写真映像機器展示会が開幕
カメラと写真映像の総合展示会「CP+(シーピープラス)2018」が1日、横浜市西区のパシフィコ横浜で始まった(カメラ映像機器工業会主催)。最大の見どころとなるレンズ交換式のデジタル一眼カメラの分野で、キヤノンとソニーが新しいミラーレス機を投入して展示するなど、主役はミラーレスとなっている。2社の新製品を軸に、今のミラーレスカメラを概観した。【小座野容斉】
2017年の日本のデジタルカメラ出荷台数は、レンズ一体型のコンパクトデジタルカメラ(以下、コンデジ)が約1330万3000台、デジタル一眼が約1167万6000台で、高額なデジタル一眼がデジタルカメラ全体の約47%を占めた。13年では27%だったので、この5年間で大きな変化が起きた。けん引するのがミラーレスカメラで、17年は、一眼レフが出荷台数で前年比89.9%、出荷額で同96.4%だったのに対し、ミラーレスは出荷台数で同129.2%、出荷額で同148.2%と、勢いの差が表れている(いずれも同工業会調べ)。今年のCP+では、ミラーレスが一眼レフをしのぐ存在となったことを象徴するような新機種の登場が相次いでいる。
戦略機種「キス」初のミラーレス…キヤノン
キヤノンは2種類の新しい一眼カメラを発表し、そのうちの1台がミラーレスの「EOS Kiss(イオスキス) M」だ。世界最小最軽量をキャッチフレーズにした銀塩フィルムカメラの初代「キス」発売から25年、デジタル「キス」発売から15年という節目の年に、初めて「キス」の名を冠したミラーレス機を投入してきた。
キヤノンにとって「キス」シリーズは、フィルム時代からの主力商品で、17年では、一眼カメラ入門機種の56%を占めるという(台数ベース、同社調べ)。写真愛好家の間では、プロカメラマン用フラッグシップ機「EOS-1DX系」や、上級者向けフルサイズ機の「EOS5D系」の動向に注目が集まるが、これら上級機以上に重要な戦略ブランドが「キス」だ。一眼レフではトップシェアを堅持する同社が、ミラーレス機に本気で取り組む姿勢を明確にしたといえる。
「キス M」は、エントリー機種として異例の高機能だ。撮像素子はAPS-Cサイズで画素数は2410万画素、最新の画像処理エンジン「DIGIC 8」を、同社のすべての一眼カメラの中で最初に搭載した。オートフォーカス(AF)の測距点は画面の64%で99点、専用レンズなら88%で143点となる。
また、連写性能はAF固定で秒間10コマ、動く被写体を追いながらでも同7.4コマ、さらに人物撮影では被写体の目にピントを合わせる「瞳フォーカス」機能も備えた。より高画質の画像が記録ができるRAW形式では、最新のフォーマットである「CR3」を導入し、レンズ補正機能も搭載した。さらに動画でも4K撮影が可能となった。いずれも同社のミラーレスにはなかった機能だ。
「キス M」のセールスポイントはこれらの高機能に加えて、エントリー機らしい「小ささ、軽さ、価格」のバランスにある。大きさは、11.63×8.81×5.87センチ。厚さを別にすれば、縦横は文庫本(A6判、14.8×10.5センチ)よりも小さい。横のサイズだけなら大半のスマホよりも小さい。重さはバッテリー、メモリーカードを含めて387グラム。ボディーだけなら上着のポケットにすっぽり入る。
専用の「EF-M」レンズは5本しかないが、マウントアダプター「EF-EOSM」を用いれば、一眼レフ用の現行EFレンズの大半が機能制限なしに使える。
価格はオープンだが、店頭での想定価格(税別)は、ボディー単体で7万3500円、15-45ミリズームレンズつきキットは8万8500円。18-150ミリズームレンズ付きキットは12万2500円という。発売は3月下旬と、入学式や花見のシーズンに合わせた。
撮影機能はミラーレス一眼の分野では先鞭(せんべん)をつけるソニーやオリンパス、パナソニック、富士フイルム各社の新鋭機と比べた場合、特に優れているわけでもない。しかし、機能と価格、大きさのバランスが取れており、「キス M」はファミリー向け入門機としてだけでなく、すでに大きく重い一眼レフデジタルを所有している写真愛好家のサブ機としても、手ごろな選択肢となりそうだ。
唯一のフルサイズミラーレス機に三つの選択肢…ソニー
APS-C入門機種を投入したキヤノンとは対照的に、フルサイズミラーレスに注力するのがソニーだ。06年にコニカミノルタからカメラ事業を引き継いだが、13年10月に「α7」と「α7R」を発売以来、国内メーカーとしては唯一、フルサイズミラーレス機を主力商品としてきた。優れた撮像素子の製造技術と映像エンジンを使い、高画質、高感度対応機としての地位を確立してきた。
これまでは美しい花や風景など、いわゆる「花鳥風月」を撮影するのに適したカメラという印象が強かった。しかし、昨年5月に、2420万画素で、ファインダー内の画像が消失せず、AFが動体に追従しながら秒間20コマで連写できる「α9」を投入し、11月には、4240万画素の高画質と、秒間10コマの連写性能を両立させた「α7R III 」を発表。キヤノンとニコンの2大メーカーが占有してきた、スポーツや報道写真への参入をアピールしてきた。
