リテラシー不足で102兆をタンスに溜め込む日本の残念ぶり
近年、タンス預金の増加が勢いを増しています。第一生命経済研究所によると、2016年末の現金残高は実に102.4兆円。特に2015年ごろからこの額が急激な伸びを見せていますが、時期を考えると2015年1月の相続税の強化、翌2016年1月のマイナンバー制度の開始が、こうしたタンス預金増加の背景にあったと考えられます。日本人は昔から欧米に比べ、投資より預貯金を好む傾向があるといわれてきましたが、それに拍車をかける形で、富裕層に警戒心をもたらす制度改革が次々と行われたといえそうです。また、未曾有の低金利で銀行に預けるメリットを感じられないことも、こうした状況の後押しになったのかもしれません。
しかし、低金利だから銀行に預けても仕方ない、だからタンス預金にしようと考えるのはナンセンスです。考えてもみてください。102.4兆円を国民一人あたりで計算すると81万円(=102.4兆円÷1.26億人)です。実際にそのように大きな金額を、家に現金で置いている人がそう多く居るとは思えません。ではなぜこのような金額になるかというと、一部の富裕層の間に巨額の現金が滞留しているといえそうです。
海外では、中国やインドなどでもキャッシュレス化が進み、高額紙幣の流通はなくなりつつあります。欧州では500ユーロ紙幣が廃止(2018年末発行停止)になりました。高額な現金保持はトレンドと逆行しているのですが、それでも、資産防衛と財政不安が日本のタンス預金を助長させているのかもしれません。
でも、一般のビジネスパーソンにとって、タンス預金は本来無縁のものなのです。なぜならタンス預金に未来はないからです。
タンス預金が意味するものとは
タンス預金に未来がない理由を説明する上で、知っておいてもらいたいのが、キャッシュ(現金)とキャッシュフロー(お金の流れ)という2つの考え方です。
1つめのキャッシュは、上記のタンス預金のように現金を保持しているだけ。1万円をタンス預金していれば、1万円のキャッシュがあるということで、現時点でそれは1万円の価値があるということです。
2つめのキャッシュフローは、考え方が違います。キャッシュフローの考え方は、「モノの価値はそれが生み出すお金の量によって決まる」というものです。
たとえば、月5万円の家賃のマンションには、年60万円のキャッシュフローがあるといえます。
キャッシュの1万円を置いておいても、殖えるということはありません。低金利で銀行に預けていても利息はほとんどつきません。現金や預金にキャッシュフローを生む力はないのです。それどころか、インフレが進めば1万円の価値すらなくなっていく可能性もあります。
こうして殖えることのないキャッシュをせっせと積み重ねても、老後の不安などを解消できるとはいいがたく、それよりは、今できる対策を今のうちに講じておくことが必要ではないでしょうか?
「節約術」だけでは備えが足りない理由
夫婦の給与などをベースに節約術を紹介する本などは古くから愛されていますが、節約自体はキャッシュの減少率を下げることにしかなりません。もちろん資産を守るという意味では、有効な手立てではありますがこれだけでは十分とはいえません。
将来的な年金不安や、世界経済における日本経済のGDP比率の減少などが予想される中、資産を守るためには、節約をするだけではなく収入を増やすことが重要になってきます。方法論として考えてみても、身を粉にして1万円分節約するための努力をするよりは、1万円を追加で稼げる力を身につけるほうが、健全といえるのではないでしょうか?
しかしそうはいっても、サラリーマンなどの多くの人にとっては、生涯収入を増やすことは、簡単ではないでしょう。そこで重要になってくるのがキャッシュフローの考え方を身につけることです。本当のお金持ちというのは、このキャッシュフローを生む資産を多く持っている人ということで、キャッシュをたくさん持っている人がお金持ちというわけではないのです。
同じ1000万円でも、1000万円の現金を持っている人と、誰かに月3万円で貸せる700万円の土地か建物を持っていて300万円の現金を持っている人では、同じ1000万円でも差が出てきます。
キャッシュフローは時間の経過で殖える
前述の1000万円の例で考えてみましょう。仮に1年経過したとすると、前者はキャッシュで1000万円のまま(インフレで下がる可能性もあります)で、後者はキャッシュで300万円に加え、700万円の資産と、そこから得られる年36万円で1036万円となります。
ここで注目すべきなのが、経過時間という概念です。グラフからもわかる通り、キャッシュフローには、時間が経過すればするほど殖えていくという特徴があります。つまり、どれだけ早く始めたかが、生涯のキャッシュフローの額に影響するということです。キャッシュフローを生む投資商品には短期で多くの利益が上がる商品もありますが、そうした商品は当然リスクも高いため、長期的な資産運用の選択肢としては考えにくく、それよりはローリスク・ロングリターンの投資を、早くから始めることを選ぶべきでしょう。
資産をつくるという視点で考えてみる
ここまで読めば、将来的に資産を殖やしていくには、単に貯金をしたり節約をしたりしているだけではダメだということはわかってきたはずです。ではいったい何をしていったら良いのでしょうか?
これまで資産家と呼ばれる人たちが資産を殖やしてきたものとして代表的なものは土地でしょう。土地をたくさん持っている人は、その土地を貸したり、担保としてお金を借りたりするなどしてキャッシュフローを生み出してきました。
しかし、誰もがこうしたキャッシュフローを生み出す土地を持っているわけではありません。多くのビジネスパーソンは、そういったものがないからこそ、労働をすることで賃金を手に入れているわけです。
しかし、最近では、土地を持っていなくても土地を含めて取得し、アパート経営に着手できるサービスなども生まれています。一人で土地を買うのは専門知識のないビジネスパーソンでは不安が多くある中、アパート経営の専門会社と組むことで土地持ちのアパート経営のオーナーになることができるようになっています。
ここで気をつけたいのは、アパート経営の会社の中には利回りの高さだけをウリにしているところもあるということ。目先の利回りだけを見てしまうのは、キャッシュフローの一面しか見ていないことになります。これについては、下記の記事にて詳しい解説があります。
大切なのはキャッシュとキャッシュフローのバランス
ここまでの解説で、キャッシュフローの大切さはお分かりいただけたかと思います。しかし、全ての資産をキャッシュフローに注ぎ込むのが得策とはいえません。キャッシュフローはキャッシュに比べて、一般的に流動性が高い側面もあります。堅実に資産を築いていきたいのであれば、富裕層の多くがそうするように、ローリスク・ロングリターンの投資によるキャッシュフローの獲得と、安定したキャッシュの保有により、確実性の高い資産運用をするのが望ましいといえます。
キャッシュフローが資産形成において重要な役割を果たすからこそ、目先の数字だけでなく、将来的にどれだけ長く、着実にキャッシュフローを生み出せるモノなのかどうかということも考えなくてはいけません。