離島の奪還を主任務とする「水陸機動団」が今月末、長崎県佐世保市の陸上自衛隊相浦駐屯地に誕生する。「殴り込み部隊」といわれる米海兵隊の自衛隊版だ。本来なら2018年度末、つまり来年3月に新編される予定だったが、中国の軍事力強化に対抗し、1年前倒して発足する。
ただ、予定した3個連隊ではなく、当面2個連隊にとどまることや、機動性が売りにもかかわらず、海上輸送力の決定的な不足など最初から波瀾含み。そのつまずき方は、当初の予定通り1年後に発足したとしても追いつかないほど深刻である。
「水陸機動団の新編は、わが国の厳しい安全保障環境、とりわけ南西防衛について喫緊の課題と思っている。離島の防衛を主体とする部隊の新編により、わが国の主として島しょ防衛に対する実効性ある抑止、また対処能力が向上するものと思う」
山崎幸二陸上幕僚長は2月22日の会見で胸を張って、こう述べた。
これまでの陸上自衛隊による島しょ防衛は、情勢が緊迫した時点で部隊を離島に事前展開し、抑止力を高めて侵攻を未然防止する作戦だった。それでも敵に占領されることはあるわけで、取り戻すとなれば、全国に散らばった部隊を動員するほかなかった。
水陸機動団は陸上自衛隊に欠落していた奪還機能を持ち、敵前上陸する専門部隊である。世界の海兵隊の中で最強といわれる米海兵隊をお手本に、装備品も垂直離着陸輸送機「オスプレイ」、水陸両用車「AAV7」とまるごと米海兵隊を真似ている。
ところが、「いざ出陣!」となる場面で大きな問題が浮上する。米海兵隊が「移動の足」として使う強襲揚陸艦が自衛隊には1隻もないのだ。
例えば、沖縄の米海兵隊を輸送するため、長崎県の米海軍佐世保基地には強襲揚陸艦1隻とドック型揚陸艦3隻が配備されている。
佐世保に配備された強襲揚陸艦「ワスプ」の場合、ハリアーやF35Bといった垂直離着陸攻撃機、オスプレイ、各種ヘリコプターなどを搭載するほか、艦内に戦車、水陸両用車とそれらを陸揚げするエアクッション揚力艇(LCAC)を積み込み、さらに海兵隊員約1900人を一度に輸送することができる。
つまり、空母と輸送艦の機能を合わせ持つのが強襲揚陸艦なのである。そんな強襲揚陸艦を持たない自衛隊が水陸機動団の海上輸送にチャレンジするとすれば、どうなるのか。
陸上自衛隊の作戦担当幹部は「海上自衛隊の『おおすみ』型輸送艦で戦車や水陸両用車を運び、航空管制機能を持った『ひゅうが』『いずも』といった護衛艦でオスプレイやヘリコプターを輸送するほかない」という。
米海兵隊なら1隻で足りる艦艇を2隻動員する必要が出てくるというのだ。ただし、単純に2隻あれば、何とかなるという話ではない。水陸機動団は訓練用を含めてAAV7を52両保有することになる。
海上自衛隊の「おおすみ」型輸送艦で運べるAAV7は1隻あたり16両に過ぎず、海自が保有する「おおすみ」型3隻をフル動員しても購入する52両は運びきれない。またAAV7を満載すれば、戦車や装甲車を上陸させるためのLCAC2隻を積み込めず、上陸する際の戦力は決定的に不足する。
さらに「おおすみ」型輸送艦は艦内ドックの改修なしにはAAV7を積み込めない構造のため、2014年度防衛費から毎年度改修費が計上されている。18年度予算案にも計上されおり、改修は終わっていない。「上陸の足」となるAAV7さえ満足に積めない状態なのに水陸機動団は発足してしまうのだ。
山崎陸幕長は会見で「水陸機動のための輸送、また上陸についてはまだまだこれから整備していかなくてはいけないという認識は持っている」と現状の不備を率直に認めている。