今回ソニーは、キヤノンが「キス M」を発表した翌日に「α7III」を発表した。昨年発売した2機種が、高速連写(α9)、高画質(α7R III)という明確なセールスポイントを持つのに対し、α7IIIは基本的機能を備えながら、想定販売価格を23万円台と抑えたのが特徴だ。フルサイズ2420万画素の撮像素子は、新開発した裏面照射型と呼ばれるもので高画質で、感度もISO204800と高い。AF追従しながらの秒間10コマで撮影し、ボディー内手ブレ補正も備えており、他メーカーの上級機と比べて見劣りするどころか、むしろコストパフォーマンスはきわめて高い。フルサイズミラーレス機を、1年以内発売の最新機種に限っても3種類もユーザーに提供したのはソニーだけだ。
一方で、ボディーの充実に比べ、交換レンズのバリエーションがキヤノンやニコンに比べて少ないのがソニーの弱点だった。しかし、今回のCP+では、心強い「援軍」が登場した。レンズメーカーのタムロン、シグマが、ソニーαEマウントのレンズを相次いで発表したのだ。タムロンはズームレンズ「28-75ミリ F2.8」を開発、今年夏にも発売の予定という。利用頻度の高い焦点距離の標準ズームで、F2.8という明るさが魅力だ。タムロンは03年に同じ焦点距離、同じ明るさのズームレンズを発売し、実売4万円を下回る低価格ながら高いパフォーマンスで、ベストセラーとなったことがある。今回も入手しやすい価格での登場が期待される。
シグマがソニー用レンズ投入
シグマは今回のCP+で、高画質の単焦点レンズ「Art」シリーズの新製品の「105ミリ F1.4」と「70ミリ F2.8」を、キヤノン、ニコン、シグマだけでなく、ソニー用のEマウントでも発売する。さらに従来品の「 14ミリ F1.8」「20ミリ F1.4」「24ミリ F1.4」「35ミリ F1.4」「50ミリ F1.4」「85ミリ F1.4」「135ミリ F1.8」の7本についても、新たにEマウントで発売する。
シグマは今回、ソニーとのライセンス契約を結び、正規仕様書に基づいて製造するため、カメラのボディー内でレンズの収差を補正する機能にも対応するという。ソニーの純正Eマウントレンズは、直近3年で見てもズームレンズの発売の方が多かっただけに、高画質の単焦点レンズの選択肢が一挙に9本も増えるのは、ユーザーにとっては朗報といえるだろう。
シグマとタムロンは、100-400ミリ、150-600ミリという、コストパフォーマンスの高い超望遠ズームレンズを商品ラインアップに持つ。野鳥や鉄道、航空機を撮影する愛好家御用達のレンズで、今後は、これらのレンズのEマウント化も期待したいところだ。
パナソニックはミラーレス4機種
共通の「マイクロフォーサーズ」規格でミラーレスを展開するパナソニックとオリンパス。 昨年は、フラッグシップ機「OM-D E-M1 Mark II」を発表して話題を呼んだオリンパスは、今回は入門機「PEN E-PL9」を発表し、3月9日に発売する。同様に、昨年は最上級機種「LUMIX GH5」を発表したパナソニックは、11月に“静止画フラッグシップ機"とアピールする「LUMIX G9」、今年1月には“動画フラッグシップ機"となる「LUMIX GH5S」を発売した。2月には入門機の「GF10」と中級機の「GX7MK3」を相次いで発表しており、直近4カ月で4機種のミラーレスカメラを発表したことになる。富士フイルムは、APS-Cサイズの撮像素子ながら、フルサイズに迫る高画質と定評のあるミラーレスの最上位機種「X-H1」を2月に発表、3月1日に発売する。
ファンの期待に応える日は…ニコン
ミラーレス機の更新がないのが、ペンタックス・リコーとニコンだ。ペンタックス・リコーは、16年4月に発表したフルサイズ一眼レフ「K-1」を改良した「K-1 Mark II」を、今回のCP+に向けて発表した。新たな画像処理システムで画質が向上したという。現在「K-1」を所有しているユーザーに対しては、有料でメイン基板を交換するなどして「K-1 Mark II」と同じ性能にアップグレードするサービスを期間限定で実施する。
一眼レフやミラーレスのいずれも新製品の発表がなかったのがニコンだ。実は今回、CP+の直前まで、ニコンが「フルサイズミラーレス」を発表するといううわさが流れた。創業100年の昨年は、9月に発売したフルサイズ4575万画素の一眼レフ「D850」が1大ブームを巻き起こし、40万円近い価格にもかかわらず、注文が殺到。供給不足まで招いた。その実績もあるため、「D850の画質を備えたフルサイズミラーレス」を、ニコンファンは求めている。フィルムカメラ時代から常にメインストリームを歩んできた、業界屈指の名門企業は、今後、多くの写真愛好家が寄せる強い期待に応えられるだろうか。