2019年卒業予定の学生の就職活動が1日から本格的に始まるが、今年は「ロボット面接官」が選考会場に登場するかもしれない。ロボット面接官は人工知能(AI)を搭載した採用支援ツールで、人間の代わりに学生を評価してくれる。AIは採用現場をどう変えるのか。
「質問を始めます。60秒以内に回答してください」。ヒト型ロボットが受験者にそう話しかけた。まるでSF映画の一場面のようだが、現実だ。
108問の耐久戦
ロボットはソフトバンクグループの「ペッパー」を活用。ペッパーと、学生の仕事への適性などを見極めるAIシステム「SHaiN(シャイン)」を組み合わせて使う。
シャインは採用支援のタレントアンドアセスメント(東京・港)が開発。昨年10月に、まずスマートフォン(スマホ)のアプリとしてサービスを開始し、これまでに大手食品メーカーなど12社が導入している。2月からはペッパーに組み込んで、文字通りロボット面接官として使えるようになった。
システムは米IBMのAI「ワトソン」など、複数のAIを組み合わせて構築している。アップルの音声認識技術「Siri」をインターフェースに活用することで、日本語の音声でやり取りが可能だ。
AIは学生に何を聞き、どう評価するのか。
今回シャインを取材した女性記者は、現在35歳。就活からすでに10年以上経過しているが、当時を思い出しながら、AI面接に挑戦した。
「ゼミや部活、アルバイトなどで目標を決めて取り組んだことはありますか」。そんな質問が来た。これは面接での定番の質問「ガクチカ」(学生時代に力を入れたこと)だな、と思いつつ「はい」と答えると、「どのような目標を立てたか」「目標を実行するためにどんな取り組みをしたか」と矢継ぎ早に突っ込まれた。答えるとさらに「実行するための取り組みをもう少し教えて下さい」などと質問される。
げんなりしたが、カメラとマイクで記録されているので露骨に嫌な顔もできない。面接が終わったのは1時間半後。質問数は108問にも及んだ。正直いって疲れた。
シャインのAIは、満足できる回答が得られなかった場合に、重ねて質問する。質問数は受験者ごとに異なり、少ない人は50~60問程度。平均180~200問なので、108問でも少ない方かもしれない。面接が2時間に及ぶ人もいるという。この徹底した質問攻めは、AI面接官ならではだろう。
シャインの評価ポイントは合計11。そのうち7つが、質問への回答を分析して得られる評価で、「バイタリティー」「柔軟性」など。学生の外見を観察して得られる「表現力」などもある。
分析の基になるのが、肝となる実際の就活の面接データだ。現在約3000人分。学生の回答をAIが面接データと照合し、そこから各評価ポイントについて採点をする。
タレントアンドアセスメントは14年に金融業界出身の山崎俊明社長(44)が設立。山崎社長は採用支援を手掛ける中で、「採用担当者は短期間で変わり、ノウハウが根付かない」ことが気になっていた。そのとき、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長がペッパーをプレゼンする姿をニュースで見て、「これだ!」とひらめいたという。
6枚びっしり
さて面接結果はリポートにまとめられる。記者もA4用紙6枚にわたって記されたリポートをもらった。評価項目ごとに面接で話した内容が正確に記してあった。これを人間の面接官がまとめていたら、かなりの時間と労力を要したはずだ。改めてAIの処理能力の高さに驚かされた。
シャインはこの1年間の間に、さまざまなAIを追加して精度に磨きをかけたという。最近では「話の要点をまとめるAI」も導入しており、これもリポート作成に生かされているようだ。
各評価項目は10点満点の得点でも示されるため、学生同士を比較することも容易にできそうだ。得点をもとに合否を決めるやり方も、その気になればあり得る。
ここまでくると、どんな回答をすればAIの評価が上がるのかが、気になるところだ。山崎社長は「あくまでも過去の面接データと照らし合わせてAIが判断する。どれが正解という明確なルールはない」とした。
AIの導入企業の多くは、初期選考の「ふるい」に利用しているようだ。企業の多くは1次選考などで、普段は採用に関わっていない社員に臨時の面接官をやらせている。それで公正な選考ができるのか。学生の間でも疑問の声は多かった。
帝京大学で2月に開いたシャインの体験会では、医療技術学部3年の風見修平さん(21)は慣れないAI面接に「人間の時よりも緊張した」と苦笑しながらも、「全員が客観的に評価されるAI面接は広がった方がいい」と評価していた。
AIを使った選考ツールでは、スタートアップのIGS(東京・渋谷)が、適性検査に使うAI分析システム「GROW」を提供している。
GROWはスマホ上で学生に一種のゲームをさせて、その際の「指の動き」で性格などを読み取るものだ。ゲームは、画面に登場する単語を親和性が高い別の単語に重ねるシンプルなもの。それを100回程度繰り返すことで、「協調性」などの特性を把握する。
選考時、学生に適性検査と呼ばれるテストを受けさせる企業は多い。IGSはそうした需要にGROWを活用してもらうことを狙う。通常の適性検査との違いは、GROWはスマホを操作する指の動きから、1千分の1秒レベルで「ためらい」「迷い」を検知できることだ。嘘をついて回答しても、見破ることができるという。全日本空輸(ANA)など大手企業が導入している。
IGSは10年設立。創業者の福原正大社長(48)はフランスに留学した際、「自己の認識と他者の評価の違いに気付いた」という。欧米は互いに評価し合う文化が根付いている。日本では「相手に気を使うあまり、他人の正確な評価が難しい」。そこでAIが評価を補正するようなシステムの開発を着想した。
一方、こうしたAIを使った選考については、導入に及び腰の企業関係者から「同じタイプの学生ばかりを選抜し、均質化につながるのではないか」といった懸念の声も出ている。AI選考がどこまで有効か、企業の多くも注目している。
(企業報道部 潟山美穂、桜井豪、小柳優太)