あの時、流血する羽生に寄り添い、肩を抱きかかえていた初老の人物を、覚えている人も多いだろう。個人トレーナーで整体師の菊地晃氏だ。
羽生にとって菊地氏は「精神安定剤」とも言われ、喘息の治療にも関わってきたとされるが、菊地氏は気功術のようなものを使うため、一部週刊誌で「怪しげな人物」と取り上げられたこともある。
「かつて横綱・貴乃花がそうだったように、スポーツ選手は整体師や占い師に心酔しやすい。菊地氏は『チャクラの仙人』などと呼ばれ、ファンの間でも胡散臭いと思われているようですが、羽生本人はもちろん、羽生の両親からも絶大な信頼を得ています」(前出のスポーツライター)
仙台市内にある菊地氏の接骨院を訪ねると、取材は拒否されたが、施術を受けながら少し話を聞くことができた。
「僕が羽生君の精神的な支えになっている? そんなことはありません。僕はただの整体師です。むしろ羽生君に感謝していますよ。未知の世界に連れて行ってもらえたわけだから。
本人も立派ですが、やはりご両親が立派な方です。いちばん立派なのは、感謝の気持ちを忘れないこと。金メダルを取れば、本人も親も天狗になってもおかしくありません。ただ羽生家の場合は、かれこれ10年以上の付き合いになりますが、出会った頃と何も変わらない。
感謝の姿勢は、ご両親が羽生君に言葉で教えたわけではないと思います。両親の背中を見て、自然と身についたのでしょう」
周囲が菊地氏のことをどう言おうが、信頼関係は揺るがない。自分たちの目と感覚を信じて、今もリンクサイドに立ってもらう。それもまた、羽生家のブレない姿勢である。
様々な試練を経て、現在の羽生結弦がある。決して驕らず、でも信念は譲らない。そんな羽生をつくったのは、決して表舞台に出てくることのない、この両親の教えだったことは間違いない。
「週刊現代」2015年1月31日号より