大学により満席表示・空席表示に差が
就活と言えば、学歴フィルター・大学名差別が常に話題になっています。
今年も似たような話があるだろうな、と思ったら、案の定、出てきました。
細かい事情は酒井さんの記事にある通りなので、そちらに譲ります。
ざっとまとめると、帝京大学の女子学生が高橋書店(出版・手帳)、大学名不明(本人の書き込みによればFランクに近い大学)の女子学生がフリュー(プリントシール機)に、それぞれ学歴フィルターに引っ掛かった、とのこと。
具体的には、説明会を予約しようとしたところ、満席表示で予約ができず。
ところが偏差値が高い他大学に変えたところ、空席表示が出た、とのこと。
大学名不明の就活生女子(問題は解決しました)さんの場合、同じ大学でも女子学生は満席表示で男子学生は空席表示でした。
酒井さんの記事にもある通り、学歴フィルターという機能が就職ナビサイトのサービスとして存在するわけではありません。
セミナーエントリー受付機能の中に「特定学生を対象とした非公開日程の設定が可能になる」という仕組みがあり、これを学生の属性によって表示させたりさせなかったりする事ができるようになっているのだ。
これが回りまわって、学歴フィルター・大学名フィルターなどと呼ばれている次第。
もちろん、就職情報会社が大学等で就活セミナーを受け持つときは、こういう話など一切しません。そのため、学生を鼓舞するためとは言え「学歴フィルターなどない」と言い張る中堅私大にとっても都合がいい、となります。私など普段から「学歴フィルターなどないわけがないじゃないですか」と言っているため、一部の中堅私大からすれば都合が悪いことこの上ないそうで。「あんなの取材はまあいいとしても講演などは絶対に呼ばない」「取材も含めてきてほしくない」と言われているとかいないとか。
企業側の理屈は「人がいない」「基準が大学偏差値」「ある程度は選びたい」
という個人談はおくとして、採用側がなぜ学歴フィルターを使うのか、ご説明します。
採用側の理屈としては「採用担当者が少ないので多人数の学生に対応できない」「大学の偏差値くらいしか、足切りの基準がない」「ある程度は選びたい」の3点です。
前者は、学生が想像する以上に採用担当者は少数です。
8年ほど前のこと、とある大手メーカーの採用担当者と話した時のことです。同社はマーチ・関関同立以上しか見ないと断言していました。
当時、このメーカーは私が話をした方以外に採用担当者は2人。それも1人は課長という役職者。採用業務以外に人事全般も統括するため、実質は2人しかいません。
その2人で膨大なエントリーシートを見ていくわけです。物理的に処理不可能な量が届くため、大学の偏差値で斬り捨てている、と話してくれました。
※後述しますが、2018年現在はこの理由と処理方法はやや時代遅れです
2点目は「基準が大学偏差値」。これは、学生が就職ナビサイトに登録した学生の基本情報で、唯一、優劣が判断可能な指標です。企業からすれば膨大なエントリーシートや説明会申し込みを処理する際、目安としやすいのです。
3点目は「ある程度、選びたい」。企業からすれば経験則から、どのあたりの偏差値帯の学生が内定に至るかどうか、データを持っています。
仮に、大学名不問で説明会を受け付けた場合、採用したいと考えている大学(または大学群)からは説明会参加者が減る可能性が高くなります。そこで、大学の偏差値帯によって差をつける、という次第。
企業のホンネは「女子が嫌ではないが、男子も採用したい」
大学名不明の就活生女子(問題は解決しました)さんは性差別にも言及されています。これについても企業側の理屈をご説明します。
今回、名前が出たのは書籍・手帳の高橋書店、それとプリントシール機などを展開するフリュー。高橋書店は出版ないし文具業界、フリューはおもちゃ・アミューズメント業界。どちらも、女子学生から人気の業界に属する企業、という点が注目です。
総合職採用で女子学生からの人気が集中する業界としては、他に食品、アパレル、化粧品、航空、ホテルなどがあります。
こうした業界が女性社員を不要としているか、と言えばそんなことはありません。
2015年ごろから政府方針もあり、総合職では女子学生も採用するように変化しています。
それと高橋書店・フリューともに、2017年度の採用では男子より女子が上。
高橋書店
2015年 9名(男6 女3)
2016年 8名(男6 女2)
2017年 9名(男3 女6)
フリュー
2015年24名(男11 女13)
2016年16名(男8 女8)
2017年16名(男6 女10)
※両社ともマイナビ2019・採用データから引用
女子学生から人気の業界に属する企業は、女子学生を採用したくないわけではありません。自社にとって欲しい人材であればいくらでも採用したいのです。
