1日1個の気づき
伊藤ガビン(以下、伊藤) そういうところから始まって、今はどういう感じで「観察」しているんですか?
菅俊一(以下、菅) 今は「毎日1個は気づこうかな」くらいの気持ちでやってます。
伊藤 ちょっとすごいこと言いましたね。「1日1個気づこうかな」って思って気づいてる人、あんまりいないと思います。
菅 一応生きているので、前に進んでおきたい気持ちがあるんです。昨日よりマシになって、生きている甲斐があるようにしたい。自分へのプレッシャーじゃないですけど、タスクとして新しいアイデアを思いつくとか、面白い気づきを得よう、ということをしています。
伊藤 やっぱり、武井壮がテレビ出演の後にホテルからまたちょっと走りに行く、みたいな感じなんですかね。
菅 無理してやってるわけじゃないですよ。義務化はしてますけど、歩けば気づくというか。
伊藤 「歩けば気づく」……すごい境地ですね。だけど、菅さんのこの本を読んでから、「ちょっと俺も気づいとこうかな」と思って歩くと、いろいろ気づくんですよね。気づこうと思って歩くと気づくものなんだなあ、と気づきました。
でもそうやってずっと気づき続けていると、「この気づき知ってる」みたいな、同じパターンを見つけることもありますか?
菅 その場合は、パターンが増えていいと思っています。この本でも「痕跡から推測する」とか「世界の中から構造を発見する」というふうに章に分けていますが、集めるときはどういう概念なのか、構造なのか、意識はしないです。とにかくまず集める。今回は8つに分類していますが、他の分け方もあるかもしれないですね。データベースが集まって、その精度が高まるのは全然アリだと思います。
伊藤 「いつでも気づいてる」人って、ちょっと怖い感じしますけど。
菅 人と話すときにもわかります。「この人はきっとこういう考えを持っていて、こういう癖があるからきっとこのポーズで聞いてるんだろう」ということは、気づくけど言わなかったり。
伊藤 気づいたことはどうやって記録しているんですか?
菅 スマートフォンで写真を撮ったり、メモ帳に書いたり。メモ帳には殴り書きで雑然と。とにかく記録をしていくことが重要なので。
伊藤 菅さんには、文房具オタクの側面はありますか?
菅 ありますよ(笑)。ただ普段はコクヨの、コンビニでも買える安いノートをポケットに突っ込んで、ペンは何でもいいのでボールペンを適当に使っています。
伊藤 どういう内容のメモを取るんですか?
菅 例えば、ある病院の自動精算機で言われる「お大事に」っていう声と、出張で泊まったホテルのチェックアウトの自動精算機の声が同じ人だったんです。これはメーカーが一緒なのかもしれないなとだとすると、もし、そのメーカーの自動精算機のシェアがかなり高いのであれば、日本で一番声を聞かれている人って、機械にビルドインされた声なんだろうな、とか思ったりしてます。
伊藤 そういうことをメモってるのやばいっすね。
菅 基本的には、どうでもいいことなんですよ。
この前、金沢でおでんを食べたんですが、からしをつけたときに「これはもしかして舌に触らなかったら全然辛くないのかも?」と思って試したらやっぱり辛くなかった。やっぱり舌に触れないと意味ないんだな、とか。お寿司の醤油とかもそうですが、効率よく舌に触れるようにすれば、だいぶ少量でもいけるんだろうなって思ったりとか。
伊藤 ああー! そういうことって、僕もすごい考えてました。子供の頃、ジュースってこれ表面だけ味がついていればいいんじゃないか、とか。でもメモはとってないな。
菅 そういったくだらないことでも、一応書いておくと、それが何かのヒントになるかもしれない。今はわからないので、未来に向けて書いてる感じですね。
伊藤 それ聞いてラッパーのリリック帳を連想しました。僕は今年「ラップ・ミュージアム」(市原湖畔美術館で2017年8〜9月に開催された企画展)にちょっと関わったんですが、そこでいろいろな人のリリック帳を見せてもらったんです。すごく面白いんですよ。常にそれを考えてる人がメモっていることって、誰のものでも面白いですね。あとメモをとるってって作業自体はすごく地道な作業じゃないですか。ラッパーという存在感とは全然違う。
菅 小さい字でびっしり書きますからね。
伊藤 クリエイティブ関係の仕事って派手に見られがちだけど、やってることはメモをとるとかそういう地味なことの積み重ねだったりしますよね。そのメモが、菅さんの場合は、ライム(韻)じゃなくて「気づく」という方向に行ったと。
菅 ライムに行ってたら、ちょっと違ってたんでしょうけどね。書きなぐったメモは毎日考え直して、整理して1日1個書いています。
伊藤 すごいね。イチローだねやっぱり。素振りの回数がすごい。
菅 それをずっとやってるので、1年で300とか400とか気づきます。それを10年やったら3000ぐらい気づいていく。溜まっていくこれらの気づきは貯金ですね。
