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ホロコーストという悪い冗談

  • unu***** さん
  • 2013年11月10日 22時44分
  • 閲覧数 1608
  • 役立ち度 6
    • 総合評価
    • ★★★★★

 フランケンシュタイン博士が人間の身体をパーツとして「ゾンボット」を作ることが、ナチスが行ったホロコーストと、その際に流布され信じられてきた「人間石鹸」というプロパガンタのメタファーであると定義することは可能だろう。ソビエト軍のプロパガンタ映像であるという設定とそれに帯同しているのがポーランド人であることなどからもそれは伺える。特にユダヤ人である高官が、一人仲間から見捨てられ、博士の工場をさまよう中、武器人間の材料である人間の死体が吊されている広場へと誘われていくシーンの、その場所の美術は明らかにユダヤ人が虐殺されたガス室を彷彿とさせるものとなっている。収容所にいたというフランケンシュタイン博士は、ドイツが人間を溶かし石鹸を作ったというような、人体を物体としてとらえ、死をもたらす現代の悪夢の、ブラックな暗喩なのだろう。

 そう考えたときに不思議だったのが、そのフランケンシュタイン博士が、ナチスとも、また資本主義とも切り離されて描かれていた点だ。ナチスの「人間石鹸」という都市伝説は、むしろ人と物品をイコールで結んでしまうという点において、資本主義の、あの人間性を否定する恐怖が反映されたものであるように思える。そして、その恐怖を描いたのが、かのトビー・フーパーのデビュー作『悪魔のいけにえ』であったといわれている。人体を消耗品として扱い、その個性を否定していく。その暴力の公使者であり、生産者である者たちも、何かにせき立てられるかのように目的を遂行する、狂った機械のような存在だ。地獄の機械としか呼べない巨大なシステムとそれにせきたれる狂人、そしてそれらに肉塊=物体と化される人間という構図をトビー・フーパーは繰り返し描いていき、それらが資本主義であったということが、『マングラー』でほぼ直喩されることになるのだ。

しかし、『武器人間』が明らかにトビー・フーパー的な何かを感じさせる作品である一方で、その狂気の科学者は資本主義を口から否定してしまっているのである。まるで、自分の科学技術は、そういった思想とは無縁だと言わんばかりに。

 フランケンシュタイン博士とその手下たる武器人間は、敵味方関係なく人を肉塊にかえ、繋ぎ合わせて「ゾンボット」へとかえていく。その際、人の脳みそは捨てていることが長回しの中で描写されている。それこそ、人を考えるのをやめて徘徊する労働者に作り替えているといえるのだが、その後、捕まえたナチスの高官とポーランド人のソビエトの兵士の脳を半分づつ取り出し、足してみたらどうなるか、という実験を行うことになり、それがこの映画のクライマックスになっている。

 それはグロテクスを通り越して笑うしかないシーンなのだが、このシーンがあざ笑っているのは、人が持ち、信じている思想であるという点でタチが悪い。ほとんど、戦時中のすべての思想を口で否定してみせ、それを物品化したものとして脳を提示してしまうこの映画は、ホロコーストは人間の論理では計れない巨大なおぞましい何かによって引き起こされたということを示しているのではないだろうか。それは科学技術かもしれないし、もっと不可解な災厄かもしれない。

 しかしながら、そういった狂気の使者たるフランケンシュタインも自身の脳を自慢した直後に、頭というパーツにされてしまうことになる。ここに製作者の脳=人間の知への嘲笑が読みとれるが、それでもゾンボットは動き続け、カメラは回り続けていく。この「ゾンビ+ロボット」という出来損ないのモンスター達が、まさしく現代が抱えている人間性の否定の様を描いているように見えて、その無意味さに自分はぞっとしてしまったのだ。

 そして、そのカメラと撮られた映像をコントロールしようとしたのが、この映画ではソビエト政府、共産主義という思想の権化なのである。この映画は、ソビエト連邦のプロパガンタ映画という体裁になっており、それ故に「検閲」をかけていると思われるシーンがある。それは序盤の集落のシーンと中盤のプロペラヘッドと子どものシーンという、どれもソビエト兵士の民間人に対する振る舞いについての場面であり、このシーンでは、彼らが民間人にどのような残虐な行いをしているかはすべてカットされている。

 しかし、ソビエトの意図とは別にその検閲を受けたであろう画面と、カメラが堂々と展開される博士の狂気の実験とは対になっている。そして、その対比でこの映画が示しているものは、人間は血袋に過ぎない動物であるという、どうしようもない性悪説なのではないだろうか。

 『武器人間』は、第二次世界大戦以降の現代の悪夢の寓話である。イラストを提供した伊藤潤二の作品にもつながっているといえ、その悪趣味さと細かい稚雑さに目を瞑って見る価値のある作品ではないかと。

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