B:The Beginning:アニメで人間の裏側、よく分からないドキドキ描く 中澤一登監督に聞く

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アニメ「B:The Beginning」のビジュアル(C)Kazuto Nakazawa/Production I.G

 「キル・ビル」のアニメパートなどを手がけた中澤一登さんが監督を務め、「攻殻機動隊」シリーズなどのプロダクションI.Gが制作するオリジナルアニメ「B:The Beginning」が2日、Netflixで配信がスタートした。オリジナルアニメで、先の読めない展開、ダークな世界観などが魅力。「よく分からないけどドキドキする感覚を出せればと思っていた」と話す中澤監督に、作品に込めた思いや制作の裏側を聞いた。

 ◇モチーフは“黒”

 アニメは、ゲニ(天才)と呼ばれる伝説の捜査官のキース・風間・フリックが、凶悪犯罪者ばかりを狙う連続殺人鬼、通称「Killer B」を追う姿を描く。キースとバイオリン工房で職人として働く謎の少年・黒羽が、大きな陰謀にのみ込まれていくことになる。

 中澤監督は「サムライチャンプルー」「黒子のバスケ」など数々のアニメに参加してきたが「僕は絵描きなので、演出論、物語を作るセオリーを持っていない。知らないことも多い」と話す。本作では「絵描きとして、原画を描いたり、画面を作ることはできる。自分の経験、技術を組み合わせて何かイメージがあったら、そこに付随していくものを作っていく」と考え、制作に取り組んだという。

 本作はそもそも企画段階では「B:The Beginning」というタイトルだったわけではない。2016年に「パーフェクト・ボーンズ」というタイトルで発表されていたが、「タイトルを決めずに始まった企画。企画書の段階とストーリーが変わり、骨は関係ないのでは?となった」と、紆余(うよ)曲折があったようだ。

 企画当初から中澤監督が考えていたのが「最初から残したのは黒ですね。黒色をモチーフにする」ことだという。「僕は反物屋のせがれ。色の記憶を着物の色で覚えているんです。和装の黒色は、他に類を見ないくらい黒い。オヤジに『あの染色はどうしているんだ?』と聞いた。『染料に黒はない。いろいろな色を混ぜると黒になる。京都じゃないと出せない』という話だった。いろいろなものが混ざると黒になるという感覚が面白いと思った」と明かす。

 ◇人間の裏側が描きたかった

 中澤監督は「頭と終わりは決まっていた。根っこはシンプルな話」とも話す。しかし、ストーリーは決してシンプルなわけではない。「シンプルなものに複雑な着物を着せたら面白いかな?とも考えました。昨今、シンプルなものがもてはやされていて、人間関係がこねくり回されているアニメをあまり見たことがなかった。僕は学生時代、プログレッシブロックにハマったことがあったけど、正直よく分からないところもあった。ただ、心地良かったんですよ。シンプルで分かりやすいものはたくさんあるので、ちょっと違うものでもいいのかな?とも考えていたら、話が変わっていった。謎を解く話だったけど、人間の感情がそこに入ったら、不条理がたくさん出てきた。自分も、すごい不条理の中で生きている。すべて納得したり、合点がいく物語に違和感があった。よく分からないけどドキドキする感覚が出せればと思っていた」と語る。

 さらに「人間の裏側を描きたかったのかもしれない」と続ける。「人間は、いろいろなものを抱えて生きている。しゃべっていることが全てではない。人間は見た目通りではないんですよね。それをアニメで描いても面白いと思ったのかもしれません。12話を見終わった後、第1話のあるシーンがとてつもなく気持ち悪く見えるかもしれない」という思いがあったようだ。

 ◇日本のアニメもこういうことができる

 「B:The Beginning」は、渋い中年男性のキース、美少年でどこか陰のある黒羽などキャラクターデザインも魅力的だ。中澤監督は「サムライチャンプルー」「明日のナージャ」「残響のテロル」などさまざまなアニメのキャラクターデザインを手がけてきたことでも知られる。「そもそもギャグアニメをやっていて、美少女アニメもやって、リアルなものもやってきた。自分自身、どれが得意というわけではない。アニメっぽいキャラもリアルなキャラも好きなんですよ」と話す。

 本作の制作を「大変でしたね」と振り返りながらも「試したいことがたくさんあった。日本のアニメもこういうことができるんだよ……と次につながるところもあるかもしれない。やって良かったとは思いますね」と振り返る中澤監督。「どんな物語も大きな物語の一部でしかない。こういう話がこの後、続くんだろうな……と考えながら作っていたところもあります」とも話しており、続編も期待される。

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