ただし、企業側のホンネとしては「女子も欲しいが男子も欲しい」。
私も過去に、女子学生から人気の企業が集まったイベントに関わったことがあります。参加者のうち8割が女子学生。そのため、企業からすれば「もう少し男子学生に接触したかった」との意見が多数でした。
推測ではありますが、フリューも女子学生からの説明会予約が殺到したのでしょう。そこで、女子学生の申し込みにフィルターを掛け、男子学生に対しては空席表示を出したもの、と思われます。
フリューと同じ女子学生から人気の企業であれば、女子学生の申し込みに対してフィルターを掛けている可能性はきわめて高いです。
このフィルタリングが男女雇用機会均等法に違反したものかどうか、と聞かれれば確かに違反です。
大学名不明の就活生女子(問題は解決しました)さんのTwitterにも、雇用機会均等室に確認されたとのこと。
ただ、法令違反とは言え、私はこの法令が実勢を反映していないもの、と言わざるを得ません。フィルタリングを受けた学生にも同情しますし、同じようにフリューの採用担当者にも同情します。
男女別の説明会・セミナーの実施や男女別の定員傾斜などを認めれば、当然ながら悪用してくる企業が出てきます。
ただ、女子学生に人気のある業界に属する企業だと、女子学生の応募が殺到しすぎて男子学生の応募がごく少数となってしまいます。
では男女それぞれバランスよく採用したい場合、どうすればいでしょうか。
1:男女問わず無制限で会社説明会参加を受け付ける
2:ナビサイトのフィルタリングを使い、バランスを取る
3:他の方法でバランスを取る
1だとどう考えても手間がかかります。費用対効果を無視して説明会を開催していくのはどう考えても非現実的です。
となると2か3の手法を企業は選択することになります。
フリューの場合、2を選択。
マイナビ2019の企業情報によると、従業員数は408人(男性209、女性199)。この規模だと採用担当者は人事や総務など他の業務も兼任しながらで1人か、数人いれば多い方です。そのため、フィルタリングについて特に深く考えず、前例踏襲でやってしまった、という可能性があります。
大学名・性別のフィルタリング、抜け道は色々
ナビサイトのフィルタリングだと、大学名であれ、性別であれ、学生が捨てアカウントで試すとバレる、というリスクがあります。
付言しますと、私も数年前まで毎年のように捨てアカウントでナビサイトに登録。私の出身校(東洋大学)だと全く情報が来なかった大手企業が早稲田大学(捨てアカウント/石渡の父の出身校)だと、大手企業からどんどん情報が来ました。とある鉄鋼メーカーからは「楽しい鉄の作り方」(仮名)が送られてきたのもいい思い出です。
さて、ナビサイトのフィルタリングも判明しやすい欠点があります。
では企業側はどうするか、と言えば3の抜け道ルートを選びます。
一番無難、かつ、男女雇用機会均等法にも引っ掛からないのは、説明会参加ではなく、筆記試験(適性検査)を課す方法です。
適性検査のうち、能力検査の非言語分野(数学)は得点に差が出やすい特徴があります。ここで得点できない学生をばっさり落としたうえでエントリーシート提出や会社説明会というステップに進めます。この方法だと、能力試験により公平に落とした、と主張することが可能です。
適性検査の非言語分野は、文系学生の場合、偏差値が下がれば下がるほど得点できない学生が増えていきます。そのため、結果的には国公立・難関私大優遇にもなります。
会社説明会は大規模に開催しておく、という手法も大企業だと可能です。とりあえず、会社説明会で大学名・性別によるフィルタリングは掛けません。その代わり、会社説明会後の書類選考・筆記試験でばっさり落とす、という手法です。
他にも方法は色々あります。
・指定した大学の学生にのみDMを発送。そこから説明会参加を受け付ける
・企業独自の採用ページを設定。そこで説明会予約なども管理
・リクルーター制を取って、特定の大学の学生のみに接触
・特定の大学のみが対象の就活イベントに参加
・逆求人型サイトの利用
大手企業や採用に長けた企業はこうした手法のいずれか、または複数を取っています。それで大学名差別・性差別の汚名からは避けられるので安い買い物、と言えなくもありません。
学歴フィルターは合理的ではない
ただ、大学名による選別が今の企業にとって合理的か、と言えばそんなことはありません。
実際に、売り手市場の現在では大学名によって差をつけることは合理的ではなくなってきています。
そもそも、戦後の新卒採用において、大学名差別は時期により変化しています。売り手市場であれば大学名差別が緩まり、氷河期であれば大学名差別が強くなるのが通例です。
