あなたは、公の場でセックスについて語れますか?
きっと多くの人が「否」と答えるだろう。セックスは、しばし「いかがわしいもの」や「下品なもの」とする「風潮」がある。だから私たちは話すことを躊躇したり、逆にオープンな人のことを「みっともない」と認識してしまうような気がする。
私たちは、セックスによって生まれてきたのに。
「男女がセックスについてもっとフラットに議論できるようにする社会になった方がいいんじゃないの?」
こんな疑問をもった女性がシンディ・ギャロップだ。長らく広告業界で働いていた彼女だが、セックスの動画をシェアするプラットフォーム「MakeLoveNotPorn(以下MLNP)」を立ち上げた。かなりアグレッシブな取り組みだが、今年の1月、彼女は200万ドル(2億円)もの出資を受けている。
TechShop Tokyoで開催されたQUANTUMアカデミー特別講演に登壇した彼女は、こう語り始めた。
「このプロジェクトは意図しないきっかけで生まれたの」
それは「若い男の子とのデート」だった。
親とセックスの話はなぜできない?
「10年ほど前、私は20代の男の子と付き合っていたのですが、ベッド上で『えっ』と思うようなオーダーが多くて。でも『これはどこか見たことがあるな?』と思ったんです。そう、ポルノです」
彼女は、決してアダルトコンテンツを否定したいとは思っていないし、当時の恋人に怒りも覚えていない。ただ、ある問題を見つけた。
「ネットをはじめ、気軽にポルノ動画を鑑賞できるようになりました。でも私たちは、日常的に自分たちのリアルなセックスを語る場所を持っていません。このギャップによって誤解が生まれているのではないでしょうか?」
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彼女は、また問いかける。なぜ、セックスはタブー化され、公の場で話すことがはばかられてしまうのだろうか?
「セックスをするとき、往々にして私たちは裸になります。裸になると、物理的に弱くなった気持ちになるでしょう。そして各々が持つ性的なエゴを他人に打ち明けるのも、精神的な不安材料です」
セックスは肉体的にも精神的にも脆弱な状態を共有することから始まる。第三者から襲われる危険性があるわけではないにも関わらず。
では、何に対して怯えているのだろうか? それは、「セックスしている相手の気持ちを害すること」とシンディは言う。
1回のセックスで相手との関係性が壊れてしまったり、気持ちが萎えてしまうことがある。これが怖い。そのため、相手を喜ばせたい気持ちと、一方で自分も楽しみたい気持ちがせめぎあう。
例えば、こう思ったことはないだろうか?「こんなことをしたら、相手にどう思われてしまうのだろう」と。
「”いいセックスとは何か?”ということを説明できる人は、ほとんどいません。両親も学校も教えてくれません。その結果、教えてくれるのはアダルトコンテンツだけになるのです」
思い出して欲しい。私たちは「飲み会ネタ」以外で、親や恋人と、セックスについて語りあってきただろうか?
性的な行為を教えてくれるのは、AVをはじめとするエンターテインメントコンテンツが圧倒的に多いのではないだろうか?
