違う1回ずつの体験を数千回以上も繰り返し、そこに音楽が一緒にあることで、音楽から体験が引き出されて共感していく。その力に圧倒されました。

オンラインゲームが発達して、夜に1人でも気軽に対戦ができるようになったことや、ハイカライブのようにゲームと現実の境界を曖昧にする演出が出てきたことで、そういったゲームの力が分かりやすく顕在化しているかもしれません。ゲームをする楽しみがまた1つ増えたように思いますし、ゲームをやっていてよかったなと思えます。

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