さらに、現在は企業側も多様な人材を採用する必要性に気づいています。
大学受験を頑張った、それで難関大に入った、それは学生の優秀さを示す物差しではあります。ただ、それが絶対条件ではなくなりつつあります。
大学受験では失敗した(あるいは大学の偏差値が難関大よりも落ちる)としても、在学中に成長する学生はいます。学生を大きく成長させる大学もあります。
採用に熱心な企業とその採用担当者はそうした事実に気づいています。
そのため、あえて中堅私大から採用する企業もありますし、結果的に学生の出身校が難関大から中堅私大までバラエティに富む企業もあります。
学生はどうすれば良かったか
冒頭で「学歴フィルター(大学名差別)はあるに決まっているじゃないですか」と書きました。
それで一部の中堅私大では講演等お断りされているのですが、どうも「学歴フィルター(大学名差別)はある」イコール「中堅以下の私大生は大企業・人気企業への就職をあきらめろ」と誤解されたようです。もしかしたら読者の方もそうお感じになったかもしれません。
学歴フィルター(大学名差別)の存在から、大企業・人気企業への就職を断念するかどうかは学生次第です。
ただ、そうした理不尽など社会に出ればいくらでもあります。
そのうえでどう乗り越えるか、そちらの方が大切なはずです。
では学歴フィルター(大学名差別)を受けた、と感じた学生はどうすればいいでしょうか。
実は学歴フィルターで会社説明会を予約できなかったとしても、逆転方法はあります。
・他のサイトを見る
・直接電話をかける
・直接会場に行く
1点目「他社サイト」ですが、結果的に学生が高い頻度で使うのはリクナビ・マイナビです。キャリタスナビ、あさがくナビ、ブンナビなどはあまり使いません。
そのため、リクナビ・マイナビが満席になっていても、他社サイトは空席になっている、ということはあります。企業側もナビの特性によって、人数を振り分けるということをします。
2点目ですが、実はこれ、相当古典的な手法です。何しろ、私が就活記事・本を書くようになった15年も前からあります。おそらくはもっと以前からあったのでしょう。
私以外にも、大半の大学キャリアセンター職員やキャリアカウンセラーはこの手法を把握、学生に勧めています。ダメもとで電話をかけて説明会参加を依頼。そこから内定に至った例はいくらでもあります。
説明会参加だけなら、私に相談してきた学生、それからキャリアセンター職員の経験談などを合わせると勝率はざっと7割程度。
特にここ数年、学生からすれば電話を直接掛ける、という行為自体、ハードルが上がっています。うまく行くかどうかわからない、そんな中で電話を掛けられると就活に大きな差が出てきます。
3点目はさらにハードルが上がります。電話を掛けてもダメなら、当日、会場に直接行く。で、予約が出来なかったがどうしても参加させてほしい、と頭を下げるのです。企業からすれば、ドタキャンなどで空席があるわけですし、電話を掛けてきて断っても来るのであれば、さすがに帰れ、とは言い難いものがあります。
仮に、どうしても無理、ということであれば、その企業にはご縁がなかった、とあきらめるしかありません。
ちなみに、これでも大手商社をあきらめられなかったある学生は、別の大学内説明会に狙いを付けました。そこなら少人数だろう、と踏んだのです。学生の狙い通り、参加者は少数で空席も多数。そこで、電話を掛けてもダメ、説明会当日の会場でもダメ、と断った採用担当者に三たびアタック。採用担当者もさすがに根負けして入場を認めたそうです。
この学生、この大手商社には選考途中で落ちたものの「あきらめずに行動したので納得感があります。それに採用担当者からは『うちとはご縁がなかったけど、君の行動力は必ず社会で役に立つ』と激励のメールを貰いました」
とのこと。
なお、三たび、四たびアタックして内定まで行った、という話はキャリアカウンセラーから聞いたことがあります。
敵か味方か逆求人型サイト
今のところ、学生にとって味方となるのが逆求人型サイトです。
通常の就職ナビサイトと異なり、流れが逆なので逆求人型サイトと呼ばれます。
学生は通常の就職ナビサイトよりも細かく学生情報を登録。おおよそ1000字から2000字程度の自己PRやガクチカ(学生時代に力を入れたこと)を登録します。
企業側は学生の基本情報(大学・学部など)に加えて自己PR・ガクチカなどを閲覧することが出来ます。そのうえで気になった学生に説明会情報や選考のオファーを出す、というものです。
最大手はアイデムが運営するjobrass(ジョブラス)、次がiplugが運営するoffer box。他、小規模なものも含めれば相当数あります。