「私たちは、いいセックスについて学ぶ必要がある。エンターテインメントではなく、たまに気まずくなったり、たまにうまくいかなかったり、それでも心が満たされるようなリアルなセックスを」
繰り返すが、シンディはポルノ動画を悪だと思っていない。ただ、私たちは「それ」しかセックスを学ぶ場所がないがゆえに「正しいセックスはこういう形」という先入観を持っているのかもしれない。それこそが、彼女の問題意識だ。
性器のサイズ、胸のサイズ。それぞれ「正解」なんてない
彼女が2010年に立ち上げたのが、普通の人たちのセックス動画のシェアサービス「MLNP」だ。
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プロのようにカメラの前でパフォーマンスするわけではなく、Twitterに「今日あったことを」をつぶやくように、Instagramのストーリーで「今日食べたもの」をあげるように、普通なこととしてシェアする。彼女はそれを「SOCIAL SEX」と名付けた。
「投稿主にはリアルなセックス動画(視聴は有料)をアップロードしてもらいます。キュレーターがすべての動画を目視で確認し、演技しているように見えるものは弾くようにしています。そして、投稿主には発生した収益の50%を支払います」
現在、2000件の投稿が寄せられているが、ランキングはない。「ランクをつけると、『これがセックスの正解なのか』を思ってしまうから」だ。
男性器や胸のサイズ。よく人は体の美醜について悩み、それがセックスにおいても大きく作用する。しかし、本来どんな身体も美しい。これが「MLNP」の主義だ。
「ポルノ動画はエンターテインメントですから、その道のプロによるすべてが美しい世界です。それが正解だと思うと、自分と比較して自虐的になりませんか? 普通のセックスを、オープンにシェアすることで、セックスの捉え方が変わることを願います」
「セックスは人と人が繋がるコミュニケーション。もっとフラットになることで、他者との関わり方までも、心地よくなっていくのではないでしょうか」
「性的なもの=タブー」という認識とインターネットのジレンマ
「MLNP」には、世界中で50万人の会員が集まり、2000件の投稿がある。売上は累計で100万ドル(1億円)に達した。
もちろん、順風満帆だったわけではない。例えば、「性的」なワードがつくだけで、大手プラットフォームは使えなかった。YouTubeはもちろん、決済に必要なPayPalも「性的なものは禁止」だった。
よく日本でも耳にする。性的なワードが掲げられていたが故にアカウントが停止されたり、検索対象から弾かれてしまったり。
そのため、シンディはゼロからシステムを作る必要があった。だからこそ、彼女が2億円の資金調達を受けたことは業界を騒然とさせた。
「もし、既存のサービスを普通に使えたら、今の2倍は収益があったでしょうね」と、シンディは笑う。ちなみに「MLNP」の常駐社員は2名。その1人であるシンディは無給でこのサービスを運営している。
彼女のもとには感謝の声が届く。例えば、夫婦で一緒に投稿動画を見ることで、セックスレスが解消された。こんな話が世界中から送られてくるそうだ。もしかすると、リアルなセックスを見ることで、凝り固まったイメージが崩れたのかもしれない。
セックスについてオープンになる件。まず女性から動くのは、どう?
SOCIAL SEXは#metooにも繋がるとシンディは考えている。
「#metooが偉大だったのは、セクハラについて『語る』選択肢を与えたことです。誰かが話さないと誰も話さない。そうすると社会は何も変わりません。多くのセクハラは、誤ったセックス観によってもたらされます。私たちは、学校で社会のマナーや礼儀正しさを教わりますが、ベッドの上の作法は教わりません。セックスのマナーが普及すれば、セクハラはなくなると思うのです」
こういう話をする時、しばし「男性が力で女性を傷つける」という構図が提示される。でも、女性の方だって誤ったセックス観を持っていることも多い。例えば、「いきなり隣に座っている女性から胸を押し付けられて怖かった」という男性の声も聞く。
私たちは、セックスについてフラットに話し合ってこなさすぎた。それがこういった体験を生むのだろう。
さて、「MLNP」の投稿は女性から男性に発案することが多いそうだ。シンディはそれを推奨したいと語る。「今まで女性が何を欲しているのか?を表明することはタブーとされてきました。私はここにメスを入れたい」
女性が、まず少しオープンになることで、男性も幸せになる。とりわけ日本ではチャンスがあると感じるそうだ。
「かつて私はアックス(AXE) の広告を担当していていました。甘い香りがする制汗剤で『女性にモテる』というコピーでグローバル展開していたのですが、日本だけは他の国とクリエイティブを変えました。恋愛の傾向を調査しているうちに、『日本の男性は恋愛に自信がない』ことがわかったからです」
社会背景や風潮など、さまざまな要因があるだろうが、彼女はこれを「語られないからこそ凝り固まる」と分析する。
「日本こそ、もしかするともっとオープンにセックスについて話し合う必要性があるのかもしれないですね」とシンディは言う。
彼女は「セックスに積極的になるべき」だとは思っていない。「開示する」ことが必要だと考えている。隠匿なものにされるから、誤解も生じる。もっとオープンに話し合えば、私たちはもっと自分のことが好きになり、誰かのことも好きになれるはずだ。
セックスは、美味しいご飯を食べて、キスをして、その先にあったりなかったりする。「ただ、それだけのこと」なのだから。
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