レラティブ・ストレングス投資の検証(3)

半月ぶりの更新です。

できるだけ毎週更新したいと思っているのですが、先週は旅行に行ったり本業が忙しかったりで時間が取れず……

まあ、無理しない範囲で更新を続けていこうと思います。

これまでの検証について

レラティブ・ストレングス投資(以後、RS投資と表記)について、これまで2回に渡って検証をしてきました。詳しくはこちらこちらをご覧下さい。

趣旨としては、

  • RS投資戦略の有効性の確認
  • 同戦略のパフォーマンスを改善する方法があるかの調査

の2点です。

投資は自己責任で行うもの。いくら良い成績が出ていると言っても、自分で検証はしておきたいところです。

ここまでの検証では、

  • 移動平均に「指数平滑移動平均(EMA)」を使う
  • SELL/BUYシグナル判定にゴールデンクロス・デッドクロスなどのテクニカル分析の手法を導入する
  • 複数の判定基準にウェイトを設け、バックテストで良い結果が出るようなパラメータを計算する

という3つのアイデアにより、オリジナルのレラティブ・ストレングスよりも良いパフォーマンスを出せることが分かりました。

今回はその続き、おそらく現時点での決定版です。

まず、結論

今回の記事はかなり長いので、まずは結論から。

従来のRS投資と比べて、

平均1.5倍以上のリターン

を得る改良方法を見つけました。

しかも、単にリターンが高いだけでなく、より確実に評価額の低下を回避します(ドローダウンが小さい)。

一時的に評価額が低下しても、RS投資より短期間で低下前の評価額に回復します。

具体的な計算方法は下に記載していますが、ざっくりと説明すると、

  • SELL/BUYシグナル判定にEMAを使い、より細かな判定をする(基本的に前回の方法を踏襲するが、一部変更を加える)
  • 3-6-12ヶ月リターンの算出にもウェイトを導入して、より有効な加重平均を取る
  • REITクラスとそれ以外の資産クラスで、上記のウェイトを変えて調整する

といったことをしています。

バックテストの期間は2003年5月から2017年5月までです。対象とした指数・銘柄は前回までと同じ。

便宜的に、この投資方法をパラメタ化レラティブ・ストレングス(PRS)と名付けました。

ただし、入手できた指数データの関係で2007年4月以前は新興国債券と海外REITクラスが含まれていません。

また、評価額の計算では前回までと同じく、売却益から20%を所得税額として引いています。

具体的な計算方法

基本的な発想はこれまでと同じで、RS投資の要となる

  • SELL/BUYシグナル判定
  • 3-6-12ヶ月平均リターン順位

の計算にウェイトをつけて、最適な結果が得られるような値を過去の値動きから計算します。

具体的には以下のような式を使います。

SELL/BUYシグナル判定

a1 : 短期線(3ヶ月EMA)<直近月次リターンの場合 1、それ以外のとき 1
a2 : 中期線(6ヶ月EMA)<直近月次リターンの場合 1、それ以外のとき 1
a3 : 長期線(12ヶ月EMA)<直近月次リターンの場合 1、それ以外のとき 1
a4 : 長期線と中期線がゴールデンクロスしたら 1、デッドクロスしたら 1、それ以外は 0
a5 : 中期線と短期線がゴールデンクロスしたら 1、デッドクロスしたら 1、それ以外は 0
a6 : 長期線と短期線がゴールデンクロスしたら 1、デッドクロスしたら 1、それ以外は 0
wa1wa6a1a6 のウェイト(ただし、それぞれ 0wai1 となる実数とする)

Sc=6i=1waiai

Sc>0.3 のとき、BUYシグナル
Sc<0.3 のとき、SELLシグナル
それ以外の場合は前月のシグナルを踏襲(前月BUYならBUY、前月SELLならSELLのまま)

平均リターン順位

r1 : 月次リターンの3ヶ月単純移動平均
r2 : 月次リターンの6ヶ月単純移動平均
r3 : 月次リターンの12ヶ月単純移動平均
wr1wr3r1r3 のウェイト(ただし、それぞれ 0wri1 かつ wr1+wr2+wr3=1 となる実数とする)

Sr=3i=1wriri

Sr が高い順に順位をつけ、上位2クラスを投資対象とする

REITクラスは分けて計算

REITクラス(国内REIT、海外REIT)はそれぞれ別のウェイトを使って計算します。

1つには、REIT市場は株式・債権に比べて時価総額がかなり小さく、値動きが激しいこと。

そしてもう1つには、これまでの検証結果において従来のRS投資ではREITクラスの急激な値崩れによって損失を出しているケースが多かったためです。

REITクラスを保有しているときに大きく値下がりしているということは、本来SELLシグナルが点灯すべきときに点灯していない、ということを意味します。

REITには株式・債券とは別の判定基準が必要だと考え、ウェイト値を別に計算することにしました。

これにより、都合 (6+3)×2=18 個のパラメータを調整することでシグナル判定の最適化を目指します。

それにしても、パラメータが多い……

検証結果

表計算ソフトのソルバーで、運用成績を最大化するウェイトの組み合わせを求めました。

出力されたウェイト値は後で出すとして、まずはリターンを確認してみます。

冒頭のグラフの再掲です。

RSがオリジナルのレラティブ・ストレングス、PRSが今回検証した手法です。ベンチマークとして資産均等バイ&ホールド(B&H)の成績も載せました。

2003年5月に100万円を投資し、それぞれの手法で運用した場合の評価額の推移です。

2003年5月~2017年5月の14年間で、RS戦略では累積リターン304.5%(元本が約4倍)。対するPRSは累積リターン719.3%(元本が8倍超)となっています。

RS PRS B&H
年率リターン 9.96% 15.71% 6.60%
年率リスク 14.85% 14.63% 14.02%
最大ドローダウン 28.25% 20.32% 55.21%
シャープレシオ 0.67 1.07 0.47

こちらが年率のリターンとリスク、そしてドローダウンです。

年率リターンなどは期間のとり方によってけっこう変わりますが、PRSはなんと脅威の15%超え!