学生からすれば登録が手間(通常の就職ナビサイトが10分程度で済むとしてもこちらは数時間から半日以上)。
ただ、企業からすれば大学名以外にも判断できる材料が増えます。そのうえで選考オファーを出すのでミスマッチが起こりにくい、と企業からは評判です。
学生も、難関大生だけでなく中堅私大・地方大の学生が思ってもいなかった企業からオファーが来て内定まで至った例が多数。そのため、企業・学生とも利用者が増えています。
この逆求人型サイトを使っている企業であれば、大学名だけでなく他の部分も含めてみている、と言えるでしょう。
ただし、この逆求人型サイト、オファーを出すかどうかは企業次第。
つまり、逆求人型サイトをネガティブに解釈すれば、大学名差別・性差別の隠れ蓑、として利用することも可能です。
今のところ、私が企業を取材している限りではそうした隠れ蓑に使っている企業は多くありません。
が、今回の炎上騒動で、今後は隠れ蓑としての利用を考える学生が出てきてもおかしくはありません。
大学受験での差、1ポイント負けは認めるべき
今回の炎上騒動、1人が帝京大学、もう1人が「Fランクに近い大学」と明らかにしたことで、Twitterなどでは案の定の反応がありました。
すなわち、
大学名(大学のレベル)によるフィルターは仕方がないのでは? いくら学歴だけが全てではないといっても、より努力して結果を出してきた人が評価されやすいのは当然なわけだし。
仕方ないだろう、企業だって優秀な学生を採用したいのだし
などの反応です。
私は大学の学部時点での偏差値が学生の優秀さ全てを示すもの、とは考えません。しかし、難関大に入った、その努力はやはり認めないわけにはいきません。
高校以前の学習能力・受験勉強の努力(含む推薦・AO入試)という点において、中堅私大ないし中堅以下の私大や地方大生は、1ポイント負け、というのは認めるべきでしょう。
ただし、負けを認める、というのは、負けを認めて勝負も捨てろ、ということではありません。高校以前の学習や受験勉強という点においては偏差値という結果が出た、ただそれだけです。
偏差値によって差がある、ということはそれで人生が全て決まるわけではありません。
もちろん、偏差値が低かった、だからもう人生おしまいだ、といじけていたいのであれば止めはしません。勝手にいじけていればいいだけです。
いじけたままなのか、負けは認めたうえで就活ないし社会人生活では逆転を目指すのか、すべては学生次第です。
逆転できた西日本の某私大生、理由は日経購読
実際、中堅私大・地方大にいながら就活で難関大生に逆転できるのは、変にいじけていない学生です。いじけず、そのうえで、就活の行動量を増やす学生、これは強いです。
とある西日本の私大生(この学生も女子でした)は、大手運輸企業を志望。最終面接まで進みました。最終面接まで進んだのは、彼女以外はみな難関大生。1人、知名度の低い大学名を話す女子学生を他の難関大生はみな「なんで聞いたことない私大生が紛れ込んでいる?」と上から目線でした。
ところが、最終選考で、その社の役員が、
「わが社が地方創生を事業として展開するにあたってできることはなにか」
と、口頭試問。今でこそ、地方創生は有名ですが当時は政治面に少し出る程度で、一般知名度は低いものがありました。
難関大生が絶句して回答できない中、彼女1人はすらすらと答えることができたのです。理由は簡単で日本経済新聞を2年程度、読んでいたからです。
この女子学生は大手運輸企業2社(両方とも総合職)から内定を得ました。
企業側はどうすれば良かったか・今後は
一方、高橋書店・フリュー側がどうすれば良かったでしょうか。
採用担当者ないし部署の責任、と企業幹部は考えるかもしれません。が、企業規模を考えれば採用担当者の人数は少なく、部署の規模と言うのはそれほど大きくないはず。
採用担当者ないし部署の責任に帰すのは酷というものでしょう。
本来なら、消費者に接するビジネスでもありますし、大学名差別・性差別と批判されないような手法を検討すべきでした。
今後は採用担当者数の大幅な増員…は無理でしょう。としても、せめて他社の事例を学ぶなどの余裕を企業全体で持つ方がいいのではないでしょうか。
再び・学生へ~
中堅ないしそれ以下の私大、あるいは地方大だと、どうしても大学名で損しないか、考えてしまう学生が多数です。
今回の炎上騒動も過敏さの表れでしょう。
もっとも、損するかどうかを気にするよりは、得をするために行動量を増やす方が先です。
社会に出れば、大学名差別どころではない理不尽さに出くわすこともあります。ある部分までは法律なり社会規範なりが解決してくれます。
しかし、最後に解決するのは本人です。
就活は、社会に出る第一歩。
行動量を増やして、より良い就活にしてください。