技術は鍛えることができる
伊藤 菅さんは大学の先生をされてるじゃないですか。その気づきは、「技術」だという答えなんですか? 誰でもそういうことができるという。
菅 基本的には、新しいアイデアを思いつくということもすべて、人間の脳でなされていることなので、技術的なものだと思っています。脳も身体の一部ですから、どう使うかという話だけなんですよね。技術は鍛えることができる。かつ、やればやるほど上手くなる。野球をずっとやっていれば、プロにはなれなくても、ボールをちゃんと投げられるようになる。あるいは、一流の演奏家にはなれなくても、練習すればとりあえず楽譜を見て楽しく弾けるくらいにはなれる。そのレベルでも、アイデアを出したり、気づいたりできると、だいぶ世の中楽に生きていける。楽しく生きられるんじゃないかと思うんですよね。
伊藤 そこはあまり「技術」だと思われていないところありますよね。
菅 才能とか、天から降ってくるものだとか思われていますが、すべてのアイデアは基本的に、理詰めというかロジックで出しています。
伊藤 僕もロジックですね。僕も大学では基本的に技術しか教えないんです。アイデアって、出し方があるということも世の中的には思われていないですよね。”降ってくる”と思われている。でも実は、“降って来させ方”が技術としてある。それって「夢がない」と思われがちなところもあって。
菅 「夢がない」は言われますね。
伊藤 例えばデザインでいうと、ブルーノ・ムナーリが何かをデザインする時、例えばコーヒーカップをデザインする時に、全部の要素をパラメーターに分けて、1個ずつ変えていけばデザインできる、というようなことを言いますよね。でも、もっとパッションでやる人に、世間は夢を抱きがちじゃないですか。
菅 僕はむしろ、「技術でなんとかなる」方が、自分もそうなれるという意味ではとても夢のある話だなっていつも思ってるんですけど。
伊藤 よく言う「1万時間の法則」(1万時間を費やせばプロになれるという法則)ってありますよね。感性のものだと思われているバイオリニストとかサッカー選手とかそういうのも、練習する量と比例して才能が開花するみたいな話が、マルコム・グラッドウェルの『Outliers』(邦題:天才!成功する人々の法則)でも出てきます。菅さんは常にそういうことを言っていますよね。
菅 ただし、なかなかやる人はいないんですよ。そういうふうに、やればできることって世の中にたくさんある。不可能なことはないけど、実行する人がいない。やればいいのに、と思うんです。
伊藤 菅さん自身は、何もやらないやる気もない「超ダメ人間時代」ってないんですか?
菅 そういうときもありますけど、かなり強い自分への自己暗示的なものをかけている感じがありますね。「なんとしても面白いものを生み出さなければならない」とか、それが自分が生きている意義だ、ということを勝手に思い込んでる節があって。そこまで振り切るのは人には絶対勧めないですが(笑)。
伊藤 でも、「気づき」は本当にやりたくなりますね。
(3/3へ続く)
※本記事は、2017年12月7日(木)に本屋B&Bで行われた「菅俊一・伊藤ガビンの観察ナイト」の内容を一部採録したものです。
取材・構成:齋藤あきこ 編集:後藤知佳(NUMABOOKS)
菅俊一(すげ・しゅんいち)
表現研究者/映像作家 多摩美術大学美術学部統合デザイン学科専任講師 1980年東京都生まれ。人間の知覚能力に基づく新しい表現を研究・開発し、さまざまなメディアを用いて社会に提案することを活動の主軸としている。主な仕事に、NHKEテレ「2355/0655」ID映像、21_21 DESIGN SIGHT「単位展」コンセプトリサーチ、21_21 DESIGN SIGHT「アスリート展」展示ディレクター。著書に『差分』(共著・美術出版社、2009年)、『まなざし』(ボイジャー、2014年)、『行動経済学まんが ヘンテコノミクス』(共著・マガジンハウス、2017年)。主な受賞にD&AD Yellow Pencil など。http://syunichisuge.com
伊藤ガビン(いとう・がびん)
編集者 神奈川県生まれ。ウェブや本の編集の他、映像制作、展覧会プロデュースなど。女子美術大学短期大学部教授 マンバ通信編集長。http://magazine.manba.co.jp
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ただただ対象を見つめ、じっと観察してきたことの記録が、 どうしてこんなにも私たちの心を捉えて放さないのでしょうか?
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