年率15%と言えば、5年で資金が2倍になります。

さすがにそんな好成績が今後も続くか分かりませんが、少なくともこの14年では平均してそのくらいの成績になるようです。

しかし、私が本当に注目したいのはリターンそのものではありません。

PRSによって改善したかったもの、それは「値下がりリスクの回避」です。

見やすくするため、各投資法での毎年のリターンをグラフにしました。

この通り、PRSはRSやB&Hより常に高い成績を上げているわけではありません(多くの年で勝ってはいますが)。

しかし、リターンが悪い年(2008年、2011年、2015年)の下落幅が特に小さくなっています。

つまり、他の投資法が良い成績のときにもそれらと同等以上のリターンを上げつつ、何年かに1度来る不況のときには大幅なマイナスリターンを回避しているのです。

大きく下がらずに、上がるときはちゃんと上がる。

相場が上げ下げを繰り返せば繰り返すほど、運用益の差は開いていくわけです。

計算結果に、汎用性はあるのか?

このような、バックテストで最適なパラメタを計算するようなやり方は「将来においてもそのパラメタが有効なのか?」が一番気になるところです。

要するに、特定の期間でだけ通用するようなパラメタになっていないか?ということです。

そこで、今回検証した14年間の中から7年間を切り出して、時期をずらしながら何パターンか検算をしてみました。

その結果、時期によって多少のズレがあったものの、最適なウェイト値は比較的近い値の組み合わせとなりました。

また、それらのウェイト値を使って改めて14年間のシミュレーションを行ってみましたが、やはりRS投資を平均で1.3~1.5倍アウトパフォームしていることが確認できました。

以上から、今回算出したウェイト値は時期を変えても一定の有効性がありそう、と判断しました。

これが、最適なウェイト値

以下がそのウェイト値です。

シグナル判定 REIT以外 REIT
短期線との比較 0.30 0.05
中期線との比較 0.15 0.03
長期線との比較 0.10 0.03
長期線/中期線クロス 0.20 0.10
中期線/短期線クロス 0.35 0.05
長期線/短期線クロス 0.05 0.20
平均リターン REIT以外 REIT
3ヶ月リターン 0.60 0.64
6ヶ月リターン 0.28 0.32
12ヶ月リターン 0.12 0.04

検証期間内でのリターンが変わらない範囲で値を丸めています(数値のキリがいいのはそのため)。

これを眺めてみると、従来のRS投資よりも短期での値動きを重視していることが分かります。

これだと「騙しのシグナル」も増えそうですが、それよりもトレンドを素早く捕捉することのほうが長期的には有効だ、ということなのでしょう。

ちなみに、RS投資では平均年4回、PRS投資では年5回程度の銘柄売却が発生していました。

売買頻度は、PRS投資のほうがやや高くなるようです。

ウェイト値をいつ更新するか?

各クラスの市場規模や各国の政治・経済状況の移り変わりによる値動きの変化は、長い期間の中では必ず起こってきます。

それらに応じて、このウェイト値も少しずつ修正するべきでしょうね。

あまり厳密な根拠はありませんが、大まかに考えて直近20年分くらいの指数からウェイト値を逆算しておけば、わりと最適値に近いものを維持できるのではと思います。

年に1回くらい、直近の指数をもとにウェイト値を再計算する、というのが現実的な落とし所でしょうか。

まとめ的なもの

ここまで読んでいただいた方、お疲れさまでした。

「レラティブ・ストレングス投資はトレンドを捉えて投資する」と言いつつも、自分で検証していくとけっこう値下がりしてしまっているケースが多いように感じていました。

今回の検証ではその点を改善でき、結果として想定以上のリターンも実現できて、私としては満足です。

これが実際の運用に耐えうるのかはまだなんとも言えません。

せめてあと一年くらいは追試が必要かな?と考えています。

この記事を読んで、PRS投資を実際に試してみるのは構いませんが、投資はくれぐれも自己責任でお願いします。

素人が考えた検証不足の手法で大損を出したとしても、私はなんの責任も取れませんので。

それと、この手法は計算がそれなりに複雑なので、自力でExcelの数式やスクリプト、プログラムが組めることが望ましいです。

それが難しい、という方は、この機会に勉強しましょう!

自分への投資は最もローリスク・ハイリターンですよ~。

ランキング参加中です~
にほんブログ村 株ブログ 投資信託へ

コメント

  1. とし より:

    大変興味深い検証ありがとうございます。
    私も昔レラティブストレングス投資を行い、結婚後は数年投資をしていなかったのですが、IDECOを始めるにあたって、再度レラティブストレングス投資を使用しようと思ったところ、貴ブログを発見しました。

    かなり複雑なため、できればあき様が作成されたExcelを見てみたいですが、難しいと思うので、ひきつづきブログを見ていきたいと思います。
    引き続きよろしくお願いします。

    • weather0531 より:

      >とし さん

      コメントありがとうございます。

      確かに、IDECOを使ってレラティブストレングス投資をされている方も多いですね。
      売買の頻度が高いこの投資法と相性が良いと考える方が多いようです。

      おっしゃる通り、PRS投資は計算がやや複雑です。
      一度計算シートを作ってしまえば月に1度更新するだけで済むのですが、なかなかそこまで用意するのが大変ですよね。
      シートを公開するのが良いのか、組み方を簡単にでも解説するのが良いのか、少し考えてみますね。

      あまり期待せずに(笑)お待ちいただければ幸いです!

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。
:)